CLOSE

このサイトは、ファイザー株式会社が社会貢献活動として発行しております『まねきねこ』の情報誌のウェブ版です。
まねきねこの郵送、もしくは郵送停止はこちらからご連絡ください。
なお、個別の疾患の相談は受け付けておりません。

お問い合わせはこちら

※メーラーが起動します。

VHO-net10年間の活動から生まれた広がりと深まりに期待したい

VHO-net10年間の活動から生まれた広がりと深まりに期待したい

聖マリアンナ医科大学 救命救急センター長
箕輪 良行 さん

第10回ワークショップにも参加された箕輪良行さんは、 VHO-netの活動と早くからかかわり、積極的に参加されてきた医師のひとりです。また、医療者と患者のよりよい関係づくりの一環として、現役医師や研修医の「コミュニケーション・スキル・トレーニング」に取り組むなど多方面でも活躍されています。今回のWAVEでは、箕輪先生に、医師としての思いやVHO-netへの期待を語っていただきました。

神奈川県川崎市にある聖マリアンナ医科大学の救命救急センター長、臨床研修センター長を兼任されて、お忙しい毎日ですね

聖マリアンナ医科大学には、大学病院と東横病院、横浜市西部病院、川崎市立多摩病院(指定管理者)の4ヶ所に救急部門があり、私は主に大学の救命センターの管理と臨床教育を担当し、診療にも携わっています。

当大学は、愛ある医療という理念のもとで、よりよい開業医を育て地域に貢献することを目指しており、臨床研修センターでは救命救急も含めて幅広く対応できる医師を育成するプログラムを組んでいます。研修内容や生活面もきめ細かく管理し、研修先も院内各科のほか、三宅島や福島県南会津、高知県四万十川流域などの医療施設や、地域の開業医など多彩に用意しています。この聖マリアンナ医大研修プログラムは研修医にも好評で、最近3年間、ほぼフルマッチの好成績を上げています。

目指すところが明確な臨床研修プログラムが、研修医に評価されているということですね

救命救急センターにも働きたいというスタッフが集まってきてくれています。それは、明確な理念のもとに、適切に判断して対応し、必要に応じて高度医療につなぐという診療体制を目指し、働く側にも無理のない12時間のシフト制勤務を実現しているからだと考えています。

最近、経営学の入門書を読んで、多職種がチームで活動する医療の現場にも、マネージメントという考え方が必要だと思いました。そして、病院における顧客満足とは、患者さんだけが満足することではなく、病院で働く人が満足することも必要だと知り、無理なく働ける仕組みをつくることはやはり必要だと納得しました。

アメリカにはマグネット・ホスピタルという言葉があり、磁石に引きつけられるように、看護師が働きたいと集まる病院でないと生き残れないと言われています。明確な理念があり、キャリアアップのための教育を提供でき、資格を生かせるような仕組みがあって、意識の高い職員が集まり、質の高い医療を提供でき、それが患者さんにも認められる―。そんな病院を私たちも目指すべきだと考えています。

医師や看護師が働きたいと思うマグネット・ホスピタルは、患者さんにとっても魅力的な病院ということですね。ところで、医師のシフト制勤務を実現するためには、医療をつなぐことが重要になってくるのではないでしょうか

そのとおりです。アメリカでは、適切な検査や診断を行い、必要な診療科につなぐ、ハンズオフ、あるいはケア・トランジション(ケアの移行)という仕組みが普及しています。それに対して、日本はいまだにひとりの医師が最後まで責任を持つ主治医制が中心です。これは医の倫理としては素晴らしいことですが、近年は医師の業務量が患者の安全も担保した上で膨大に増えたため、現実には無理になってきています。ハンズオフをしないと医師の労働環境を改善することはできず、医療過誤やトラブルも発生しやすくなるのです。一方、的確なハンズオフを行うためには、的確な情報を提供し、開示し、多くのスタッフが情報を共有することが必要になります。

患者さんの医療を守るためにも、的確なハンズオフを行える職場環境を整え、それを上手にマネージメントしていく仕組みが必要だと考えています。

医療のあり方について、アメリカ型の経営学にも学ぶところが多いということですね。ところで、VHO‐netの活動にかかわられたのは、何がきっかけだったのでしょうか

医師のコミュニケーション・スキル・トレーニングに乳がんの患者団体「あけぼの会」が協力していることから、VHO‐netを知り、2005年の第5回からワークショップにも参加するようになりました。

この5年間のVHO‐netの活動を考えると、それぞれの患者団体の広がり、活動の広がり、そして、ネットワークの広がりが生まれてきたと思います。ワークショップでの討議内容も充実し、みなさんの成長と、さまざまな広がりが一致してきたと感じています。さらに『患者と作る医学の教科書』や受診ノートを作るなどプロダクティビティ(生産性)が生まれ、活動が深まってきていますね。こうしたVHO‐netの広がりと深まりに注目しています。

では、患者団体やVHO‐netのこれからの活動に、どのようなことを期待されていますか

たとえば、あけぼの会は、病院ボランティアやあけぼのハウス(相談室)の開催など社会的な活動を行っています。普通の主婦が患者になり、患者団体に入ったことで、新たな社会とのかかわりができ、社会性を獲得しているところが素晴らしいですね。そしてVHO‐netでさまざまな病気や立場の人たちが集まることで、情報が共有でき、ネットワークが広がっていることも素晴らしいと思います。

さらに期待することは、仕組みの成熟です。活動の継続と記録を大切にしながら、異なる視点や意見も取り入れ、新たなプロダクトが生まれるような仕組みをつくっていってほしいですね。個人的には、医学部のカリキュラムに患者さんが参加する授業を組み込みたいと考えているので、VHO‐netとの連携を考えています。

そして、みなさん一人ひとりが、賢い患者さんになってほしいと願っています。患者さんが賢くなると、診る方も賢くなり、病院側も対応するようになり、対応できない医師や病院は市場原理で消えていきます。一人ひとりが賢い患者さんになって、日本の医療をともによりよくしていきたいと期待しています。

箕輪 良行さん プロフィール
1979年自治医科大医学部卒業。
1992年三宅村中央診療所所長、1995年米国デンバー市立総合病院外傷センター、1998年船橋市立医療センター救命救急センター部長を経て、2004年聖マリアンナ医科大学 救命救急センター長に就任、2005年同臨床研修センター長兼任、現在に至る。