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外部講師として「がん教育」に参画
がんに対する理解を深めるために、
がん経験者や家族の声を届ける

外部講師として「がん教育」に参画
がんに対する理解を深めるために、
がん経験者や家族の声を届ける

日本人の2人に1人ががんにかかるといわれる中で、子どもの頃からがんについて正しい理解をもつことを目的に始められた「がん教育」。がんに関する科学的根拠に基づいた知識を学び、がんを通して健康と命の大切さを考える教育を進めるにあたっては、医療者やがん経験者などの外部講師を活用することが文部科学省より推奨されています。

そこで、外部講師の育成をはじめ、がん教育に積極的に取り組む「全国がん患者団体連合会」の松本陽子さんに、その活動内容や、がん経験者・家族が、がん教育に参画する際に心がけたいことなどをお聞きしました。

一般社団法人 全国がん患者団体連合会
副理事長 松本 陽子 さん


「NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会」理事長。19歳のときに、父親をがんで亡くし、33歳で自らも子宮頸がんの治療を受ける。2008年がん患者と家族の会「愛媛がんサポートおれんじの会」を設立。2009年NPO法人化。2015年全国がん患者団体連合会の立ち上げに加わる。

 
 
まず、全国がん患者団体連合会(以下、全がん連)は、がん教育に対して、どのような取り組みをしているのかを教えてください

当会を設立した頃、「がん教育」が注目され、各地でがん経験者による出前授業などが始まっていました。そこで全がん連としてもがん教育の目的や方向性を整理して、体系的に学べる場をつくろうと2016年12月に開催した「がん患者カレッジ」のテーマの一つとして取り上げました。

その後、2018年に発表された「新学習指導要領」で、正式に小中高でがん教育が始まることになり、外部講師の学びの場も進展させる必要があると考えて、全がん連では2020年2月から「がん教育外部講師のためのeラーニング」という外部講師養成プロジェクトをスタートしました(2023年1月終了)。同時に「がん教育における配慮事項ガイドライン」を制定して、当会のホームページで公開しています。

がん教育外部講師・eラーニング修了者リストも公開しており、さらに承諾を得られた方については、所属団体や連絡先を地域の教育委員会に伝えています。また、定期的に「がん教育オンライン交流会」を開催して、外部講師としての悩みや課題を共有し、情報交換を行っています。

がん経験者である外部講師として 大切なのは、どのような点でしょうか

がん教育の様子 がん教育の様子 がん教育に携わる人は、そもそもがん教育とは何か、なぜ必要なのかを理解し、がんを伝える基礎知識をきちんと学ぶことが必要だと考えています。そして何より大切なことは、「自分のためではなく、子どもたちのために話す」ということです。学習指導要領という枠組みの中で、また学校関係者や、医療者の外部講師の発言をふまえたうえで、がん経験者としての自分の役割は何か、子どもたちのために必要なことは何なのかを整理して話すことが求められると思います。

がん教育の場では、医療者とがん経験者・家族の外部講師がそれぞれ話をすることが多いのですが、医療者による医学的な情報提供、当事者による経験に基づいた話、そして、授業後のフォローも含めた学校関係者の発言がバランスよく組み合わされていることが理想だと思っています。

また年齢による理解度を考慮することも重要です。私は教育関係者の助言を得て、小学生にはがんはどんな病気なのかを理解してもらうこと、中学生には自分と距離の近い人ががんになったときにどう考えるかを、高校生には社会としてがんをどうとらえていくのかを考えられるようにすることを念頭に置いて話しています。

 
 
具体的に注意していることがあれば教えてください

がん教育における配慮事項ガイドライン がん教育における配慮事項ガイドライン 以前、一緒に話をした医療者が喫煙習慣の影響を強調して、家族が非喫煙者なのに肺がんになったという生徒さんがとても傷ついたということを、後日、関係者から知らされたことがあります。多様な状況の子どもがその場にいる可能性を考え、「非喫煙者でも肺がんになることがある」と私が補足して伝えるべきだったのではないかと深く反省しました。以来、「誰かを傷つけたらがん教育の意義はなくなる」ということを常に忘れないように努めています。

たとえば、「早期発見が大切」と強く訴え過ぎると、検診対象にならないがんや、発見が遅れたがんの家族がいる子どもたちにはとてもつらい話になりますし、家族の支えを強調し過ぎると、家族に恵まれない子どもにはつらい話になります。がん教育における配慮事項ガイドラインにもありますが、家族という言葉も、児童養護施設などで生活する子どもに配慮して「おうちの方」と言い換えます。今、この場にいる子どもたちが、いかに多様で、それぞれに生きづらさを抱えているかもしれない、あらゆるケースがあることを想像しながら話すべきと考えています。

もちろん、想像力には限界があり、絶対に傷つけないことは難しいですが、最大限の努力はしたい。そのために、学校側と事前に打ち合わせをするなどできる限りの準備を心がけています。ただ最近は個人情報保護の観点から、学校が家庭の細かい事情を把握していない場合もあることが課題となっています。

今後の展望やがん教育への思いについて聞かせてください

都道府県によってがん教育への予算や取り組みに差があるので、全国どこでも体系的に学べる場を提供することは重要ですから、全がん連では、終了したeラーニングの次の学びの場づくりに取りかかっています。

授業後に届く感想文を読むと、子どもたちが、こちらが想定している以上に深いところで理解してくれていることがわかり、「命の大切さを感じた」、「がん患者さんに対して自分ができることがわかった」など、素直な言葉が返ってきます。すぐにはピンとこない子どもも多いと思いますが、成長していろいろな場面で生きづらさを感じたとき、「命は大切だとがんの人の話を聞いたな」と思い出してくれたら、うれしいなと思います。

私が経験した子宮頸がんをテーマとした講演を依頼される場合もあります。その際は、ワクチンや検診を受けても完全に予防できないこともあること、そうした中で病気になった人が悲しい思いをしないような社会であってほしいし、これからを生きる皆さんがそんな社会をつくっていってほしいという思いを込めて話しています。

実際に学校に出かけて、子どもたちの前でつらかった経験を話すことは簡単なことではなく、負担に感じることもあります。しかし、がんを経験した者だからこそ、語れること、伝えられること、伝えなければならないことがあると考えてがん教育に取り組んでいます。

まねきねこの視点

必修化されて本格的に始まったがん教育で、がん経験者・家族の外部講師がどのような役割を果たしていくのか、その進展が注目されます。また、外部講師に求められる配慮は、がん以外の当事者の講演や教育参画にも必要な配慮と感じました。