患者の立場で臨床研究にかかわる人材を育てる取り組み。専門家の協力を得て、模擬倫理委員会も実施
「がん患者カレッジ2018〜臨床試験を知ろう〜倫理委員会員に求められること」
2018年12月17日、東京のちよだプラットホームスクウェアにおいて、臨床試験をテーマとする「がん患者カレッジ」が開催されました(主催:(一社)全国がん患者団体連合会、共催:キャンサー・ソリューションズ株式会社)。がん患者や家族、遺族などの立場から臨床研究にかかわり、審査できる人材を育てる試みを取材しました。
患者の立場からの発言や指摘ができる患者委員を目指す
(一社)全国がん患者団体連合会(以下、全がん連)では、がん患者支援にかかわる患者や家族を対象に、2016年から「がん教育」をテーマとして「がん患者カレッジ」を開催してきました。2018年は、「がん教育」に加えて、「臨床試験を知ろう〜倫理委員会委員に求められること」をテーマとしたカレッジも同時
開催となりました。
臨床試験における倫理審査委員会(以下、倫理委員会)とは、薬剤や医療機器の臨床試験を実施する施設の長(病院長など)が設置する独立した委員会で、患者が参加する臨床試験が倫理指針に基づいて的確に計画され実行されているかを判断することを目的としています。臨床試験を行う施設は倫理委員会を設置する必要があり、また委員会を構成する委員には、医学の専門家、自然科学の有識者、倫理学・法律学・人文・化学の専門家に加え、患者の立場を含め一般の立場から意見を述べることができる人が含まれていることが定められています。一般の立場の委員は、医学的研究に関する知識を十分に有しているとは限らない研究対象者(患者)の視点から、同意説明書等の内容が一般的に理解できる表記であるかなど、客観的に意見を述べる役割を担います。
2018年4月に施行された臨床研究法により、特定臨床研究の実施には必ず認定臨床研究審査委員会の意見を聴くことが義務づけられました。これまでも倫理委員会への患者の立場の委員の参加はありましたが、臨床研究法施行後、患者の視点から発言や指摘ができる患者委員の必要性がいっそう高まっているようです。
今回の「がん患者カレッジ」は、多くの倫理委員会で患者委員の経験のある天野慎介さん(全がん連)や、臨床試験に携わる専門家による講義と、受講者も参加しての模擬倫理委員会が行われるなど実践的な内容でした。受講者の今後の活躍も期待される「がん患者カレッジ」について、天野さんに企画意図や今後の展望をお聞きしました。
今回の「がん患者カレッジ」の企画目的について教えてください
(一社)グループ・ネクサス・ジャパン 理事長 (一社)全国がん患者団体連合会 理事長 天野 慎介 さん
各地の医療機関や研究機関の倫理委員会等において、患者を含む一般の立場の委員の参画が求められており、がん患者やその家族が委員として参画する機会も増えてきました。一方で、臨床試験などに関して十分な知識をもたないまま委員となり、臨床試験などをより良いものとするために有効な発言や指摘ができないケースも見受けられます。加えて、臨床研究法の施行に伴い認定臨床研究審査委員会が新たに発足することとなり、一般の立場の委員の選定に苦労している施設も少なくありません。そこで倫理委員会等で、それぞれの経験をもとに、適切な発言や指摘ができるがん患者や家族が一人でも増えるよう、今回のカレッジを開催しました。
講師やプログラムについてどのような意図や工夫がありましたか
講師については、臨床試験の実施や倫理委員会の運営に豊富な経験を有し、かつ患者参画に理解のある医師やメディカルスタッフの方々にお願いしました。プログラムについては、倫理委員会にがん患者やその家族がかかわる重要性、科学的根拠に基づいた臨床研究や医の倫理の必要性、模擬倫理委員会でのディスカッションを通じた実践的な内容などが学べるように工夫しました。
実際に開催していかがでしたか
講義においては、各講師が自身の経験をふまえた具体的かつ実践的な内容をお話しいただきましたし、模擬倫理委員会では、がんの臨床試験グループから許諾を得て、実際のプロトコール(研究計画書)を用いて事例検討ができました。一方で、「OS※1」「PFS※2」「クロスオーバー試験※3」といった専門用語について解説が無いままに講義が進んだ面もあり、臨床試験に関して知識が無い方にとっては理解しにくい部分もあったことが反省点です。
※1 OS: 全生存期間
臨床試験において治療開始日から患者さんが生存した期間のこと
※2 PFS: 無増悪生存期間
治療中(治療後)にがんが進行せず安定した状態である期間のこと
※3 クロスオーバー試験:交差試験
複数の被験者をいくつかの群に分け、それぞれの群に被験薬(治験の対象薬剤)と対照薬(被験薬の効果を調べるための比較用薬剤)を、順番を決めて投与する方法
受講された方からは、どのような感想がありましたか
「これからもぜひ継続し、発展させてほしい」「過去の事例や具体例を交えた説明は、わかりやすく説得力があった」「難しい講座を背伸びして受講したが、たいへんわかりやすく感謝している」「ほとんどブリーフィング(事前説明)も受けないままに委員に就任したので、今回の講義は非常に勉強になった」「審査のポイントがよくわかったので参考にしたい」などの感想があり、総じて高い評価をいただきました。
これからの展望についてお聞かせください
受講された方には、がん患者や家族の立場から倫理委員会等で委員としてかかわったり、臨床試験に関してさらに理解を深めたりしていただきたい。そして多くの方に臨床試験や倫理委員会について知っていただき、がん患者や家族の皆さんがその経験を活かして臨床試験をより良いものとし、新しい治療を患者や家族に届けたいと考えています。当団体としては、今回のプログラムを基本としつつ、次回は、臨床試験に関して、特にデータの読み方を基本的な部分から学べるような内容を追加して行いたいと計画しています。
ゲノム解析を利用した診断方法など、がん研究が目覚ましく発展する中で、臨床研究にかかわる患者委員の果たす役割はますます重要になっていくと考えられます。まねきねこでも、患者の立場で活動できる人材の育成や、臨床研究に関するヘルスケア関連団体の取り組みを注視していきたいと思います。