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施行された「医療的ケア児支援法」に期待すること 今、求められる医療的ケア児への対応とは?

施行された「医療的ケア児支援法」に期待すること
今、求められる医療的ケア児への対応とは?

バクバクの会<br>副会長 林 智宏さん バクバクの会
副会長 林 智宏さん
2021年9月、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下、医療的ケア児支援法)が施行されました。
そこで、医療的ケア児の支援やインクルーシブ教育の実践を目指して活動する「バクバクの会〜人工呼吸器とともに生きる~」の林智宏さん・有香さんに、この法律の課題や期待する点について伺いました。

「医療的ケア児支援法」とは

バクバクの会<br>中部支部幹事 林 有香さん バクバクの会
中部支部幹事 林 有香さん
痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な「医療的ケア児」は、新生児医療の進歩などを背景に増加傾向にあり、現在全国に約2万人※いると推計されています。こうした子どもを受け入れる施設は不足し、結果として保護者が24時間ケアを担うことになり、就労の機会を失っている実態がありました。
そこで、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、医療的ケア児の家族の負担を軽減して家族の離職を防止する目的でつくられたのが、「医療的ケア児支援法」です。この法律により、これまで改正児童福祉法で各省庁および地方自治体の「努力義務」とされてきた医療的ケア児への支援が「責務」になりました。

※2020年の厚生労働省推計値 19,238人

当事者の視点を大切に、望む支援が受けられる社会へ
多くの支援を得て、高校進学も実現

林 京香さん 林 京香さん 2005年に生まれた私たちの娘、京香は、脊髄性筋萎縮症という病気で人工呼吸器をつけて生活しています。私たちはバクバクの会と出会い、地域の学校で学んだ当事者の存在を知り、娘も地域の同世代の子どもたちと一緒に学ばせたいと考えるようになりました。そこで、「名古屋『障害児・者』生活と教育を考える会」の支援を受け、名古屋市長との面会や多方面と交渉を行い、2012年に名古屋市で初めて人工呼吸器をつけた子どもが地域の学校に通うことが認められた事例として、小学校に入学しました。2021年には名古屋市内の公立高校に進学。小学校からの親友とは別々の高校ですが、今でも仲良しで、充実した学校生活を送っています。

医療的ケア児支援法の課題と期待する点

今回、娘のような医療的ケアが必要な子どもと家族への支援を目的とした「医療的ケア児支援法」がつくられたのは画期的だと感じています。しかし、予算など最終的な判断や裁量が各自治体に任されており、法律を有効に活用できるかが教育委員会や各学校側の判断にかかっている点を懸念しています。
医療的ケア児支援センターの概要もまだ明らかではありません。全国どこでも正しい情報が得られ、適切な支援が受けられるように体制を整える必要があります。
また、保護者の付き添いをなくすためには、医療的ケアや介助を行う看護師の配置が必要となります。人手不足などで看護師の確保が難しいことから、私たちは医療的ケアのできる介護ヘルパーの配置を訴えてきましたが、未だ認められていないことを残念に思っています。法律ができても“絵に描いた餅”では意味がありません。実際に活用される法律であってほしいと強く思います。

生活や行動に制限がない学校生活

「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」にあるように、障がいは当事者を生きにくくさせる「社会の側」にあるもので、受け入れ体制が整っていれば本人が障がいを感じなくなることもあります。実際、娘の学校生活は障がいを感じさせません。バリアフリーの環境に加え、継続的な看護師の配置など手厚い体制が実現し、先生方や同級生のサポートにより、生活や行動に制限がないからです。
医療的ケア児にとって、一般の学校より特別支援学校の方が手厚い環境ではないかという声もありますが、実際には特別支援学校でも保護者の付き添いが必要になることが多く、また予算や慣行の面から医療的ケア児に対して多くの制限があるのが現状です。娘の場合は、地域の学校で初めての事例だったからこそ規則やルールに縛られず、柔軟な対応が実現した面があるのです。ただ、特別支援学校でも保護者の付き添いをなくす方向に進んでいる感触はあり、これは医療的ケア児支援法の一つの成果だと感じています。

ともに学び、育つインクルーシブ教育

私たちは、この法律が真のインクルーシブ教育へと導く手立てになることを願っています。娘を通して、学校は学問だけでなく、社会や人間関係を学ぶところだと実感しました。医療的ケア児も優しくされ保護されるだけでなく、同級生と接してさまざまな経験をする。そして同級生たちも自然に包含性や多様性を学ぶ。双方にとって大きな学びがあることが、インクルーシブ教育の目指すところだと思うのです。
医療的ケア児支援法が施行され、地域の学校への入学を希望する医療的ケア児が確実に増えていると実感しています。しかし、入学への壁は低くなったものの、そこがゴールではなく、そこからがスタートです。入学後の体制や環境をより良いものとすることが求められます。この法律が活用され、当事者の視点で望んだ支援が実現すること、そして、すべての人を包含する社会へ向かうことを願い、これからも活動していきたいと思います。

「医療的ケア児支援法」法律成立までの経緯

2006年 国連総会において「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)採択。共生社会の実現に貢献するインクルーシブ教育が提唱される

2014年 「障害者権利条約」に日本も批准

2015年 超党派の国会議員、厚生労働省・文部科学省職員、医療関係者、福祉事業者、当事者団体が集まり、医療的ケア児の支援に必要な施策や制度を検討する勉強会「永田町子ども未来会議」を設立。医療的ケア児支援に関する法案提出に向けて活動を始める

2016年 児童福祉法改正案が成立し、法律の中に医療的ケア児に関する文言が初めて明記される

2021年6月 「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」成立。同年9月施行

バクバクの会 ~人工呼吸器とともに生きる~

人工呼吸器をつけて生きる人、ともに生きる人たちの団体。
子どもたちの成長に伴い、家族会から当事者主体の団体へと移行




名古屋市医療的ケア児支援サイト え・が・お

医療的ケア児がいる家族に必要な情報をわかりやすく提供しているサイト

「がっこうへ行こう」

林さん一家を取材したドキュメンタリー番組
(2012年)(CBCテレビ)