活動レポート第5回(2005)
医学教育に患者団体の声を組み込んでもらおうという取り組みが各地で行われてきています。また、地域を越えた実質的なネットワーク作りの活動も盛んになってきています。「よりよい医療への推進」には、医療従事者と患者との連携、患者間の連携が欠かせません。今回の取材から、さらに一歩進んだ活動が伝わってきました。
全国難病センター研究会 第4回研究大会 in 東京(3月26日)
難病センターの課題を研究し、 地域を越えた難病支援ネットワークづくりをめざす
全国難病センター研究会の第4回研究大会が東京(東京こまばエミナース)で開催されました。全国難病センター研究会は、平成15年から約3年間に各都道府県に整備される予定の「難病相談支援センター」について、その理想的なあり方や効果的な運営方法、スタッフの配置と研修、知識と技術の習得など、これを利用する立場から包括的に検討し、都道府県や厚生労働省に提言し、この事業の効果を検証しようとする研究会です。また、並行して、医療、福祉、行政関係者、患者・家族団体など、難病支援に関心をよせる者が一堂に会して活発に議論することによって、地域を越えた実質的な難病支援ネットワークを作っていくことも大きな目的としています。
研究大会ではまず、厚生労働省健康局疾病対策課から「難病相談支援センター全国整備の現状と課題」として、現在ほぼ半数近くの都道府県でセンターが開設されているが、進捗状況については地域差があるとの報告がありました。さらに、すでに開設された難病センターの関係者や疾病団体から、難病支援センターの現状報告や問題提起などの発表がありました。
今回は特に、難病相談支援センターの大きな役割として期待される雇用の拡大、安定した就労環境の整備、企業の受け入れ基盤整備など「難病患者の就労」に焦点をあてて検討が行われ、特別講演では、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センターの春名由一郎氏が、労働分野と医療分野の密接な連携により新しい取り組みを行っていきたいと述べました。
第4回ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会
関西地域学習会 in 大阪(5月14日)
患者の声を医療に「より具体的な方針を決定」
関西地域学習会(会の目的を考え「交流会」から名称を変更)の活動の一環である、“医学教育のカリキュラムに患者団体の声を組み込む”をテーマに、10団体12名が参加しアピオ大阪にて開催されました。最初に大学の医学部や学会などでの講演も多い、インフルエンザ・脳症の会「小さないのち」代表の坂下裕子氏が疑似講演を行いました。画像の使い方や効果的な話し方、学生たちの感想の集め方など、実体験を通して得た経験やアイデアを紹介。話す対象が医学生か看護学生か、またその年次、さらに講演者が患者本人か遺族かなど、さまざまなケースで話す内容や発表の工夫が必要との意見が交わされました。これを受けて後半のディスカッションでは、今後の講演内容のテーマを検討しました。その結果、根底には「医療者と患者のコミュニケーション」を踏まえつつ、(1)セルフケアグループの立ち上げ支援(医者から自立した患者会、医療者自身のセルフケアグループも含む)、(2)小児疾患・慢性難病疾患(就学・就労・発達段階も含む)、(3)ピアサポートの価値(グリーフケアも含む)、(4)出生前診断(遺伝性疾患も含む)の4つに絞り込まれました。(1)~(4)の各テーマで、該当する、もしくは関われる団体が、依頼者のニーズと照らし合わせた講演を実施していく。そのために今後の学習会で練習を兼ねて発表し、全員で検討しながら情報を蓄積し、より効果的で適切な講演につなげていく方針を決定しました。
NPO法人メノポーズを考える会12周年記念
「第12回メノポーズフォーラム」in 東京(5月21日)
多彩なプログラムで、更年期世代の美しい健康づくりを提案
5月21日、NPO法人メノポーズを考える会主催により「第12回メノポーズフォーラム」が、東京(女性と仕事の未来館)において開催されました。今回は「メノポーズを考える会」発足10周年記念として、「見て・聞いて・体験する 女性の美と健康」をテーマに、更年期健康講座や骨密度・脳年齢測定、アロマセラピー・メイク講習など多彩なプログラムが繰り広げられました。
