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患者さん側が、どう生きたいかを伝えること共に悩み考え、
共に決定していく覚悟それが、共同意思決定の大切な要です

患者さん側が、どう生きたいかを伝えること共に悩み考え、共に決定していく覚悟それが、共同意思決定の大切な要です

琉球大学病院<br>地域・国際医療部 特命助教<br>臨床倫理士<br>金城 隆展 さん 琉球大学病院
地域・国際医療部 特命助教
臨床倫理士
金城 隆展 さん
臨床倫理士、倫理コンサルタントとして、琉球大学病院で、医療倫理教育、倫理コンサルテーション(倫理相談・支援サービス)を担う、金城隆展さん。終末期や重篤な状況になったとき、家族や医療従事者はどう本人の意思を汲み取るのか、また、そうなる前に患者本人はどのような準備をしておくべきなのか。振り返って、誰もが最善を尽くしたと言える共同意思決定をするためには、どのようなプロセスが必要なのかについて、お話を伺いました。

 
 
金城さんのお仕事の内容と、この職業に就いた経緯について教えてください

私はアメリカの大学で生命医療・臨床倫理学の修士号を取得した後、日本で博士号(学術)を取得し、現在は臨床倫理士として大学病院で働いています。もともとは倫理コンサルタントと名乗っていたのですが、2012年に琉球大学に入職した際に「もっと馴染みやすい名称にしてください」と事務方から依頼があり、以後、臨床倫理士として働いています。当時も病院で働く哲学者、倫理学者がほとんどいなかったのですが、いまだあまり進展はありません。

母が重い心臓病で、発作で苦しむ姿を子どもの頃から見ていました。「どんな痛さなの?」と聞くと、「心臓に包丁を刺すような痛さ」だと言います。それはそうとう痛いだろうなと。そこから病気や医療について興味をもちました。私が中・高校生の1980年代後半の頃に、エリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間 死とその過程について』や、山崎章郎の『病院で死ぬということ』などの書籍に触れました。日本でもホスピス運動が始まった頃であり、どうやら、医療には延命という問題があるらしい、ただ命を延ばすだけでは患者さんは幸せになれないということがわかってきて、母のためにも医療をよくしていかなければという思いが芽生えました。医療をよくするためにどうすればいいのか、それは優れた医者や看護師を育てること、教育です。そんな教育に携わりたいと思ったのです。

患者・家族が治療の選択肢を決めるとき、医療従事者との共同意思決定が大切だと提唱されています

2018年3月改訂<br>厚生労働省 「人生の最終段階における医療の<br>決定プロセスに関するガイドライン」を参考に<br>金城さんが作製した共同意思決定のプロセス 2018年3月改訂
厚生労働省 「人生の最終段階における医療の
決定プロセスに関するガイドライン」を参考に
金城さんが作製した共同意思決定のプロセス
医療従事者と患者・家族がどのように共同意思決定をしていくか、理解が進んでほしいと思っています。なぜなら、圧倒的に知識が多い医療従事者と、一般の人が対等に話をして意思決定していくのはとても難しいのが現状だからです。ひとつ、たとえ話をしましょう。あるお店に入ってワインを注文します。ソムリエは多くの知識から、料理に合ったワインを何種類も説明して提案してくれますが、ワインのことをよく知らない私たちがそこから選ぶのはとても難しいでしょう。同じことは医療にも言えるわけです。医学的知識と経験値も豊かにもっている医療従事者から見ると選択肢ABCがある。

ところが患者さんは、いくら説明されても、治療の知識や経験もないから、選択肢として見えていない可能性があります。ひとつの解決策としては、患者さんに医療従事者と同じくらいの知識をもってもらうこと。アメリカ人はこれが得意です。自分の飲む薬を徹底的に勉強する。なぜなら、小さな頃から自己決定をすることの重要性を教育されているからです。ところが日本ではそのような教育はされていないので、なかなか自分で選ぶことができないわけです。ではどうするかというと、ワインの話に戻りますが、私としては、少し思考を逆転させることを提案します。相手が提示したものを選ぶのではなく、こちら側から相手に自分の必要性を伝える。たとえば、今日、自分がどんな一日を過ごし、嬉しかったこと、悲しかったことも経たうえでこの席にいる。嬉しいことがあったのでそれを皆でわかち合えるワインを、嫌なことがあったので元気が出るワインをとソムリエに伝える。するとそれに合うワインをソムリエが選んでくれる。私は、そういう形なら、日本における共同意思決定のあるべき形に近づくのではないかと思ったのです。まず、医療従事者に自分のことを知ってもらう。自分がどういう人間で、何をしたいか、どんな風に生きていきたいかを伝える。それに見合った治療法を提示してもらい、説明してもらう手法です。

