VHO-net レポート<PPI学習会>
AMED発行「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」を用いて 患者団体向けPPI(患者・市民参画) 学習会を初開催
2019年10月6日、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)発行の「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」を用いた「VHO-net PPI学習会」(会場:ファイザー株式会社本社)が開かれました。近年、医療研究開発のプロセスについて研究者が患者・市民の知見を参考にする患者・市民参画(PPI)の取り組みの普及が目指されています。
当日はまずVHO-net事務局の喜島智香子さんが、患者視点で医療研究開発に参画できる人材を育成するというPPI学習会の意義について説明。続いて、AMEDの勝井恵子さんが、AMEDにおけるPPIへの取り組みの経緯や、患者と研究者との協働を目指す第一歩として発行した「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」(以下、PPIガイドブック)について紹介しました。次に、薬剤の開発や薬事申請などに携わるファイザーR&D合同会社の最上理さん・木村崇史さん・北村篤嗣さんがPPIガイドブックをテキストに医学研究・臨床試験や、医薬品開発について講義しました。
後半は実践編として、ファイザーR&D社社員と千葉大学医学部附属病院の荒屋敷亮子さんがファシリテーターとなり、説明・同意文書を読み合わせ、疑問点や意見を述べ合うグループディスカッションが行われました。
VHO-netとしても初めてのPPIへの取り組みとなった学習会。ヘルスケア関連団体リーダーと、医療研究開発にかかわる多様な立場の人々が集まり、お互いにさまざまな学びと気づきを得て、医療における患者・市民参画の有意義なスタートとなりました。
参加者の皆さんの感想をご紹介します
森 幸子 さん (一社)全国膠原病友の会
PPIガイドブックの作成に患者代表として参加しましたが、今回、新たな気づきもありました。学習会開催に尽力された皆さんに感謝するとともに、PPIは間近に迫った課題ですので、こうした取り組みを続けていただきたいと思います。
山根 則子 さん(公社)日本オストミー協会
今まで治験などにかかわる機会がなかったのですが、今回基本的なことがわかりました。PPIは、医療者と患者がパートナーになるための考え方という点で、VHO-netの取り組みと方向性は同じだと感じました。良きパートナーになれるようにしっかり学んでいきたいと思います。
原口 美貴子 さん プラダー・ウィリー症候群児・者 親の会 「竹の子の会」
AMED、医療者、製薬企業といろいろな立場の方の話を聞くことができ、PPIへの熱意を感じました。ぜひ団体に持ち帰り、今後に役立てたいと思います。
上田 肇 さん ギラン・バレー症候群 患者の会
PPIについて具体的に知ることができました。演習ではファイザーR&Dの方が非常に協力的だったのが印象に残りました。AMEDの方から直接PPIについて聞くことができたのも、VHO-netの優れたところだと思いました。
勝井 恵子 さん AMED
「PPIガイドブック」を実際に活用してくださって、たいへんうれしく思います。このような研修の積み重ねによって一歩ずつPPIの取り組みが推進されていくものと期待しています。
荒屋敷 亮子 さん 千葉大学医学部附属病院臨床試験部 看護師長/治験コーディネーター
日頃、できるだけ患者さんの立場でと心がけていますが、多様な団体の方の率直な意見を聞くことができてとても参考になりました。こうした取り組みが増えていってほしいと思います。
木村 崇史 さん ファイザーR&D合同会社
患者さんや一般の方にとって、研究や医薬品開発への参画は、心理面や知識面でハードルのあることだと思います。しかし、目指すゴールはより良い医療や医薬品の実現という点で同じですので、そのハードルをいかに乗り越えるかを考える時期に来ています。今回の勉強会はそのための大きな一歩であり、講師役で参加できたことをとても誇らしく思います。
ピアサポート・プロジェクト ピアサポート・ワークショップ
より良いピアサポートを目指して
課題や解決策を共有するワークショップを開催
VHO-netでは「社会資源としてのピアサポート」となることを目指して「ピアサポート5か条」を作成(2015年)、2019年から「VHO-netが考えるピアサポート・プロジェクト」に取り組んでいます。その一環として、「第4条 個人情報に配慮しながら、相談内容を記録・共有する」をテーマに、より具体的に考えを深めようと開催されたのが、「VHO-netピアサポート・ワークショップ」です。(2019年10月14日、於ファイザー株式会社本社)。
