研究者として独自の立場でVHO-netにかかわり、自由な発想で自らの研究テーマにも取り組む
地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター研究所
島田 千穂 さん
島田千穂さんは、心理学、保健学、社会福祉学とさまざまな分野の研究に取り組む一方、ヘルスケア関連団体ネットワークの会(以下、VHO-net)の活動がスタートした数年後よりVHO-netと密接にかかわり、ワークショップ準備委員や関東学習会運営委員を務めています。VHO-netでのさまざまな出会いや気づきによって、研究者としても成長してきたという島田さんに、VHO-netとのかかわりや期待、そして現在取り組まれている研究との関係について語っていただきました。
まず、VHO-netの活動に参加することになったきっかけを教えてください
2005年に国際医療福祉大学大学院で講師を務めていた時に、当時の開原成允大学院院長が発案された「患者の声を医療に生かす」(社会人コース・乃木坂スクール)という講座の企画運営に携わりました。患者さんが講師となり、当事者がどんな問題意識を持っているのか、患者団体が医療において果たす役割について医療従事者が学ぶ講義でした。その患者講師を探している時に、ファイザーの喜島智香子さんを通じて、VHO-netに参加している患者団体のリーダーの皆さんを紹介してもらったのです。そして、講義の準備としての打ち合わせ会で皆さんと話し合ううちに、患者団体についてのイメージがずいぶん変わりました。それまでは当事者同士の癒しの場であり、社会とのかかわりに前向きであるという印象は持っていなかったのですが、皆さんが広い視野を持ち、社会とのつながりの中で組織として活動していることや、医療従事者と対等な立場で医療をより良くしていこうとするスタンスでいることを知ったのです。その存在に大いに興味を抱いたことから、その後、VHO-netのワークショップに参加しました。オブザーバー的な立場での参加でしたが、患者団体のリーダーが集うその場のエネルギーや、出会ったことのないパワーのある人たちに驚くとともに、強い関心を持ちました。
その後、ワークショップ準備委員や関東学習会の運営委員となり、継続的にVHO-netにかかわって活動されていますね
ちょうどVHO-netの活動が、リーダー同士の内向きの分かち合いの時期から、視野を広げて医療者との関係性などを考えていこうと変わってきた頃でした。また、第三者的な立場の声が必要だと認識されてきた頃でもあったので、私も参加しやすかったのだと思います。
ただ、どういう立場で参加していくべきなのか、その距離感やスタンスについてはずっと悩んでいました。研究者といっても、患者団体のあり方を研究しているわけではないので、当事者を主体にした活動に第三者という立場でかかわることは難しいと感じています。どこまで意見を言うべきかや、出過ぎたり引き過ぎたりといった立ち位置のバランスの難しさを感じてしまい、かかわるのをやめた方がうまくいくのではないかと思ったこともあります。しかし、多くの方と出会い、次第に人間関係が育まれ、運営委員になっていた関東学習会の活動も軌道に乗り、難しさはあるけれど皆さんとかかわり続けたいと思うようになってきました。
VHO-netのあり方や特徴をどうとらえていますか
VHO-netでは、誰かがリーダーシップをとって引っ張るわけではなく、世話人会やワークショップ準備委員会で話し合っているうちに方向性が定まったり、課題を解決に向けて話し合ううちにネットワークの意義が生まれたりします。その結果として、活動が広がったりもしますが、広がり過ぎた時は自然に縮小する方向に向かう点が興味深いですね。また、ファイザーさんとかかわり、社会的な視点やルールを持ち込んだことで、それぞれの団体としての意見や価値観はひとまず置いて、VHO-net全体では社会との接点をどう作るか、ネットワークの意義をどう構築していくか、というところに活動が焦点化されてきたことも良かったと思います。メンバーの皆さんは、自らの団体の活動や、自らの大切に思うところは守りながら、VHO-netと上手にかかわっている気がします。
VHO-netの特徴は、ひとつの目標に向かって方向性を決めるのではなく、お互いに切磋琢磨しながら意見交換を行ない、より良い医療や生活のために活動する、賛同できない人がいてもそれはそれで良しとするところです。医療者も患者団体もフラットな位置づけで、違う意見が出てきても、真っ正面から立ち向かうのではなく、そういう考え方もあると受け入れる。そんな緩やかなつながりのネットワークであるところが良いのだと思います。昨年、「地域学習会5ヶ条」を作りましたが、活動内容ではなく、多様性を大切にするからこそ、活動の仕方にルールを設けようという趣旨で、興味深く思っています。
VHO-netに期待するところはどういう点ですか
患者団体は、誰もが住みやすい社会をつくるための社会的資源のひとつです。そのリーダーが集まるVHO-netは自由な発言ができる場であり、さまざまなことを変えていこうとする力があります。また、社会に伝えていこうとする課題が、社会変革につながる要素を持っているところにVHO-netの意義があると思います。そして、その場に当事者でもなく、医療者でもない私が加わる意味は、社会に通じるようにするために助言したり、こういう方向もあると提案したりする役割であるのだと考えています。
ワークショップ準備委員会では、さまざまな意見を言い合うことも有意義だと思っていますが、何よりもメンバーの皆さんと会うのが楽しいです。楽しいということは大切なことだと思います。また、自由な議論をずっと続けていると、違う意見が出てきますが、そのうち意見を出し合うことで収束していき、解決の方向性が見えてくるのです。このようなVHO-netでの経験は、他の会議や討論の場でも応用でき、役立つのではないかと思っています。私自身、ワークショップや地域学習会などに参加して楽しむこと以外にも必ず何か気づきがあり、新しい考え方の刺激をもらえるので、今後も積極的に参加していきたいと考えています。
ご自身の研究にVHO-netはどのように影響を与えましたか
私はさまざまな研究テーマを求めながら、心理学、保健学、社会福祉学など幅広い分野の研究に携わってきました。VHO-netとかかわるようになってから、研究生活のベースにVHO-netが加わり、多くの影響を受けてきたと感じています。例えば、現在取り組んでいる「終末期ケア」という研究テーマに興味を持ったのも、VHO-netで重い病気や治療法のない難病にかかりながらも、大きなエネルギーを持ち、前向きな皆さんの生き方を学んでいたからではないかという気がしています。残念なことに毎年訃報も届きますが、その人らしく生きていたというメッセージを伝えてもらえる。そんな生き方から、最後までその人が生きていくプロセスを考えたいと思うようになり、高齢者が最後までその人らしく生きることを考える、という研究テーマが生まれてきたのだろうと思います。参加している時はあまり意識はしていませんが、今後の研究生活においても、VHO-netからは多くの気づきや影響を受けたいと期待しています。
島田 千穂さん プロフィール
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(保健学)・社会福祉士。
国際医療福祉大学総合研究所研究員、大学院専任講師、社会福祉法人 小茂根の郷・特別養護老人ホーム所長代理を経て現職。
高齢者の終末期ケアに関する実践的な研究に取り組み、施設における看取りケア体制を主な研究テーマにしている。また、実践者を対象とした研修にも、力を入れて取り組んでいる。