第2回 体験的専門知識
特定非営利活動法人ひょうごセルフヘルプ支援センター
代表 中田智恵海(佛教大学 教員)
体験したからこそ分かること
ボークマン(Borkman,T.)はセルフヘルプグループが蓄えている知識を体験的専門知識と名づけて、専門家が保有する専門的知識に匹敵する、と主張しました。今回はその一例です。
5月のある日、保健師さんの呼びかけで、表皮水泡症の方たち(約20名)の会合が兵庫県で開かれ、患者さんとその家族、保健師さん、そして私が参加いたしました。
表皮水泡症は難病特定疾患の一つですが、症例が少なく、日々の暮らしの中で生ずる困難なことを相談できる方も、なかなか見つかりません。
入浴一つをとりあげてみますと、身体中ぐるぐる巻きにした包帯を取って、ようやく入浴。包帯を取るのを痛がって子どもが泣くので、ゆっくりと時間をかけねばなりません。入浴を終えると薬を塗ったガーゼを身体中、手や足の隅々まで巻いていく。入浴だけで4〜5時間もかかってしまって、それだけでフラフラ、という話に皆さん、うなずいておられました。そのうなずきには、難病の子どもを育てることの辛さや哀しみといった情緒的な思いへの共感はもちろんのこと、自分がフラフラになった時のしんどさの体感が伝わっているようでした。
その中のお母さんが「私は時々、入浴を省いて子どもと一緒に楽しい時間を過ごそうと心がけたこともありました」と発言され、皆さん、「あぁ、そういう方法もあったのか・・・」とハッとされた様子です。また、40歳代の患者さんは「皮膚にくっついている包帯を無理やり剥がすのはとても痛いから、自分はぬるめの温度にして包帯をつけたまま入浴して自然に包帯が取れるのを待つんです」と。これにもお母さんたちは「そうかぁ・・・」。他にも「包帯をとめるテープは○○が付きやすいしはずしやすい」「ガーゼは××がいい」「薬は何を?」「口の中に水泡ができてモノが食べられなくなった時はどうしてる?」「自分で針で突いて水泡を潰します」「ウチも、そう」「やっぱりそうなのね。それしかないのね・・・」といった具体的で体験的な話が交わされます。
一人ひとりの日々の試行錯誤の経過や結果といった貴重な情報が、一気に花開いて、皆さんに伝わる時といえましょう。
一方で、間違った情報をきっちりと選別していく知恵も持っておかなければなりません。「□□というお水を勧められたけど、関係なかった」「漢方薬はどうだろう?」「宗教を勧められた」「民間療法に飛びつくのは危険」「どこでどういう風にウチの子の病気のことを知って来られるのでしょう?」といった話も現実的です。こうした会合では、そういった情報についても充分に語り合われます。そういう語り合いの中から、情報を自分自身で取捨選択していきます。自分で決めるということはとても勇気が要りますが、その決定にお仲間からのサポートがあるのです。
そして、会合の終わりには、「今日は皆さんと会って話ができてとてもよかった。今日、参加できなかった人にも呼びかけて、また、会を開催しましょう。今度は自分たちで」と会の名称、世話人なども概ね決めました。次回からは自分たちの会としての活動です。「自分たちの病気のことについては、自分たちが最もよく知っている、そのことをみんなで共有して自分らしく生きていこう」という姿勢に主体性が表れるのです。
筆者紹介
口唇口蓋形成不全の子どもの親の会の元代表、世話人を経て2000年より、佛教大学 教員、特定非営利活動法人 ひょうごセルフヘルプ支援センター代表
情報誌を発行したり、毎年セルフヘルプセミナーを開催して、さまざまなセルフヘルプグループを市民、行政職者、専門職者などに広報し、生活課題を抱えて孤立する人をセルフヘルプグループにつないだり、リーダー支援のための研修会を開催している。