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座談会 ヘルスケア関連団体の歩みとこれから

座談会 ヘルスケア関連団体の歩みとこれから
2001年からのワークショップを経て ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(VHO-net)結成(2004年)まねきねこ創刊(2004年)からの歩みを振り返る

『まねきねこ』では、創刊当初からヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(以下、VHO-net)の活動を数多くご紹介してきました。そこで、まねきねこ第50号を記念して、VHO-net中央世話人の皆さんに、ヘルスケア関連団体の歩みやその変化、そして、これからの活動への期待を語り合っていただきました。

座談会出席者

VHO-net中央世話人
増田 一世 さん
公益社団法人 やどかりの里 常務理事

森 幸子 さん
一般社団法人 全国膠原病友の会 代表理事
一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会(JPA)代表理事]

松下 年子 さん
横浜市立大学大学院医学研究科 看護学専攻・医学部看護学科 教授

山根 則子 さん
公益社団法人 日本オストミー協会横浜市支部 副支部長

VHO-net事務局
喜島 智香子 さん
ファイザー株式会社 コミュニティー・リレーション・チーム 部長


喜島
当社が社会貢献活動の一環としてヘルスケア関連団体の支援について構想をもったのが2000年。翌年の2001年にワークショップを開催しました。そして2004年にVHO-netを結成し、ヘルスケア関連団体の活動の紹介や、団体運営、ネットワークづくりを支援するために、まねきねこを創刊しました。
そこで、まず、それぞれの分野での当時の状況やその後の変化について教えてください。

増田
障がいの分野で前進した部分は、2006年に障害者権利条約が国連で成立し、2014年に日本が批准したことです。VHO-netも患者の声をきちんと医療に届けようと当事者自身が主人公になった医療を目指してきましたが、障がいの分野でも、「私たちのことを私たち抜きで決めないで」を合言葉に、権利条約批准にふさわしい障がい者制度をつくろうという運動が高まりました。
当事者の主体性や権利などがクローズアップされ、それを好機として今後に活かすという意味でも、この十数年の活動の意義は大きいと感じています。


私は2000年頃から、全国膠原病友の会滋賀支部や滋賀県難病連にかかわりました。当時、難病対策の限界は指摘されていましたが、具体的な法制化は決まっておらず、医療費助成の対象となる特定疾患が少しずつ増える程度で、不公平感が高まっていました。
私が滋賀県難病連理事長に就任した2005年頃から、難病相談支援センターが各都道府県に設置され、行政との関係が、対立から協働へと変化していきました。そして2012年成立の障害者総合支援法(旧・障害者自立支援法)の対象に難病が入り、2015年には難病法が施行されるなど、難病の患者を取り巻く状況が大きく変わった14年間でした。

山根
2000年頃から都道府県より受託したオストメイト社会適応訓練事業を日本オストミー協会各支部で実施できるようになり、また2003年の身体障害認定基準改正により、オストメイトは全員、即時障害認定を受けられるようになりました。多機能トイレが普及したことも大きな変化で、オストメイトも行動的になってきました。
またヘルスケア関連団体のリーダーには女性が多い印象がありますが、当会は今も支部長はほとんど男性ですが、女性会員が活躍する場面はだんだん増え、女性が元気な支部は活動にも活気がある印象があります。

松下
私は依存症のセルフヘルプ・グループを研究してきましたが、この十数年で当事者団体と医療者が連携するようになり、2013年にアルコール健康障害対策基本法ができたのが大きい変化ですね。
早期発見・早期介入で、必要な人はセルフヘルプ・グループにつなげるなど、回復医療に当事者団体が認知されたことが注目されます。また海外では有名な女優や政治家が、依存症の経験をオープンにするようにもなりました。アルコール依存症の当事者団体は他の団体のモデルになっているので、こうした流れは今後、他団体へも影響していくと考えています。

ヘルスケア関連団体の直面する課題と役割


喜島
医療者と患者の関係性や相互理解は、VHO-netの活動の中でもとても大きなテーマとなってきました。医療者と患者がお互い理解を深め、課題を共有し、解決するためにヘルスケア関連団体の果たす役割などについて、考えを聞かせてください。

松下
医療者が、ヘルスケア関連団体と連携するには、今の医療者への啓発も必要ですが、若い医療系学生たちへの働きかけが必要だと思います。

山根
声を届けるだけでなく、ともに生活するような体験実習があると日常的な生活が想像できるのではないでしょうか。医療系学生がヘルスケア関連団体のイベントに参加するなどの体験があると医療者の考え方も変わってくるのかなと感じます。