患者が意思決定できない病状でも置き去りにしないために家族や関係者、医療従事者はどう対応すればよいのでしょうか

患者が意思決定をできない状態の場合は、家族や関係者が代わりを務めて意思決定していくようになります。そのような役割の人をキーパーソンと呼びます。ひとつ、気をつけなければならないのは、「キーパーソン病」と私が称する状況に陥らないようにすることです。日本の医療従事者はキーパーソンが大好きで、家族や関係者の中に、よかれと思って率先して意見を言うような、意思決定を誘導してくれる人を探しています。そのような相談を受けたとき、私は医療従事者から一連の話を聞いてから、「ところで患者さんはなんと言っていましたか?」、あるいは「この患者さんが今、話せたら何を言うと思いますか?」と尋ねます。すると目を丸くして、「考えたことがありません」と言います。これが医療従事者がかかりやすいキーパーソン病です。

そのように患者さんが置き去りにされていく状態を何とかしようということから提唱されたのが、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)です。これは、人生の最終段階において、意思決定能力がなくなったときに備えて、自分がどう治療をしてほしいか、してほしくないかということを、よく話し合っておくという手法です。

ただし、ACPというのは具体的に決めることが大事ではないのです。決定する内容は病状によってその都度、変わります。なぜそれをするのかというと、準備なのです。話し合いを重ねていくことによって、来るべきときに、周りにいる人たち、医療従事者の人々が、本人にとって医療的に最善でかつ、本人らしさの価値観を十分に反映した決断ができるように、まず準備をしておくことが大切です。病状は日々刻々と変わり、本人の意思を確認することができない場合ももちろんあります。ただ、そこで本人の意思を推定する努力も必要です。

金城さんは、共同意思決定の三つの覚悟を、提唱されていますね

はい。共同意思決定の三つの覚悟として、これらを提唱しています。

①患者を置き去りにせずに、患者を中心とした、「その人らしさ」「患者の思いや価値観」に基づく支援をする覚悟
②とことん話し合う覚悟(対話の文化の醸成)
③共に悩み考え、共に決定していく覚悟(共同意思決定)

患者が話せない場合は、家族、関係者や医療従事者が、この三つの覚悟をもっておくことが大切です。正解はないかもしれません。ただ、私が大切と思っていることは、正解ではなかったかもしれないが、一緒に悩み過ごした時間、そのプロセスがあれば、振り返ったときに、私たちはその状況の中で最善を尽くしたと言えるのではないか。共に悩んで下した決断、そこを目指していってほしいと思っています。今後も、共同意思決定に関しては、医療従事者からの一方通行ではなく、相互方向の話し合いを進めていきたいです。

また、物語(ナラティブ)の重要性をこれまで伝えてきましたが、今後の10年は、物語のもつ危険性を研究して伝えていきたいと思っています。物語によって人を傷つけたり、戦争が起こったりする。物語そのものには罪はありませんが、それをきちんと理解して、どう使っていくか。それが倫理なのですが、そのためには物語のもつ負の側面も伝えなければいけないと考えています。

金城 隆展 さん プロフィール

1971年生まれ、沖縄県出身。2000年米国ロマリンダ大学大学院生命医療・臨床倫理修士号取得、2008年大阪府立大学大学院博士号取得。ロマリンダ大学クリスチャンバイオエシックスセンター運営管理人、大阪府立大学人間社会学部客員研究員、東京大学大学院医学系研究科特任研究員、琉球大学医学部非常勤講師、群馬大学非常勤講師、琉球大学医学部附属病院特命一般職員を経て現職。