障がいがあっても地域の学校へ! 就園・就学をサポートする活動団体が『障害のある子どもの小学校入学ガイド』を作成
「障がいのある子の人権が守られ、地域の学校でともに学べる西宮市であってほしい」という思いから、保護者を中心に設立された活動団体〝インクルネット西宮〞。相談支援を続ける中で、2022年に『障害のある子どもの小学校入学ガイド』を作成しました。保護者、障がい児、教師などの実体験をもとにしたエピソードがQ&A形式でわかりやすくまとめられています。ガイドブック作成に至った経緯やその反応、今後の抱負について、代表の鍛治克哉さん、ワーキンググループメンバーの目良知美さん、高田朋子さんにお話を伺いました。
こんな質問に応えています(ガイドブック目次より抜粋)
● 自分の校区にある学校と特別支援学校どうやって決める?
● 自分の校区にある学校に行かせたいけど、こんなことが心配
● みんなと一緒に生活できる?
● 学校と相談していく中で、気になること
● 学校でどんなことができる?
● 入学後、学校や先生に思いを伝えるには?
● 未来に向けて
インクルネット西宮を設立したきっかけについて教えてください
2016年、医療的ケアが必要な女の子が「地域の小学校に入学したい」と希望しているという話があり、それを実現させたいと支援者が集まったのがきっかけです。その女の子は、口を介さずに栄養を摂取する「胃ろう」を造設しており、看護師配置が必要でした。そこで、学校や教育委員会と何度も話し合いを重ね、特別支援学校ではなく地域の小学校に入学することができました。その時に集まった支援者にもいろいろな病気や障がいのある子どもがいたので、保護者は同じような悩みをもっている、この機会だけで終わるのはもったいない。障がいがあってもなくても「ともに学び、ともに育つ」ことを目指して、インクルネット西宮を設立しました。
現在は、対面での就学相談会やメールでの個別相談、さまざまな講師による勉強会、オンラインコンサートなどのイベント開催のほか、行政に要望書を提出するなどの活動も行っています。
『障害のある子どもの小学校入学ガイド』を作成した動機をお聞かせください
設立後、活動をしてきた中で、障がいがあると特別支援学校に入るものだと思い込んでいる保護者が多いことがわかってきました。地域の小学校への入学を望んでも「迷惑をかける」「うちの子どもは無理」という声も聞きました。そんな中、大阪府のある団体が、『障害のある子どもの小学校入学ガイドQ&A』という冊子を作成していることを知り、「これだ!」と思いました。市町村によって条例や施策も異なるので、私たちも兵庫県西宮市ならではのガイドブックを作成したいと思ったのです。そこで入学準備から学校生活での不安や要望を、保護者や障がい児本人の実体験などをもとにQ&A形式でまとめ、2年半かけて西宮市のガイドブック(A5判90ページ)を完成させました。
作成するうえで気をつけたこと、また苦労した点について教えてください
基本的にはグループメンバーが過去を振り返りながら、一つひとつ思い出して文章化していきました。そこから派生して、インクルネット西宮に寄せられた相談事例、障がい児本人の言葉、友だちや小学校の先生の体験事例など現場の声を丁寧に拾い上げました。精神疾患や内部疾患などの見た目だけではわからない事例など、できるだけ幅広い障がいをカバーすることを目指しました。
文章面では、人を傷つけるような表現になっていないかや、どうしても保護者目線になりがちなので、客観的な視点で伝えられるよう細心の注意を払いました。
学校の先生や行政の方々にも読んでほしいと思い、誰が読んでも不快に思わず、こういう方法もある、そういう方法をとっても大丈夫なんだと安心できるような内容を目指しました。「介助支援員」や「相談支援専門員」などの存在、「障害者差別解消法*」や「合理的配慮」などの制度を解説として入れました。
工夫した点は、おそらくこの冊子を読む保護者はとても忙しいので、読む時に用語解説が最初の1ヶ所にしかないと不便だと思い、重複してもいいから用語解説を各Q&Aごとに入れるようにして、どこから読んでも一問一答で理解できるように構成しています。
*障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成28 年4月1日施行)
ガイドブック作成後には、どのような反応がありましたか?
赤い羽根共同募金からの助成金で1500部発行し、幼稚園、保育園、放課後デイサービス、こども未来センターなど西宮市の相談支援機関や図書館などに配布し、インクルネット西宮のホームページからもダウンロードできるようにしました。メディアにも取り上げられ、他府県の自立生活センターから「同じような団体を立ち上げたい」「うちの町でもこういう冊子を作りたい」という声が寄せられ、うれしく励みになりました。
活動を通して、「理解」というものがとても重要で難しいことだと実感しました。当事者が声を上げればいいという空気感ではなく、社会を構成するメンバーとしていろいろな人が関心をもち、自分にできることがあるかを一緒に考えていける社会になれば、誰もが生きやすくなるのではないかという思いを強くしました。
今後の抱負についてお聞かせください
成人の障がい者は、学校教育での過程であまりいい思い出がないということもあるのか、声を上げない人が多いのが現状です。そんな人も含めて、インクルネット西宮にもっといろいろな立場の人に参加してほしいと思っています。私たちが発信するメッセージが、一人じゃないよ、同じ思いをしている人がいるよ、それを乗り越えてきた人もいるよ、ということをガイドブックを通して感じてもらい、励みや道しるべになればいいなと思っています。
子に障がいがあるということで、これは無理、それはできないと親は思いがちで、周りからそういう圧力を受けることもあるでしょう。しかし、障がい児という前に一人の子どもであり、地域で生活し友だちをつくりたいと思えばできる。そんな環境を社会がつくるべきだし、いろいろな人が社会にいるのだという理解が進んでいけばいいと思っています。
抱負としては、インクルネット西宮のような団体が存在しなくてもいい社会の確立。そんな社会となる未来を目指し、活動していきたいと思っています。
まねきねこの視点
ガイドブックにあった「あきらめるのはもったいない」「友だちの保護者からのクレームのことまで考えていたら、しんどいだけ」という言葉からは、障がい児をもつ保護者として同じ高さの目線で語りかける、励ましの姿勢が感じられました。「誰もが生きやすい社会」は、これまでVHO-netが常に提唱してきたこと。それを具現化する活動がまた一つ生まれていることを心強く思いました。