増田
当事者にとっては、疾患と生活と人生は切り離せない。病気だけではなく、これまで歩いてきた人生や、これからどう暮らしていくかという連続線上に患者が生きていることを医療者がわかっていないと、患者さんを本当に理解できないですよね。
すべての人には生活があり人生があることを、専門職の教育やトレーニングの中でも、ヘルスケア関連団体がもっと強調してもいいのではないかなと思います。

喜島
当事者の言葉がよりよい医療者をつくる原動力になるわけですね。医学教育への働きかけはひとつの団体では難しいですが、VHO-netとしてならば、医学教育に患者の声を活かすという提案ができるかもしれませんね。

松下
当初、私は、団体のリーダーが集まって、より創造的な活動に取り組むことは、本来は公的な機関が行うべきだと思っていました。しかし地域格差もあり、国に任せるとパーフェクトにできるわけではない。VHO-netの活動をみていて、医療者と患者の橋渡しは、民間が先取りして取り組む方がよいのかなと実感しています。


社会の方が先に動いて、あとから整理して制度をつくっていくのが国や行政という印象がありますね。最近は国や行政もヘルスケア関連団体の存在意義を認め、支援も行うようになりましたが、事業費は助成しても、団体運営のための活動費は認めない。そこが、私たちが活動を進めていくうえでの大きな課題ですね。

喜島
特にJPAのような連合団体には、公的な機関が運営に関して経済的支援を行い、国や行政ができない部分をカバーしていけるようにしてほしいですね。

松下
事業費は助成するが、活動費、つまり人件費を対象としないということは患者さん自身を尊重する姿勢がないということ。まず人件費を認める仕組みづくりが必要ですね。


また最近、医療講演などには参加するが、団体には入会しないという人が増えています。団体そのものを支える会員は高齢化して減少し、若い人は加入しない。行政の会議などでヘルスケア関連団体の参加が求められることは増えてきましたが、会員が減り、団体そのものの存続が難しいことも大きな課題だと思います。

これからの歩みに向けて


喜島
これからのヘルスケア関連団体の活動やVHO-netについて、どのような期待や展望がありますか。

増田
注目しているのは、看護師の存在です。患者さんのいちばん身近にいる看護師が、医師と対等な立場になると、患者さんの立ち位置も変わっていくと思います。そして患者さん一人ひとりが、生まれながらにもっている権利にもっと自信と確信をもってほしい。
こうした考えをもつ人はまだマイノリティですが、これがマジョリティになっていくと、医師と患者の関係も変わってくると思います。そして「行政にお世話になる」「いつも助けてもらっている」という当事者の意識を変えていく役割は、VHO-netにあるのではないかと思っています。


難病法の基本方針に目指すべき方向性として、地域で安心して療養しながら暮らしを続けていくことができるよう、〝治療と就労の両立を支援する体制〞が組み込まれました。それまで医師は患者の日常を知らず、患者も就労や生活の困難を伝えていなかったのが、障害者雇用促進法や障害者差別解消法ができ合理的配慮が言われるようになり、やっと難病対策として就労が取り上げられるようになったのです。
今後は医療者に対しても、行政に対しても、しっかりと伝えるべきことを伝えられる患者を育てていきたい。患者が安心した環境の中で過ごせていると治療効果も高まることを医療者も認識して、よりよいパートナーになってくれるよう働きかけていきたいですね。

山根
ヘルスケア関連団体は、この10年で大きく変わってきたと思いますが、もっと変わらなくてはと思います。もっと患者が賢くなり、医療者にきちんと伝えていかなければならない。自分の団体だけでなく、いろいろな団体と交流し協働できる場が必要です。
私自身は、VHO-netの場で学ばせてもらい、役割を担うことで、人前でも話せるようになりました。VHO-netのような場がもっとあるといいですね。また医療者の理解を深めるために、今後、ワークショップに医療系学生の参加を促す方法もあると思います。今までと同じことだけではなく、もっと違う発想で学べる何かを取り入れていかなければならないと思います。

松下
アメリカでは、医療行為ができる診療看護師がいて「最後に患者さんを守るのは私」と医師にもしっかり意見を述べます。日本はまだ遅れていますが、専門性は高まっているので、よい方向に変わってくると期待しています。住み慣れた地域で最後まで暮らす地域包括ケアシステムの中で、訪問看護のニーズが高まり、看護師の地域で果たす役割が深まるので、その意味でも看護学生の教育は重要だと考えています。
そして地域包括ケアにおいてこそ、ヘルスケア関連団体のネットワークが必要になってくると思います。団体がさらに集まり、目的意識を明らかにしてよいモデルをつくることなどができれば、貴重な社会資源になると期待しています。