まず、慶應義塾大学看護医療学部教授の加藤眞三さんが「ピアサポート 傾聴と対話の医療へ」として講演。加藤さんは「医療の中でスピリチュアルケア(生きる意味や目的に関するサポート)を誰が担うのか」「どのように生き方をサポートできるか」などについて語り、また「慢性病患者ごった煮会」での取り組みを紹介し、傾聴の意味やグループワークの効用について言及しました。
次に、NPO法人 熊本県難病支援ネットワークの吉田裕子さんが熊本県難病相談・支援センターでの活動を紹介。「治療ですべてが解決できるわけではなく、同じ疾患の仲間が集まる団体だからこそ、相談できることがある。団体にはその情報の宝があり、団体同士がコラボすることでできることもある」と語りました。
続いて( 公社)日本オストミー協会横浜市支部の山根則子さんが同団体でのピアサポートについて紹介し、「カウンセリングや、行政や医療福祉の相談業務とは異なるピアサポートの良さがある。情報を共有することで、それぞれの知恵や知識を活かせる。そのためにも相談における記録方法は課題だと思う」と問題提起しました。
相談の記録や時間枠についてグループで話し合う
講演と事例発表を受けたグループワークでは、ヘルスケア関連団体での相談における記録や体制、時間枠をテーマに話し合いが行われました。
相談の記録については、メリットとして「患者の現状や悩みを数値や統計で表せる」「患者の声を伝えられる」、デメリットとして「個人情報の取り扱いが難しい」「記録の基準が明確でない」「労力と時間が必要」などが挙げられ、マンパワーや時間に余裕があれば、記録を整理し「よくある質問集」やデータベースを作りたいという声も聞かれました。
相談の時間枠を決めることについては、本音を聞き出すのには時間がかかるという意見もありましたが、相談の質を担保する、相談を受ける側の負担を軽くする意味で設けた方がよいという意見が目立ちました。また、「相談を受けるためには倫理観や信頼感が必要」「5か条よりもう少し掘り下げたものが必要ではないか」などの意見もあり、相談内容を記録するためのフォーマットや、個人情報の取り扱いなどに関する基準をVHO-netで作成したいとの提案もありました。
全体討論では、「個人情報の記録に関しては法律の専門家にも参加してもらう必要がある」「相談に当たって、ピアサポートに携わる姿勢や守秘義務、行動規範などの共通項目を確認することが必要ではないか」などの発言があり、最後に、横浜市立大学大学院医学研究科・医学部看護学科教授の松下年子さんが「記録した方がよいという同意形成ができた。記録方法についての検討課題や、倫理的な行動指標に対する提案について、プロジェクトとして取り組んでいきたい」と締めくくりました。
当日は台風の影響もありましたが、沖縄県からのウェブ参加もあり、活発な議論が展開されました。より良いピアサポートの実現に向けて、プロジェクトの進展が期待されます。
プレスセミナー
資金調達、PPI(患者・市民参画)、ピアサポートを中心にVHO-netの活動を社会に発信するプレスセミナー開催
プレスセミナーでは、まずVHO-net事務局を務めるファイザー株式会社広報・社長室の喜島智香子さんが、VHO-netについて紹介。全国のヘルスケア関連団体のリーダーや保健医療福祉関係者が、病気や障がい、立場の違いを越え、つながっていくことを目指し、より良い医療の実現や生活の質の向上をはじめ、体験や知恵、情報を共有していること、ヘルスケア関連団体リーダーの学習の場を創出していることなどを述べました。また、VHO-netでは、中央世話人会が全体をマネジメントし、地域世話人・地域運営委員会が地域学習会を企画・開催していること、目的別プロジェクトは中央世話人が担当し、ファイザーは事務局として各種会議、ワークショップ、目的別プロジェクトなどをサポートし、ヘルスケア関連団体の主体性を重視しながら、社会貢献としてネットワーク支援を行っていることを説明。その後、中央世話人による講演が行われました。2001年、22団体47名の参加による第1回ワークショップからスタートしたVHO-netには、現在、91団体187名(2019年11月1日現在)が参加しているとのことです。多くのヘルスケア関連団体のリーダーたちが互いの立場を越え、つながることで「患者力」を高めてきた活動がさらに広がり、より良い医療に貢献していくことが期待されます。
「VHO-net それはモデルのない活動」
ヘルスケア関連団体のリーダーたちとファイザーとの挑戦
