社団法人 全国腎臓病協議会
事務局長 俣野 公利 氏
すべての腎臓病患者の医療と生活の向上を目的として、1971年に設立された社団法人 全国腎臓病協議会(全腎協)。会員数が10万人を超える日本最大の患者団体であり、2011年には結成40周年・法人設立15周年記念全国大会が開催されました。その歩みの中で、人工透析医療費負担の大幅軽減など多くの成果を勝ち取ってきた全腎協は、この40周年を機に新たなステージへと踏み出そうとしています。
活動の状況
腎臓病患者の命をつなぎ制度を勝ち取ってきた40年の歴史
腎臓機能の低下によって起こる腎臓病は、症状が慢性化すると人工腎臓を使って血液中の老廃物や余分な水分を除去する、人工透析治療を余儀なくされます。1967年、透析医療は健康保険の適用となりましたが、依然として、高額医療なうえに当時は人工腎臓の普及途上でもあり、誰もが受けられるわけではありませんでした。いわゆる「金の切れ目が命の切れ目」という悲劇の時代です。これらの状況を受けて、全国各地で患者団体が誕生。1971年に全国組織として全国腎臓病患者連絡協議会(現・全腎協)が結成されました。
全腎協は国に対し緊急要求を提起して、人工透析費用の全額公費負担や透析患者の身体障がい者認定、人工腎臓の全国的整備などを要請する運動を展開し、次々と成果を勝ち取り、患者の命をつないできました。今日では誰でも・いつでも・どこでも透析を受けられるようになりました。費用も全額公費ではないものの、大きな負担は解消されています。
全腎協は病院単位の患者会を基本に都道府県単位の患者会、そして全腎協という組織体制で全国ネットワークを構築しています。
東日本大震災での迅速な対応と新たな課題の発掘
東日本大震災では、宮城県腎協に災害対策本部を設け、支援対策に取り組んできました。私たちは阪神・淡路大震災の教訓を基に、何が起こっても人工透析が受けられるよう、日本透析医会とも連携しながら、体制を整備してきました。今回も迅速に対応でき、ネットワークが機能したと思っています。しかしながら実際に現地で話を聞くと、避難所での食事の問題、透析施設に車で行くにもガソリンがないなど、さまざまな課題が浮かび上がってきました。また、各県の腎協を通して、行政に公営住宅の提供を要請し用意はしたものの、関西以西の供給先にはほとんど希望者がいませんでした。やはり仕事・家族・周囲の人との関わりなど、地域での生活を大切にする思いが強い。けれども被災地の会員の方々が、「とてもうれしかった。最終的に受け入れてくれる環境があるという安心感があり、それならもう少し地元で頑張ってみようと思えた」とおっしゃった時には、こちらも無駄ではなかったと安堵しました。
最適な透析から※至適透析へよりよい透析治療を目指す
※至適透析(至適な透析)
ここでは、透析時間の延長や夜間透析に対応できる施設の増設、通院支援の充実など、治療面、生活面で、「最適」よりさらに質の高い透析医療環境を意味しています。
全腎協の会員は現在、約10万2000人です。ピーク時よりも約1000人減少しています。2010年の会員アンケート調査では、今の医療・福祉制度に満足している/ほぼ満足していると答えた人が、全体の76%を占めました。近年、発症した人にとっては、人工透析が受けられるのはほぼ当たり前の環境なのです。そうなると、会員になって休日のイベントに参加しようという気にはなりません。
40周年記念大会の基調報告でも発表されたことですが、設立時に掲げた緊急要求はほぼ達成され、次の新しいステージに向かっていく時期が来ています。日本は世界有数の透析大国であり、その治療レベルは世界最高水準とも評されています。それでも、透析患者の平均余命は健常者の45%というデータがあります。80歳を平均寿命として40歳で透析を導入すると、健常者ならあと40年生きるところを20年弱しか生きられない、ということです。もちろん個人差はありますが、まだまだ透析医療の改善の余地があるということです。
また、かかりつけの施設以外での透析では、何週間も前の予約や医療データを事前に知らせておく必要があります。たとえば出張が急に1日伸びても、携帯電話で近くの施設が検索でき、医療データも携帯電話で送信できる。そのようなシステムを全腎協でつくることができれば、入会の大きなメリットになると思います。厚生労働省のガイドラインでは今、透析は1週間に3回、各4時間となっていますが、1時間でも長く受ける方が身体の調子がよいというデータも出ています。これまでは日常生活に支障が出ない“最適な透析”を目指してきましたが、さらに進んで“至適な透析”を推進していきたいと考えています。
原疾患の変化や認知症問題他団体と連携した対策を
新しいステージを目指すさらなる背景には、透析に至る原疾患の変化があります。日本透析医学会が統計を取り始めた1983年から15年間は、慢性糸球体腎炎が首位でした。これは小・中学校での検尿などによる早期発見が功を奏し、年々減少しています。ところが、生活習慣病である2型糖尿病から透析に至る糖尿病性腎症は増加の一途をたどり、1998年には首位が逆転しました。こうなると、糖尿病の予防が透析患者を減らすことにつながってきます。もうひとつ、透析患者の高齢化があります。1983年時点での平均年齢は48歳、2010年では66歳です。なかでも認知症問題が深刻で、認知症施設の入所者が透析になれば退所させられたり、透析患者が認知症になった場合、施設に入所できないなどのケースが出ています。高齢者の通院支援も強化していかなければなりません。
原疾患の変化や患者の高齢化―40年の歴史の中で、これだけ構造が変われば、活動も変わらざるを得ない。糖尿病や認知症などの患者団体と連携する道を模索していく必要があると思います。先人たちが勝ち取ってきた社会制度によって、腎臓病患者の命の安全・安心は確保されました。これからの全腎協は、現代の新たな課題に取り組んでいかなければならないと強く感じています。
組織の概要
社団法人 全国腎臓病協議会
■設 立:1971年
■患者会:全国に約2700の腎友会
■会員数:約10万2000人
主な活動
■シンポジウムや講演による普及啓発活動
■腎臓移植普及のためのキャンペーン活動
■国会請願署名運動
■全国大会の開催(年1回)
■血液透析患者実態調査
■行政・政党への要望活動および政策提言
■会報誌『ぜんじんきょう』(年6回)、その他刊行物の発行
■通院介護支援事業
■無料電話相談事業
■就労支援事業