滋賀県の在宅医療等推進協議会のメンバーには、医師会や看護協会などとともに、私や、市民団体代表も加わっています。医療施策研究者の調査によると、滋賀県だけ当事者団体や市民団体が協議会に参加しており、その意見が活かされていることが医療計画の中にあらわれていると評価されています。

喜島
他県では委託が多い中、佐賀県ではヘルスケア関連団体が指定管理を受け難病相談支援センターを運営しています。先進的な地域の取り組みは、VHO-netが核となって、全国へ発信していきたいし、そうした考えを共有する学会のような場が必要ですね。
参加者の中だけで情報がシェアされるのではなく、メディアにも働きかけて、社会に発信するようなところまで考えたい。また、患者側と医療者側のコミュニケーション能力を高め、お互いに理解を深め、それが正しい医療につながるように、医療を支える主要な立場の人や医学教育に携わる人ももっと巻き込んでいくことが必要ですね。課題は多いですが多いからこそ、VHO-netの活動にも意義があり、未来に向かって開けることがあると希望をもちたいですね。

(敬称略)

社会学研究者の立場からのヘルスケア関連団体への期待


VHO-net中央世話人であり、セルフヘルプ・グループなどの研究を専門とする伊藤智樹さん( 富山大学人文学部社会文化コース 准教授)にも、ヘルスケア関連団体とのかかわりや期待をお聞きしました。

この十数年で、社会学の分野ではどのような変化がありましたか。


まねきねこが創刊された当時、私の専門である社会学においては、「セルフヘルプ・グループ」や「ピア・サポート」といった言葉自体が、まだあまり知られていませんでした。先輩の研究者に「なんだね、それは?」とよく言われたものです(笑)。今では、若い研究者を中心によく使われる言葉となり、社会学事典に載ることもあります。地元の富山でも、ヘルスケア関連団体の結成や、難病相談支援センターの設立などが2000年代に相次ぎ、大きな変化を感じました。

VHO-netとのかかわりや、現在のVHO-netでの活動について教えてください。


セルフヘルプ・グループ研究の一環として、パーキンソン病やALSの当事者団体に参加していたところ、北陸学習会メンバーの方々に誘われたのがきっかけです。最初は、どういう活動かわからなかったのですが、情熱ある患者や家族の方々に引っ張られるようにして(笑)、参加するようになりました。そして、ワークショップにも参加し、2015年から中央世話人を務めています。

VHO-netの中で地域学習会の果たしてきた役割や意義をどのように考えていますか。


病いや障がいを抱えながら社会に参加していくことに関心のある患者や家族が、モチベーションを保ったり成長したりできる機会は、まだ十分ではないと感じています。また、地方では、相互に会うための移動距離とコストが大きくなりがちで、特に県をまたいだ交流は、比較的規模の大きい団体を除けば、総じて不活発になります。これらの点で、VHO-netの地域学習会が果たしている役割は小さくないと考えています。

ヘルスケア関連団体が存続し、社会に発信し貢献していくために、どのような課題があるでしょうか。


多くのヘルスケア関連団体にとって、存続は悩ましい問題です。後から続く人にとっては、これまでの実績を生み出した組織構成や活動システムそのものが重たくて、敷居が高く感じられるようです。こういう場合、あくまでも各々のできる範囲で貢献することを認めながら、ひとたび役割を引き受けてくれたら、できるだけフリーハンドにしてあげる(フォローはするが、見守る)という雰囲気を平素から出しておくことが重要ではないかと思います。

その一方で、日本社会の政治の構造が、実はそれほど変わっていないこと、したがって、政策や行政にインパクトを与えようとするならば、決して一人ではできないことがあることを辛抱強く、こまめに内外に伝えていくことも大切ではないかと感じています。

ヘルスケア関連団体やVHO-netついて、どのような期待や展望がありますか。


課題はいろいろありますが、それは裏返せば、多様な可能性を秘めており、社会の変化に応じて新しいものを創っていける、提案していけるということでもあります。将来を楽しみにしたいと思います。

そのためには、まず活動をしている個人個人が、触発されると同時に、ほっとして、元気になれるような場であり続けることが肝要です。VHO-netの魅力が十全に活かされるにはどのようにしていけばよいか。地域で参加を迷っている人に、ワークショップやVHO-netそれ自体の魅力を端的に伝えるためには、どのような工夫の余地があるか。微力ながら皆さんと一緒に考えていきたいと思います。