10年目を迎えた、レア ディジーズ デイ
希少・難治性疾患の啓発イベントを全国で開催
Rare Disease Day(RDD:世界希少・難治性疾患の日)は、毎年2月末日に世界同時に開催される、希少・難治性疾患についての啓発イベントです。日本国内でのRDDは2010年に初開催され、以来、毎年確実に全国各地へと拡大。10年目を迎えた2019年は「きょうも、あしたも、そのさきも」をテーマに、2 月から3 月にかけて全国46ヶ所でさまざまなイベントが開催されました。そこで、東京と東京大学先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)で行われたRDDをご紹介します。
10回目を迎えたRDD東京
第1回から毎年行われてきた「RDD東京」。今年は2月28日に東京都千代田区の丸ビルMARUCUBEで開催されました。1型糖尿病当事者の大村詠一さん(認定NPO法人 日本IDDMネットワーク)のエアロビックパフォーマンスをオープニングに、基調講演、患者や家族が語る「患者の生の声」、「高校生セッション」、「オーラルヒストリープロジェクト」の紹介、パネル展示など、多様な企画が展開されました。当日の参加人数は延べ2700人、ウェブでの視聴参加も500人を超えたとのことです。
患者視点から考えるRDDの10年〜「 基調講演」から〜
基調講演では、RDD日本開催事務局の西村由希子さん(NPO法人 ASrid代表)が、RDD日本10年の経緯を紹介。西村さんは、全国各地でバラエティに富んだ取り組みが開催されていることや、RDDが合言葉として定着してきたことなどを紹介。そして、今回のテーマには、10年を経て新たな第一歩を踏み出そうという思いが込められていると語り、この場を出会いと気づきの場にしてほしいと呼びかけました。続いて、希少・難治性疾患にかかわる連合組織の活動を牽引してきた3人のリーダーが登壇し、それぞれの年間の活動や課題を述べました。
(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA) 伊藤 たてお さん
最も光の当たらないところにころに光を当てようとした10年だった。数が少なく、治療も難しい難病患者への対策が改善されれば、国民全体の医療や福祉制度も発展する。疾患の克服を目指すとともに、 病気になっても安心して暮らせる社会、 障がい者や高齢者も安心して生きることができる共生社会を目指したい。
(一社)全国がん患者団体連合会
(一社)日本希少がん患者会ネットワーク 眞島 喜幸 さん
この10年間、政策提言活動を活発に行った結果、希少がん・難治性がんの研究促進が改正がん対策基本法に盛り込まれた。個々の希少がんの患者数は少ないが、全部集めるとがん患者数の約20パーセ ントになる。患者同士がつながり、がん患者の予後改善や、5年生存率の向上 に向けて活動していきたい。
認定NPO法人 難病のこども支援全国 ネットワーク 小林 信秋 さん
私たちは、突然、難病の子どもの親となり、医療など専門的な知識の必要な問題に直面して活動してきた。子どもには年齢に応じた成長発達を支える医療や支援が必要。子どもから大人への移行期医療、きょうだいへの対応などさまざまな問題に 直面している、難病の子どもと家族のことをもっと知ってほしい。
患者や家族の記憶を歴史にする研究【オーラルヒストリー プロジェクト】
オーラルヒストリーとは、ある個人に体験を口述してもらい、これを記録分析する作業です。今回のRDDでは、希少・難治性疾患にかかわる連合組織のリーダーとして活動を牽引し、多くの功績を残した小林信秋さん、伊藤たておさんのオーラルヒストリーのプロジェクトが紹介されました。
当日は、すでにヒアリングを受けた小林さんと、プロジェクトメンバーの佐藤信さん、渡部沙織さん(ともに東大先端研)が登壇。佐藤さんは、「小林さんは、一市民の立場から活動を始め、最終的には政策形成にまで深くかかわった魅力的な語り手。そのプロセスの記録は歴史の貴重な証言となる」と語りました。同プロジェクトでは、今後伊藤たておさんのヒアリングも行ったうえで、報告書を公開する予定とのことです。
RDD東大先端研
希少・難治性疾患当事者が 活躍できる社会について 最新の研究成果を発表
3月6日、東大先端研では、「Rare Disease Day@RCAST」 として、疾患や障がいのある人を包摂する社会システム創造の研究についての講演とパネルディスカッションが行われました。(主催:東大先端研 人間支援工学分野)
まず「 Rare Disease Dayの10年の取り組み」をRDD日本開催事務局の西村由希子さんが発表。西村さんはRDDの成果として、「すべての関係者による社会啓発、多彩な全国・世界規模活動、患者や研究者による情報発信、希少・難治性疾患領域の新たな協働の入口となったこと」を挙げました。次に、「障がいや難病、困難がある人た ちの社会参画」として、東大先端研人間支援工学分野准教授の近藤武夫さんが、難病や障がいのある人が雇用参加できる社会をつくるための、超短時間雇用モデルの取り組みについて講演しました。教育現場では、病気や障がいのある人への配慮が進んできたことから、次の課題は雇用と考えて研究を進めているとのことでした。
当事者研究についての 講演も行われる
東大先端研当事者研究分野准教授の熊谷晋一郎さんは、「当事者研究からみる難病」をテーマに講演を行いました。熊谷さ んは、脳性麻痺による障がいがあり、車椅子生活を送りながら小児科医となり、現在は同センターで当事者研究に取り組んでいます。 熊谷さんは「障がいは、私たち当事者の皮膚の内側にあるのではなく、外側の社会にあると『当事者運動』では言う。専門家も当事者も正しい答えをもっていないから、一緒に考えようという当事者研究の領域が開かれる。当事者が活躍する場は広がっているが、"障がいがあってもできる"のではなく、"障がいがあるからこそできる"仕事を開拓したい。その試みの1つが、医療サービスのユーザーとして当事者を捉えるユーザーリサーチャーだと考えている」と意見を述べました。
パネルディスカッションでは、進行役を務めた渡部沙織さんが、「コンシューマー(消費者)だった当事者が、プロバイダー(提供側)として参加している。新しい地平に入ったと感じる」と感想を述べ、西村さんは「この10年で大きな変化が起きている。当事者も一緒に研究に取り組むという流れができた。多様な取り組みが始まり、その流れがより強く、より広くなっている」と締めくくりました。
RDD日本開催事務局は、「希少・難治性疾患に関する全ステークホルダーへのサービスの提供」を目的とし、創薬や社会医療学の研究者が所属するNPO法人ASridが担っています。10年間の取り組みや成果を確認し、日本でのRDDが、西村さんなど研究者とヘルスケア関連団体リーダーとのコラボレーションによって進展してきたことを印象深く感じました。RDDを契機とする活動や研究のさらなる発展を期待したいと思います。