「障がい者や高齢者のニーズから出発する」を モットーに、研究・開発を展開
兵庫県立 福祉のまちづくり研究所
JR明石駅からバスで約15分。広大な敷地に建つ兵庫県立総合リハビリテーションセンター[指定管理者:(社福)兵庫県社会福祉事業団]の組織のひとつに位置づけられる、兵庫県立福祉のまちづくり研究所。街や住宅のバリアフリー、障がい者や難病患者のための福祉機器の開発、介護・リハビリテーション技術の普及・啓発など、全国でもめずらしい、幅広い視野と専門性を兼ね備えた研究施設です。主任研究員の北川博巳さんと橋詰努さんにお話を伺いました。
設立の背景や経緯を教えてください
福祉のまちづくり研究所(以下、まちづくり研究所)は、兵庫県が1992年、全国に先駆けて制定した福祉のまちづくり条例を具現化するために、1993年に開設されました。当初は「福祉のまちづくり工学研究所」で、おもに工学的な観点からユニバーサル社会を実現していく研究開発が目的でした。高齢化社会などに対応するため、2009年に研究体制を再編し、現在の名称となりました。情報の収集・発信を行う〈企画情報課〉、安全・安心のまちづくり支援などの研究を行う〈研究第一グループ〉、リハビリテーション支援技術や補装具の研究制作を行う〈研究第二グループ〉、そして〈家庭介護・リハビリ研修センター課〉の4つの課があります。土木、機械、システム、生体工学、都市計画、医療、保健、福祉など、さまざまな分野の専門スタッフが実践的な研究開発、技能研修や人材育成研修を実施。兵庫県からの受託事業、助成金事業など、現在16の経常テーマが進行し、企業や大学と連携しながら取り組んでいます。
研究開発のテーマはどのように決定するのですか障がい者の声も届いていますか
開設当初からの理念として、「地域に学ぶ・障がい者に学ぶ・高齢者に学ぶ」を掲げてきました。1995年の阪神大震災後、兵庫県では、社会基盤の整備に当事者参加という気運が高まりました。ゼネコンや設計者だけに任せず、復興計画に地域の人や障がいのある人にも入ってもらい、意識を共有していこうというものです。私たちも技術が出発点ではなく、まずニーズを念頭に置いています。たとえば視覚障がい者のバリアフリーでは、長らく先天盲を想定して取り組んできました。ところが、網膜色素変性症など後天性の、見えにくいという方たちの話を聞くと、夜盲症が進むために夜の外出が困難になると。そこから、道路面に光を照射してマークをつくる〈LED誘導システム〉を開発しました。〈リウマチ患者用作業いす〉は、「完全に座ってしまうと立ち上がるのが困難。“ちょいがけ”ができ、室内で小回りがきく椅子を」という声から生まれた製品です。障がい者団体や患者団体の方々にモニター協力をしてもらうこともあります。まずは個人のニーズに応えて試作し、そこから汎用性を探り、検証し、企業や大学との共同開発で製品化するという流れが基本になっています。
ニーズはどのようにしてキャッチするのでしょうか
行政窓口からの呼びかけもありますが、直接、持ち込まれることが多いですね。当館1階の「福祉用具展示ホール」に来館し、こんなことで困っているというスタッフへの相談から、また総合リハビリセンターには中央病院や自立生活訓練センターなどもあり、看護やリハビリスタッフとの勉強会でキャッチすることもあります。1993年に企業と共同開発した「インテリジェント大腿義足」は世界初のマイコン制御式義足膝継手で、身体障害者福祉法で認定され世界的なヒット商品となりました。そのことから特に義肢装具は全国から問い合わせや改良などの意見が寄せられます。もちろんこのような成功例ばかりではなく、製品化されてもなかなか売れないケースも多々あるのです。採算ベースにのらなければ企業は撤退し、必要としている人のもとに届きません。研究・製作の次のステップ、PR活動、購入時の補助金対象商品にまでもっていく戦略が必要です。
情報発信や啓発のために、どのような事業をされていますか
まちづくり研究所は“開かれた研究所”として、兵庫県や他県の方々との交流を図っています。市民参加のイベント『玉津どきどきフェスティバル』を年1回開催し、2011年は車いすやリフトなどの展示をテーマに、模擬店やさまざまな体験コーナーを用意し、たくさんの人で賑わいました。公開講座も行っています。当館にある多目的実験室に坂道や段差をしつらえ、車いすを体験してもらう講座では、子どもを含めた一般市民、そして道路建設会社の方々にも呼びかけました。私たちは「つくる」「使う」だけでなく、「気づく」ことも、とても大切だと思っています。体験することで当事者の不自由さに気づく。そこから思いやりのある社会が築かれていくと考えています。
これからの取り組みや抱負をお聞かせください
製品開発後のPRも含めて、どのようにして普及させていくかが、大きな課題です。たとえば、小児筋電義手の場合、先天性の上肢欠損児は自分なりに訓練し、特に不自由と感じずに暮らしているケースもあります。私たちはバイオリンに着目し、弓を引いて演奏する楽しさを体験してもらい、コンサートを開いて、マスコミにも取り上げられました。早い時期から義手を使い始め、成人しても継続して使っていく。それが普及につながります。これまでに開発した製品も含め、市場に出て実用化されるための知恵を絞っていきたいと思っています。
都市部だけでなく、郊外や地方部の生活課題も多く出てきています。バリアフリーの整備に加え、移動交通手段などの支援環境づくりなど、高齢者も視野に入れた対策が必要です。今、取り組んでいるのは、元気な高齢者の健康を維持していくための研究です。メタボ対策として、自分の体型を実際に見て、体脂肪を計り、どのような運動をどれだけすると効果的かを可視化・メニュー化していくものです。高齢化社会という大きな流れを受けて、まちづくり研究所の研究テーマは、さらに広がっています。
兵庫県立 福祉のまちづくり研究所
兵庫県神戸市西区曙町1070
(兵庫県立総合リハビリテーションセンター内)
電話 078-927-2727
福祉用具展示ホール
●開館日:祝日・年末年始を除く毎日
●開館時間:午前9時〜午後5時30分
●相談日:月〜金曜