更年期健康講座では、弘前大学医学部産科婦人科教授水沼英樹氏による講演「元気に過ごす更年期と骨の健康」、フィットネスの専門家・山岡有美氏による「今すぐ変わる!美しい姿勢と歩き方」の実演、小山嵩夫医師による講演「知っておきたいプレ更年期~漢方・ピル・サプリメント」、料理研究家藤野真紀子氏による講演「日々の食事で楽しくアンチエイジング~簡単美スイーツなどの提案」が行われました。
「メノポーズを考える会」は、30代後半から生涯にわたる女性の健康づくりについて、一般女性の視点で健康管理の維持・向上・増進をはかり、医療機関・行政への改善の提案を行うことを目的とする、提案型の非営利団体です。1996年の設立以来、全国各地の会員の生の声、意見を集約・分析し、社会に発信しており、これまでにフォーラム・電話相談活動に参加した更年期世代の女性は延べ1万人を超えています。今回も、単に更年期障がいの対症療法を考えるだけでなく、生活そのものを包括的に見直し、いつまでも健康的に美しく歳を重ね、更年期を前向きに元気に過ごしたいと願う女性たちの熱気と元気が伝わってくる有意義なフォーラムとなったようです。
国際医療福祉大学大学院 「乃木坂スクール」in 東京(4月~7月)
「患者の声を医療に生かす」講座開講
国際医療福祉大学大学院では、医療に従事している専門職で専門分野の再教育を希望する人、医療に関心があり最近の医療事情を学びたい人、企業で医療関連の仕事に携わっている人などを対象に、「乃木坂スクール」を開講しています。講座としては、専門職としての向上と臨床技術のスキルアップを目指す人のためのものと、これからの医療と福祉を考える人のためのものに大きく分かれています。後者において2005年4月から7月の計13回コースで「患者の声を医療に生かす」という講座が行われましたので、5月26日の講座を取材しました。講師陣は患者の立場から医療界や社会に向けて積極的に活動を展開されているヘルスケア関連団体の方々。大熊由紀子国際医療福祉大学大学院教授の司会で、この日は、低身長児・者友の会「ポプラの会」の星川桂氏、「再生つばさの会」の関つたえ氏、「MSキャビン」の中田郷子氏の3人が講師を務めました。
疾患だけでなく患者のことを考えて説明してほしい
その日のテーマは「納得できる説明とは?」で、医療者側は十分に説明したつもりでも患者側からすればまったくすれ違いに終わっていることに関して、3人の講師が各自の経験からの思い、考えを発言しました。
まず星川氏は、自身のつらい体験から「エリートとして育ってきた医師には、自分の発言によって患者の気持ちがどのようになるかがわかる人が少なかったのではないか」と話し、医療従事者には「自分の発言を患者さんがどう感じるかを十分に考えたうえで話してほしい」と述べました。
関氏は、28歳の時に再生不良性貧血を発症し、「娘がいなければ病院の窓から飛び降りていたかもしれない」というほど、つらい内容の告知を受けた経験を述べました。現在は、患者の会のメンバーに「自分自身の病気をよく理解し、どのように治療していくものなのかを知ってほしい」と考え、全国を飛び回って各地の専門医による講演会を開催しているそうです。ある地域の医師の講演が「この病気はおいしいものを食べて寝ていればいいのです」で終わり、どうして病気の内容をきちんと患者に話ししてくれないのだろうか、骨髄移植の話をどうしてしてくれないのかと悲しくなった経験や、しかしながら患者のことを理解して会の顧問を引き受け、さまざまなバックアップをしてくれている東京女子医大・溝口秀昭氏のような医師も存在することが、活動の大きな支えになっていると述べました。
中田氏は20歳で多発性硬化症と診断されたときに「あなたは車椅子での生活になります」との医師の言葉をそのまま受け入れ、車椅子の生活を行うようになったが、その後、症状が悪化することはあっても今は車椅子を使わずに生活していると述べました。また医師に希望することとして「完璧に説明したと思っても、患者側が誤解していることはよくあること。常に患者が理解しているかを確認してほしい」と話しました。さらに、MSキャビンのメンバーの「医師の説明一つで天国にもいけるし地獄へもいける」との話に、自分を重ね合わせ、そのとおりだと感じたと述べました。
