VHO-netが取り組む3つのSDGs
〜ピアサポート・防災・倫理〜
2021年10月23・24日、第21回ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会のワークショップがオンラインで開催されました。コロナ禍が続く中、前年第20回の1日開催から、今回は従来の2日開催に戻り、基調講演、分科会など、多彩なプログラムでの熱い討論が繰り広げられました。
具体的なアクションにつなげる討論を―
今回のテーマは「VHO-netが取り組む3つのSDGs〜ピアサポート・防災・倫理〜」。前年度のワークショップでは、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の中から7つの目標を選定し、VHO-netではどう取り組むか、議論が行われました。今回はさらに焦点を絞り、ピアサポート・防災・倫理の3つについて具体的なアクションにつなげる方策を探る、という趣旨でした。
開会の挨拶では、中央世話人の松下年子さんが「ピアサポート・防災・倫理は、ヘルスケア関連団体の活動の要となる3本柱。常に討論し、質を高めていくことは必須です」と述べました。
ファイザー株式会社 代表取締役社長 原田明久氏による歓迎の挨拶では、「20年以上にわたり、VHO-netの活動を通じて、患者・障がいのある方とその家族、医療・保健・福祉関係者、そしてファイザーがともに歩み、類のないネットワークを構築したことは素晴らしいこと。今後VHO-netの法人化により、さらに社会的意義のある活動に進展することを願っています」と語られました。
1日目は、ピアサポートと防災について3つの基調講演が行われ、それを受けて8グループ(各テーマ4グループ)で分科会が行われました。2日目は、前日の分科会グループ発表の後、倫理についての基調講演と6グループでの分科会、その後発表が行われました。
オンラインでの全体討論から分科会への移動も、事務局のオペレーションによってスムーズに行われ、チャット機能を使った簡潔な質疑応答など、会議の進行もよりブラッシュアップされ、ネットワーク環境に対する参加者の手慣れた対応も垣間見られました。
閉会の挨拶では、中央世話人の阿部一彦さんが、「VHO-netの理念の一つである『誰もが生きやすい社会を目指す』を実現する、大きな意義をもったワークショップとなった」と結びました。
基調講演1:ピアサポート
ピアサポートで大切にしていることやどかりの里の経験から
ピアサポート
増田 やどかりの里(以下、やどかり)は1970年から、精神障がいのある人への地域支援活動を展開しています。難病の団体の場合、ピアサポートのメインは相談活動となると思いますが、やどかりでは相談に加え、家事支援、医療機関への同行、事業所のプログラム運営など、仕事の種類が多岐にわたります。このことからピアサポートの重要性を考え、08年にピアサポート事業部をつくりました。
佐藤 私は精神障がいの当事者で、ピアサポート事業部に所属し、ピアサポーター歴は12年です。当初は体調が悪いときに仕事を投げ出してしまうこともありましたが、やがて自分自身が必要とされていることが実感できるようになりました。それが継続できている理由の一つだと思っています。
増田 18年からお互いの経験を共有し合うピアサポーター養成講座を立ち上げ、19年にはピアサポート研究チームを発足。雇用されて働くピアサポーターをどう増やし、質を高めていくかをテーマに、VHO-netによる『VHO-netが考えるピアサポート5か条』や、外国のテキストなどを参考に勉強を始めました。その中で、病気や障がいを経験した自分自身を俯瞰し、どういう生き方をしたいかを語る「リカバリーストーリー」の大切さに気づき、養成講座に取り入れました。さらに、21年にはピアサポート倫理ガイドラインを策定しました。
佐藤 ピアサポーターが相手との信頼関係をつくるうえで、個人情報を慎重に扱うことが大事であることを皆で確認しました。『VHO-netピアサポート倫理ガイドライン』を参考にしつつ、やどかりで働くピアサポーター全員で検討を重ね、やどかり独自のガイドラインをつくりました。ピアサポーター同士が楽しさや悩みを共有し、ピアの仲間を増やしていきたい。ピアサポーターは一人ではなく、チームで存在することがとても重要です。
増田 全国の精神科病院で、患者をピアサポーターとして活用するようになれば、精神科医療そのものが変革していく。専門職に言えないことも、ピアサポーターになら話せることがある。これからも、専門職としてのピアサポーターの存在を広く伝えていきたいと考えています。
