より良い医療を実現するために
患者団体がリーダーシップをとり、PPIに取り組んでほしい
医学研究・臨床試験を身近に捉え、医療への関心を高める取り組みとして注目される患者・市民参画「PPI(Patient and Public Involvement)」。今回は、東大病院という臨床研究中核病院で、研究者と患者をつなぐ相談窓口としての業務を行う渡部歌織さんに、PPIの浸透やこれからの期待についてお話を伺いました。
臨床研究中核病院で研究者と患者をつなぐ相談窓口を担当
CRCは、「治験コーディネーター」という名称を使う人も多いのですが、製薬企業が実施する治験のみではなく、研究者が主体の臨床試験のコーディネートも行っているため、東京大学医学部附属病院(東大病院)では「臨床研究コーディネーター」と称しています。当院は先進医療の臨床試験を実施できる特定機能病院であるとともに、国内で15ヶ所ある臨床研究中核病院の一つであり、企業が実施していない研究も多く行っています。研究を支援する専門の部署では、ウェブサイトにて、どのような臨床研究を行っているかという情報公開や、研究者と患者さんとをつなぐ業務も行っています。臨床研究中核病院では、患者さんを含め国民の臨床試験に対する相談を受ける体制を整えており、私はその相談窓口を担当しています。臨床試験に関する相談において、患者さん一人ひとりに合った情報を提供することで、それが患者さん自身の学びにもつながることもあります。一般の方とお話していると、新しい治療の一つとして治験を求めてらっしゃる相談が多い。PPIに関しても、患者さんが情報を得ることや、臨床試験に参加する意義など、裾野を広げていくことを意識し、参加している方や関係者の不安に寄り添い、相談に対応しています。
患者の意見を集約し研究者に届ける患者団体の役割に期待
一人ひとりの患者さんが、こんなことに困っている、こんな薬がほしいと申し出られても、それで物事を動かすのはなかなか難しいと思います。そういう声を患者団体で集約し、その領域を得意とする研究者に届ける。みんなで動いた方が、エンジンが加速するのではないかと思っています。そのために、意見をとりまとめる力、研究者を探し交渉する力、対等に話し合える技量をもつことが、患者団体に期待されているのではと考えています。医学生に対する教育でも、PPIについて学ぶ機会がありますが、研究者だけで開発を進めてもひとりよがりになることもあり、もっと最初の段階で患者さんの意見を聞くことの大切さを教えています。ただ、研究者がどのようにして患者さんとつながるのか、悩むケースもあると思うので、躊躇せずに患者団体の声を関係機関に届けてくださるのはウエルカムだと思います。
CRCの領域でも、PPIが注目されだしたのは2019年頃からです。全国のCRCが一堂に会しての集会が年1回あり、そこで初めてPPIという取り組みがあることが認識されました。それまでは、医療を提供する(Give)という意思で一生懸命やってきたのですが、そうではなく、対等の立ち位置で、より良い治験や臨床試験をしていきましょうという視点が提示されました。まだ、わずか5年前です。医療機関も患者さんが気兼ねなく相談できる体制を整える必要性があります。医療従事者もPPIを積極的に意識していかなければならないですし、製薬会社などの企業側、患者団体も、一緒に経験を積んでいきましょうという段階だと私は思っています。
PPIの学びの場
(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe.tokyo)
渡部 歌織さん プロフィール
東京大学医学部附属病院の病院薬剤師を経て、院内初のCRCとなる。(一社)日本臨床薬理学会認定CRC。現在は臨床試験の患者相談や情報公開などに従事。厚生科学審議会臨床研究部会にてCRCの立場で委員を務める他、(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe)理事、(一財)臨床試験支援財団理事などを務める。