受講者からも、患者会を医療に生かす有意義な意見が
こうした患者の立場からの発言を受けて、元保健所勤務の受講生は「医師が患者会を患者さんに紹介することは医療行為にあたるのではないか。紹介することで保険点数がつくようになれば、患者会にとってもいいように思う」と発言しました。また、医科大学の図書館勤務の受講生からは「患者会が作成している病気の説明パンフレットは、現状では保健所で埋もれてしまうケースもみられる。今後は医学部の図書館でそろえ、医学部の学生がいつでも見られるようにしていきたい」との意見も出て、患者会を医療に生かす方法が受講生からも語られる有意義な講座となったようです。。
(社)全国脊髄損傷者連合会 第4回全国総会香川県大会in香川(5月26~28日)
多彩なプログラムで、更年期世代の美しい健康づくりを提案
全国に46支部を有する全国脊髄損傷者連合会(略称‥全脊連)の全国総会が200名近くの参加者を得て高松市で開催されました。冒頭、妻屋明理事長が、厚労省が進める障がい者自立支援法において、市町村に設置される認定委員会のメンバーに当事者を参画させようと主張。その後、香川県仏教会副会長、真宗興正派・専光寺住職、佐々木安徳氏が「一所懸命から精一杯」と題して講演を行いました。午後からの総会では、ピアマネージャー(脊髄損傷者に特化したケアマネージャー)養成研修事業や会員増強など組織強化のための事業活動、諸問題の厚労省との交渉状況などが報告されました。その後、労災ホームヘルパー養成事業の全脊連への委託や介護(補償)給付アップなど、さまざまな要望や課題について事務局と会員との間で盛んな質疑応答が行われました。平成17年度の事業計画では、障がい者自立支援法の問題点の洗い出し、地方分権の進むなか行政サービスの地方格差の広がりを懸念した支部と本部の共同体制の強化、スポーツ振興では「日本ハンドサイクル協会」の立ち上げに向けて抱負などが発表されました。
日本難病・疾病団体協議会 第1回総会 in 東京(5月29日)
全国難病団体連絡協議会、日本患者・家族団体協議会の統一組織結成
5月29日東京(東京グランドホテル)において、「全国難病団体連絡協議会」と「日本患者・家族団体協議会」による統一組織、「日本難病・疾病団体協議会」が結成され、第1回総会が開催されました。
全国難病団体連絡協議会(全難連)は、我が国の難病対策が始まった1972年以来、難病対策の充実・発展をめざす活動を続けてきた団体です。一方、日本患者・家族団体協議会(JPC)は、全国の患者団体が結集して開かれた「ゆたかな医療と福祉をめざす全国患者・家族集会」を契機とし1986年に結成されて以来、我が国の患者運動のナショナルセンターをめざす組織として幅広く活動してきました。
全難連、JPCの両団体は、医療・福祉全般の後退と自己負担の拡大の傾向が強まる中で、2002年に「国民に負担を押しつける医療制度改革反対 難病患者、障がい者、高齢者が安心して暮らせる社会の実現を 3・28全国患者・家族大集会」の共同開催以来、共同行動をつみ重ね、今回統一されることとなりました。新組織は、患者・家族のお互いの励ましと助け合いを基本とし、連帯の輪をより大きくし、団結をいっそう固めると共に、さらに国内で活動を展開している多くの患者・家族団体に広く参加を呼びかけ、我が国の患者・家族団体活動(当事者運動)を代表するナショナルセンターを実現させることをめざしています。「日本難病・疾病団体協議会」の誕生は、将来に向けて多くの団体が互いの立場を越えて手を携え、医療と福祉、社会保障の基本的な変革と発展に取り組む、日本のヘルスケアにとって大きく新しいステップと言うことができそうです。
代表:伊藤たてお氏/副代表:石井光雄氏、栗原紘隆氏、野原正平氏
伊藤代表は、推進していかなければならないことはたくさんあるが、今後の社会保障を考えていくうえで、この結成が患者サイドからの新しいステップになる。将来に向けて、病気や障がいによる区別や差別のない、社会を作っていくために提言していきたい。医療と福祉をトータルで考えていける連合体にしていきたいと述べました。