基調講演2:防災
日本の災害の概要
日本は地震列島であり、地球温暖化により台風や豪雨などの風水害・土砂災害のリスクも高まっています。さらに、新型コロナウイルス感染症による新たな災害の渦中に私たちはいます。
災害発生時は「自助7割、共助2割、公助1割」といわれています。
自分の身は自分で守る。
ハザードマップなどで住んでいる地域の特徴を把握するなど、日頃から自助を心がけましょう。
また、難病や障がいのある人は、避難行動要支援者に登録をしていますか?被災リスクを少しでも軽減するために、日頃の訓練と、避難指示に応じて行動できるようにしておくことが大切です。そして、災害時は外部に援助を求め、また援助を拒まない、我慢しないという「受援力」を高めましょう。
「災害時に向けたネットワーク構築をどうする」共助
VHO-netは、災害時の共助ネットワークづくりに着目し「公式LINE」の活用を提案します。ワークショップでは、デモ版を使いながら、どのように活用していくのか、方向性を定めることを目指します。
「公式LINE」とは、通常のグループLINEとは違い、発信管理者を置いて、登録メンバーに情報を発信します。特徴は、登録メンバー同士の交流はできず、管理者のみへの返信であること。このシステムは今、お店や行政なども取り入れています。
今回、このワークショップのためにデモ用の公式LINEのQRコードを作成しました。画面に表示するので、スマホなどで読み取り、登録してみてください。そして、この後の分科会で、管理者を誰にするのか、メール登録の手順、発信のタイミング、物資情報の拡散についてや、公式LINEをVHO-netで正式に導入する場合、運営上どんな課題があるかなどを議論してください。
公式LINE導入の展望としては、自助の向上では、たとえば毎月1回発信し、物資の備蓄方法などの学習情報を提供する、共助ではそれぞれの団体での導入、公助では提言として患者・障がい者団体のネットワーク事例を紹介するなどが考えられます。災害が起きれば多様な問題が発生し、完全な防災はありません。それでも一歩ずつ対策を前進させましょう。
※講演時、約40名が実際にデモ用公式LINEに登録し、反応を体感しました。
基調講演3:倫理
活動に必要な「倫理」について
個人がもつ倫理観には解釈の違いや価値観の違いがあります。一方で医療関係者や研究者、企業などには守るべき法律や指針、ガイドラインがあります。団体として治験参加や研究協力など、医療関係者や企業などとの協働に取り組む中で、会員の個人情報の扱い、守秘義務、機密保持、利益相反などさまざまな課題があり、当事者団体も、内外において守るべきルールを示すことが必要だと感じています。医療参画や協働に取り組むために、倫理に関してどのようなルールづくりが必要か考えていきましょう。
分科会 & グループ発表
各分科会では、所属団体の現状や課題を明らかにしたうえで、VHO-netでの展開、新しい取り組みを協働してつくり出せる基盤について具体的な議論が行われました。
ここでは分科会のグループ発表から、各グループに共通した基本的な考え方や、VHO-netでの展開に対する提案、参加者からの意見をピックアップしてご紹介します。
ピアサポートの充実
●ピアサポートを体系的に学べる場
●ピアサポートの質・価値を高める
●医療者をはじめとする専門職からの信頼を得る
社会の変化や多様なニーズに対応するピアサポートを目指す
時代に求められるピアサポートを行うためには、どのような学びの場が必要かという立場から話し合いが行われました。
基本的な考え方
●ピアサポートは万能ではないが、多様な人が集い、つながり、寄り添い、支え合えるVHO-netの強みを活かした学びの場をつくりたい
●当事者も、ピアサポーターも元気になることが目的。相談を受ける側のモチベーションや心の健康の維持も考えたい
●信頼されるピアサポートに向けて、研修は重要
●相談業務をひとりでは抱えないことなど一定のルールは必要
ピアサポーター研修会への提案
●ピアサポーターならではの視点を盛り込んだ研修プログラムをつくりたい
●傾聴、アサーションなどのスキルアップ、個人情報の扱い方などのルールづくり、事例集、記録の蓄積などが必要
●個人情報保護への対応も含めて、よりいっそうの倫理観が必要
●IT技術など環境の変化にも柔軟に対応するチャレンジ精神を大切にしたい
