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患者の声を医療に生かすことで、
患者不在の医療を変えることをめざす

患者の声を医療に生かすことで、患者不在の医療を変えることをめざす

NPO法人 楽患ねっと

「楽患ねっと」は、患者とその周囲をつなぎ、応援するとともに、患者の声を医療に生かすことで、日本の医療をよりよくしたいと考える団体です。最近は、医療における患者の意思決定をサポートする医療コーディネーターの養成なども手がけ、新たな取り組みを展開する「楽患ねっと」の活動について、理事長の岩本貴さん、副理事長の岩本ゆりさんにお聞きしました。

NPO法人楽患ねっと 
理事長:岩本 貴 副理事長:岩本 ゆり

「良くなりたい・知りたい・つながりたい」という思いに応えて

患者の声を医療に生かすことで、医療の現場の限界を超えて患者不在の医療を変えようと、看護師や研究者、一般市民が集まって立ち上げたのが「楽患ねっと」です。特に、患者さんの「良くなりたい・知りたい・つながりたい」という思いを大切に活動しているのが特徴です。

最初に手がけたのは、インターネットでの患者団体の紹介です。希少疾患の場合には患者団体がないことが多いので、情報共有の場としてメーリングリストを作り運営しています。中にはメーリングリストから発展して患者団体となったケースもあります。

次に、患者さんの本音や声を社会に発信していこうと「いのちの授業」を始めました。患者さん本人や家族を病気で亡くした経験のある人が、その実体験を通して感じた「いのち」にまつわる様々な思いを小中学生や医療者、一般向けに講演するというものです。また、一般企業や製薬会社、メディア、看護系雑誌などの依頼でマーケットリサーチも行っています。医療の当事者でありながら医療業界に伝わりにくい患者さんや家族の声を、市場調査を通じて伝えていきたいと考えています。さらに患者さんの声を医療そのものに還元し、患者本位の医療を実現するために「360度カンファレンス」という医療実践者全員がケアについて考える勉強会を行っています。

そして今、活動の中心となっているのが、患者さんが自分らしく納得のいく治療や療養を選択できるように支援する医療コーディネーターの養成と認定です。5年以上の看護師経験を条件とし、患者団体の方などの協力を得て面接を行い、資質を認めた人に研修プログラムを受けてもらい、医療コーディネーターとして認定しています。私たちが考える医療コーディネーターとして重要な資質は、まず短時間で相手の本音をひきだせる「信頼感」と「多様性の理解」です。医療コーディネーターは「治す」のではなく患者さんが納得することを目的にかかわるので、人それぞれによって異なる納得の仕方を受け入れられる「多様性の理解」が必要なのです。また、他に何か方法はないかと考える「想像力」や医療機関に問い合わせたり調べたりする「実行力」もチェックするようにしています。

医療コーディネーターを核に、活動を拡大

昨年秋からは、認定医療コーディネーターによる1回15分の無料電話相談も実施しています。15分あれば、「セカンドオピニオンをとりたい」「医師にどう話したらいいか」というような一般的な相談には答えることができます。相談内容は、セカンドオピニオンに関することや、医師からの説明に納得がいかない、診察の際に不安や質問を伝えられないなど医療者とのコミュニケーションの問題が多く、客観的な立場から整理していくと納得される方も多いようです。また、活動の一環として、医療コーディネーターと同種のサービスを医療保険の付帯サービスとして取り組みたいという生命保険会社に協力し、看護師の訪問サービスに関する商品開発に携わりました。

今の医療のシステムでは、患者さんの悩みを解決できない現状があります。難しい医療用語の解説や氾濫する医療情報の中からの的確な情報提供、そして治療法や治療環境を探り患者さんの側に立ってケアしていく存在として、医療コーディネーターの必要性を強く感じています。

患者さん自身が自らの病を理解し、受け止め、治療法の選択肢や、治療開始後の標準的な経過などを知り、「自分らしく生きたい」「納得した医療を受けたい」という要望に応えられる社会になるように、医療コーディネーターの活動を始め、さまざまな面で患者さんのヘルスリテラシーを高めるようなサポートをしたいと考えています。

実践的な活動を行う株式会社も発足楽患ナース株式会社

楽患ねっとでは対応できない、医療コーディネーターによる個別のきめ細かいサービスを行うのが、楽患ナース株式会社。医療コーディネーターであり、看護師でもある岩本ゆりさんが中心となって活動しています。

看護師として働いていたときに、患者さんの不満は漠然と感じていたのですが、何に不満を感じているのか、何をどうサポートしていけばいいのか、具体的にわかりませんでした。また、患者さんに聞いてみてもケアする側とされる側という関係では本音は聞けませんでした。病院を退職してから、個人として患者さんの本音を聞き、医療者とのコミュニケーションに問題があることを痛感しました。そして患者さんは問題があっても不利益になることは言えないし、それ以前に何を訴えていいかわからない人も多いということがわかったので、看護師の資格を生かして、患者さんが医療に何を求めているかということを整理してサポートし、医療者とのコミュニケーションを手伝いたいという思いを形にしたのが医療コーディネーターです。

2003年から個人事業として、患者さんの自宅へ伺って家族の方も一緒に面談したり、病院へ同行したりというような活動を有料で行っていましたが、「楽患ねっと」では行える活動に限界があり、同じような活動に取り組みたいという看護師の仲間も増えてきたので、楽患ナース株式会社を立ち上げました。現在、医療コーディネーターは札幌、静岡、埼玉、東京、神奈川、名古屋、大阪、鹿児島など全国に19人認定し、各地で活動しています。首都圏の医療コーディネーターは、楽患ねっとの無料電話相談にも協力しています。

医療コーディネーターがかかわることにより、医師と患者さんとの相互理解が深まり、患者さんがより正しく現状を把握し、ひいては主体的に自分らしく納得のいく治療・療養の選択できることを促進したいと考えています。