Fabry NEXT
代表 石原 八重子 氏
ファブリー病は特定疾患に指定されているライソゾーム病に含まれる希少難病です。人間の細胞の中にある、特定の1つの酵素が生まれつき少ないために、分解できない物質が体内にたまり、さまざまな症状が現れます。推計では国内患者数約1万8000人(約7000人に1人)とも言われ、治療薬があるにもかかわらず気づかないままの人もいるのが現状です。Fabry NEXTは地域での交流会を活動のベースとし、患者やその家族が情報交換をすることで生活の質を改善していく目的で設立されました。代表の石原八重子さんにお話を伺いました。
活動の状況
発症時期にも症状にも個人差が大きい 遺伝性の希少難病ファブリー病
ファブリー病は、先天性代謝異常疾患のひとつです。遺伝子の異常が原因(X連鎖性遺伝)で子どもに伝わる可能性があります。この遺伝形式では基本的には男性だけに疾患が現れますが、ファブリー病の場合は女性にも発症します。女性には遺伝しないという間違った情報から、医師から治療をしなくてもいいと言われた会員もいます。発症時期も小児から成人までさまざまで、腎・心機能障害、脳血管障害など命にかかわる重篤な症状のある人から、ほとんど症状が現れないという人まで、非常に個人差があります。手足の痛みや、汗をかきにくいという症状もあり、たとえば子どもが熱中症の症状で病院に運ばれ、ファブリー病の診断がついたというケースもあります。
私は43歳で診断されました。眼科のかかりつけ医から、ある日突然「ファブリー病かもしれないので心臓、腎臓が悪くなればすぐに連絡してください」と言われたのがきっかけです。症状のひとつ、角膜混濁があったのです。けれど、どこにも異常はなく、1年後に定期検診に行った時にやはり同じことを言われ、血液検査で診断がつきました。そこで初めて、亡くなった父のさまざまな症状がファブリー病に該当していたことに気がつきました。私も子どもの頃、風邪などで発熱すると手足が尋常ではないほど痛みました。布団が擦れてもつらい。その痛みは父だけが理解してくれました。医師がリウマチを疑ったこともありましたが、熱が引くと痛みは治まる。検査を受けることもなく、ひたすら我慢をするだけでした。
治療方法は酵素補充療法が有効で、足りない酵素を2週間ごとに点滴することで病気の進行を遅らせることができます。その他、症状に合わせて服薬、透析、ペースメーカー手術などの治療が行われることもあります。病気の認知度が低く、症状の出方にも個人差があることから、自分が病気だと気づかないまま生活している人も多くいると考えられています。
全国組織とは別に 身近な地域で患者が集まれる場として発足
「ファブリー病患者と家族の会」という全国組織があり、私も入会していますが、もっと身近な地域で、患者や親が今、悩んでいることや不安を話し合い、情報交換をする場がほしい。それがFabry NEXTをつくるきっかけでした。最初はインターネットの掲示板を利用して交流していましたが、文字だけでは十分に伝わらない。じゃあ、直接会いましょうと、2010年に名古屋市内の喫茶店で初めて集まりました。手作りのチラシを私の主治医にも渡していたのですが、それを握りしめて来てくれた人がいて感動しました。同じ思いを抱いている人がいたのです。
そのうち各地方で交流会が開催されるようになり、その中の札幌、大阪、名古屋のメンバーが話し合って役員となり、情報交換や交流のお手伝いをする団体、Fabry NEXTを立ち上げました。遺伝性疾患なので、団体名に病名が入ることに抵抗のある人もいました。けれど病名を知らず診断がつかなかったという私自身の経験から、啓発の願いを込めて入れることにしました。“NEXT”の部分は、未来に進むという意味を込めて主治医が提案してくれました。
難病相談支援センターにも協力を呼びかけ 地域交流会を実施・サポート
全国10ヶ所で今までに、地域交流会が開催され、ネットワークが広がっています。Fabry NEXTでは交流会開催のために、各都道府県の難病相談支援センターに協力を呼びかけています。「人数は少ないけれど、きっと交流を必要としている人がいる」と伝えると、中には会場手配から案内など全面的に協力してくれる県もあります。現在、定期的に開催しているのが仙台、東京、名古屋、大阪、岡山の5地域。交流会はオープンでだれでも参加できます。センターの方はもちろん、保健師さん、企業の方、地元の支援活動をしている方などもいます。患者同士でしか話せないこともありますが、そのための場は必要な時につくればいいと考えています。立場の違う人の話は患者側にとっても大変参考になっています。
また、オフ会として、名古屋市内の病院の喫茶店で毎月第2木曜日に“場”をつくっています。「患者や家族が気軽に集まりおしゃべりができる。その日の体調で来られない人もいるので申し込みもなしにして、いつ来てもだれかがいるように。だれも来ない日があってもいい。場だけは確保しておきたい」という思いで続けています。 これらの案内や交流会の内容、QOL(生活の質)を高めるための情報などは、ホームページのほか、会報誌『Fabry NEXT通信』を年3回発行し、発信しています。
VHO-netや難病連などを通じて 人とのつながりを深め活動に反映していきたい
団体の歴史も浅く、運営面ではわからないこともたくさんあるので、さまざまな研修会や学会などに出向くようにしています。同じライソゾーム病のひとつ、ゴーシェ病の患者団体の方からVHO-net のことを聞き、インターネットで東京でのワークショップ開催を知りました。事務局に問い合わせたところ、まずは地域学習会に参加してくださいということで、東海学習会や関西学習会にも参加し、今年は念願のワークショップにも行くことができました。「すごいところだなぁ」というのが第一印象で、疾患が違ってもこんなに共有・共感することができるのだと、大きなパワーを感じました。人と会うことで得られるものがたくさんあると実感しています。
ファブリー病は人数が少ないからこそ、一人ひとりの経験がとても貴重です。症例、地域の病院、薬のこと、食事のことなどの情報交換で自分のもつ情報が役に立つ。そして何より同じ病気の人が近くにいることが心強いのです。希少難病というくくりで集まるという方法もありますが、私たちはまだその前の段階にあるように思っています。患者数が少ないなりにも同病者の集まりをつくり、増やしていく。他の団体とも協働していくための補助ステップのようなものです。そこを経て、もっと先に行けるかもしれないと考えています。2014年7月には愛知県難病団体連合会にも加盟しました。VHO-net も含め、どんどん参加し、吸収しながら、何ができるのかを探っていきたいと思っています。
組織の概要
■Fabry NEXT
■設 立 2011年
■会員数 26人
主な活動
■全国の地域交流会の開催とお手伝い
■会報誌『Fabry NEXT通信』発行(年3回)
■ホームページの管理運営
■セミナーへの参加、他団体との交流
■オフ会の開催