●守秘義務を伝える文案など、単に文章例を提示するのではなく、それぞれが考え、話し合うことが重要
参加者からの意見や感想
●相談だけではなく、私たちの活動すべてがピアサポート
●安心安全の場、ひとりぼっちにさせない場、ともに生きる力を育むのがピアサポート
●生きづらさを解消できる力を育むために、VHO-netでの団体・組織を越えた交流会を続けていきたい
●難病の患者団体はまだ連携ができていない部分があるので、VHO-netの強みを活かしてつながっていきたい
●信頼を得て連携につなげ、他者や社会資源の力を借りることのできる組織を目指したい
防災
災害時の対策
●VHO-netならではのネットワークの構築
●共助を高め、自助につなげるために何ができるか
VHO-netの強みを活かした全国規模の防災ネットワーク
全国規模のネットワークの構築として、「公式LINE」の運用や意義を中心に具体的な議論が行われました。
基本的な考え方
●地域での連携とともに、全国的なネットワークをつくることは意義がある
●迅速な安否確認、VHO-netならではの当事者ニーズに合った支援が可能
●患者心理、被災者心理を理解した独自の発信ができる
●リーダー同士の精神的な支え合いや、相互理解による対等な立場で共助ができる
●個人情報の管理やセキュリティ、情報の信頼性の精査などが課題
●スマホやパソコンが使えない人への対応が重要。デジタルデバイド※の解消、複数の連絡体制など重層的なネットワークの構築が必要
※デジタルデバイド:インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差
全国規模の災害時ネットワークへの提案
●公式LINEを平常時から情報共有の場として活用したい
●公式LINEの適用範囲、管理者権限、管理者の配置、名簿の更新・整理など管理方法の検討が必要
●視覚障がいに対する音声読み上げソフト、ALSなど難病患者に対する意思伝達装置の活用も検討したい
●障がいや疾患によるニーズを事前に共有しておく
●災害が比較的少ない地域からの支援が期待できるのではないか
●被災経験者の知識や経験の蓄積、防災・減災に向けた活動についての情報交換、後世に役立つ記録の蓄積にも取り組みたい
参加者からの意見や感想
●VHO-netに参加するリーダーは自立しているからこそ他者とのかかわりをもてる。対等な立場でSOSを出せる
●防災を考えることは人の命を考えること、人を愛し自分を愛すること、その先にあるものだと初心に返ったような気持ちになった
●障がいや疾患、地域の垣根を越えた、ダイナミックな交流が大切になる
倫理
信頼される団体をめざす
●ヘルスケア関連団体になぜ倫理観が必要なのか
●団体の倫理規定・ガイドラインの策定
●利益相反(COI)を考える
ヘルスケア関連団体に求められる「倫理」のルールづくりへ
倫理の分科会には全員が参加して、活動の中での経験や課題を共有し、団体リーダーとして倫理をどうとらえるか、倫理規定(ガイドライン)はどうあるべきかが話し合われました。医療者や企業との協働が広まる中で、ヘルスケア関連団体として守るべき行動や倫理を考える貴重な機会となりました。
基本的な考え方
●倫理は、当事者団体の活動にはあまり関係がないと思っていたが、必要性があることに気づけた
●外部との協働にあたって倫理規定を作成することは必要。ただし、あまり厳格に決めると活動がしにくいのではないか
●今までリーダー個人の考えに任せていたが、会員を守り、信頼される組織であるために、利益相反を生まないためにも倫理規定が必要
●個人情報保護の扱いは重要な課題。活動の拠り所となる倫理規定が必要
倫理規定に対する提案
●医学研究の意義や、実施者や協力者がお互いに恩恵を被ることを願いとして掲げる
●医療者や企業との対等な関係性が重要。医療者や研究者、治験コーディネーターとのかかわり方についても検討したい
●研究協力や取材協力の謝金の扱いに関する規定、トラブルが起きた時に相談できる体制を整えたい
●精神的な負担をリーダーが抱え込まないようにする必要がある
●団体によっては臓器移植や遺伝などの課題もある。再生医療や遺伝疾患に関しても守るべき指針が必要
参加者からの意見や感想
●身近な活動の中で、倫理を考えたい
●守らなければいけない人は誰かという視点で、場面ごとに考える
●双方向でお互いが納得し合えるもの、それが倫理ガイドラインではないか
●単にルールを決めるだけでなく、倫理について話し合い、理解を深めるプロセスが重要