コミュニケーションを学び対等な立場で参加を
医学研究・臨床試験を身近に捉え、医療への関心を高める取り組みとして注目される患者・市民参画「PPI(Patient and Public Involvement)」。今回は、臨床研究看護の専門職“リサーチナース※”としての経験も活かし、PPIに関するオンライン講座で講師を務める藤原紀子さんに、医療専門職の立場からのPPIへの思いや期待をお聞きしました。
※リサーチナース:臨床研究に関与する看護師。臨床現場で研究参加者の看護を行う。
イギリスでPPIと出会いオンライン講座で人材育成に取り組む
私は、リサーチナースの役割や臨床研究マネジメントを学び、2016年よりリサーチナース国際学会(国際臨床研究看護学会)日本支部代表を務めています。その関係で渡英した際に、PPIという取り組みに出会い、立場の異なる人々が集まり新しいものを創り出す「Co-Production(共同創造)」「Co-Creation(価値共創)」という概念に興味をもち、PPIについて学び始めました。現在、(一社)医療開発基盤研究所のオンライン講座で「組織リーダー育成コース」「開発基礎知識コース」「倫理審査委員育成コース」の講師を務めています。
最近、日本でもPPIが注目されるようになりましたが、従来から薬の承認や医療制度改正を求める患者団体の活動や、患者さんの声を医療に活かす仕組みはありました。PPIは新しいものではなく、名付けられて認識が広まってきたのだと思います。大切なことは、PPIは患者さんだけではなく、市民、つまり私たち全体が参画するものであり、社会全体のためにあるということです。健康な人も未来の患者かもしれませんし、誰にもかかわりがあるのです。
また、PPIでは目的を明確にして、その目的に合致した意見を言える人が参加することも重要です。求められているのは、病気とともに生きる個人的な経験をもった患者さんか、病気の経験をもちつつ客観的な情報を伝えられる人か、あるいは特定の意見や立場を明確に伝えられる患者代表なのか。参加する側も、意見を聞く側も、その点を認識したうえでPPIに取り組むことがうまくいくコツと思います。
意見を適切に伝えるコミュニケーションスキルが必要
専門職としての経験から、日本の患者さんは、医療者への質問や要望を伝えることが苦手な人もいると感じています。そこで、PPIに取り組む人には、コミュニケーションのトレーニングが必要だと考えて、オンライン講座では「円滑な意思疎通のためのコミュニケーション術」「リーダーシップに繋げるコミュニケーション」などを担当しています。
臨床の場では医療者が専門職として患者さんに接しますが、PPIでは、医療者も、患者・市民も、お互いに対等なプロフェッショナルの立場となります。良い意見をもっていても相手に伝わらないと意味がありませんし、安心して発言できる心理的安全性やお互いの関係性への配慮も必要となります。患者・市民の皆さんにも、さまざまな立場の人が集まる場で自分の意見をうまく伝える方法を活用していただきたいと考えています。
PPIを学ぶ場が創出され、学びたい人が学べる環境になっていることはとてもよい流れだと思います。異なる立場の人が知恵を出し合い、協力し合いながら未来の社会のために新しいものを創り出す。そして参加した人すべてに得るものがある。そんなPPIが広まっていくことを期待しています。
PPIの学びの場
(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe.tokyo)
体系的な人材育成PEエキスパート学習コース
※PE=Public Engagement(公共関与)
藤原 紀子 さん プロフィール
東京大学医科学研究所附属病院先端緩和医療科に看護師として勤務。(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe)理事、国際婦人科癌学会(IGCS)Patient Advocate Committee委員、国際臨床研究看護学会(IACRN)委員。