VHO-netの活動は、手本とするモデルのない活動でした。そのため、どうやって進めていくのか、この会でなくてはできないこととは何なのか、ビジョンを常に追求し、話し合いを大切にしてきました。〝トゥギャザー〞を合言葉にファイザーが事務局として支援してくれたこと、ヘルスケア関連団体のリーダーと企業が対等性をもってともに歩んできたことは一つのチャレンジであり、だからこそ20年間にわたって活動を積み重ねることができたと考えています。
年に1度のワークショップに加え、9地域に地域学習会ができ、学び合いの場は広がってきました。また2009年に「患者と作る医学の教科書」を発刊するなど活動の内容も多様になり、現在はピアサポート・プロジェクト、ワークショップ成果発信プロジェクト、PPIプロジェクトなどに取り組んでいます。
活動の中心であるワークショップは、互いの経験を分かち合い、エンパワメントする参加型の研修会です。学びや気づきを団体に持ち帰り、自分たちの活動に活かすことや、視野を広げ、団体のあり方や使命を考える機会とすることを目指し、また団体のリーダーだけでなく、保健医療福祉関係者が参加することも特徴です。2018年、2019年は、多くの団体にとって課題である〝活動のための資金調達〞をテーマとし、その内容をワークショップ成果発信プロジェクトとして冊子にまとめ、「ヘルスケア関連団体の資金調達」を発行しました。
私たちにとっての資金調達は、より良い活動を目指したものであり、また資金調達を考える中で、団体の使命や社会への発信などの課題も明確になり、意義のある取り組みとなりました。
20年間のあゆみがあったからこそ、現在の活動や成果があると思っています。
VHO-net PPI学習会について
医学研究・臨床試験における患者・市民参画を学ぶ
近年は、医学研究・臨床試験をはじめ医療政策全般について、患者や市
民が意思決定の場に参画することが求められるようになってきました。しかし、わが国では、医学研究・臨床試験に関して患者市民が研修を受講できる体制は整っておらず、研究者向けの研修さえいまだ十分に整理されているとはいえません。これまで医学研究等に協力する患者さんは被験者として、研究のプロセスの一部にはかかわっていましたが、そこでは、患者さんが研究者と対等な立場になって、両者で対話するという発想はありませんでした。
そこでVHO-netでは、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が発行した「PPI(患者・市民参画)ガイドブック」をテキストとして、ヘルスケア関連団体のリーダーを対象にPPI学習会を開催するに至りました。
学習会では、AMEDの勝井恵子さんや千葉大学医学部附属病院治験コーディネーターの荒屋敷亮子さん、ファイザーR&D合同会社の協力のもと、PPIについて学び、説明・同意文書を患者目線でレビューして議論するワークショップを行いました。患者と医療者が協働するということは、本来自立した者同士が、対等な立場で、主体的に、相手に要望やSOSを求めることだと認識しています。PPIはまさにそれを具現化したものであり、より良い医療のあり方を保証する枠組みだと思っています。PPIを患者さんが学ぶことにより、より良き医療に貢献できるように、その結果が市民、国民に還元できるように、VHO-netでは、今後もこの取り組みを継続していく予定です。
倫理ガイドライン
策定と今後の取り組み
私は、所属団体の活動の中でピアサポートに取り組み、ピアサポートは患者団体活動の根幹だと考えてきました。そしてVHO-netに参加し、他団体や医療関係者の皆さんとピアサポートについて考え合えることをとてもうれしく感じていました。VHO-netでは、各団体のピアサポートの基準となることを目指し、2015年に〝VHO-netが考えるピアサポート〞として「ピアサポートとは、当事者ならびに当事者をとりまく人々が、互いの体験を尊重し、広くフィードバックを受けて、エンパワメントを実現し、将来にわたり発展していく活動」と定義し、「ピアサポート5か条」を作成しました。さらに、各団体が充実したピアサポートを行えるようにすることを目指し、ピアサポート・プロジェクトに取り組んできました。その一環として「ピアサポート5か条」の「第4条 個人情報に配慮しながら、相談内容を記録・共有する」をテーマとして「ピアサポート・ワークショップ」を2019年に開催しました。その議論を経て、共通の倫理観をもってピアサポートに取り組めるように、現在、「ピアサポート倫理ガイドライン」の策定に取り掛かっています。
VHO-netが目指すピアサポートの将来像とは、ここでなら安心して話せること、よりその人らしく生きることを支えること、双方の笑顔と幸せを目指すこと、社会から信頼されること、社会資源となることです。この将来像に向かって、さらにVHO-netのピアサポートが充実するように考え合っていきたいと思っています。