NPO法人 MSキャビン
理事長 中田 郷子
「MS(Multiple Sclerosis)とは、多発性硬化症というあまりなじみのない脳・脊髄の疾患で、国内の推定患者数は約1万人と言われています。MSキャビンは、症状の程度によって身体的、社会的に多くの影響を受けるMS患者に対し、不足している情報を提供することで病気を受け入れ、病気とうまくつき合っていけるようサポートしている団体で、そのユニークな活動が注目されています。
活動の状況
MSキャビンを立ち上げたきっかけは、MSがどんな病気であるかを知りたくて、インターネットで調べたところ、日本には患者向けの情報がほとんどないと気づいたことです。海外には病気のことを詳しく説明したウェブサイトがあり、これを多くの患者さんに教えたいと考えてホームページを開きました。少しでも見てもらえればいいなと気軽に始めたのですが、すぐに患者さんや家族からメールが届くようになり、病気に関する情報を求めている人が多いことがわかってきました。1999年に製薬会社から支援の申し出があって講演会を開催したところ、参加者が一気に増えて組織が広がり、今年1月特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けました。主な活動はニュースレター「バナナ・チップス」や小冊子「多発性硬化症シリーズ」の発行と、セミナーの開催です。NPO法人になって銀行口座も開設が容易になるなど活動しやすくなりました。次の段階として、認定NPO法人をめざしています。
MSキャビンの特徴は、多くの出版物を発行していることで、購読メンバーは現在約1800人です。出版物は、私がパソコンで原稿やレイアウトを作り、イラストは姉や父に描いてもらっています。当初は印刷も自分でしていました。MSを詳しく解説した「多発性硬化症完全ブック」は、医学部学生にも読まれています。また、MSの場合、子どもと成人では症状が違い、学校等の問題もあるので、患児の保護者を対象にしたニュースレター「ポテト・チップス」を創刊しました。続いて思春期世代を対象にしたニュースレターも企画しています。
まずは情報提供、そして患者の行動につながる活動へ
多発性硬化症患者は国内で約1万人と言われています。見た目ではわからないけれどしびれていたり、隠れた症状を持っている、比較的軽い人が多いのではないかと私は感じています。しかも若い人の発症が多いので周囲からは「若いのになぜ家にいるの」「どうして仕事をしてないの」という目で見られます。MSは、こんな病気だと説明しにくいし、元気そうに見えるから理解されにくい。そのためにひきこもりがちになったり、消極的になる患者が多いのです。
一方で、医師から「MSは一生治らない」、また難病指定されているということで本人や家族が落ちこんでしまう場合もあります。さらに地方によっては専門の医師がいない、目に症状が出ることが多いのに、MSを理解している眼科医が少ないなど医療の問題もあります。
患者自身が病気を理解していないと良くなるものも良くならず、症状が重くなってしまうかもしれません。また、自ら求めて適切な治療を受ければ、もっと積極的に行動できる人はたくさんいるはずです。だからこそ情報提供が重要だと私は考えています。医療に問題があるにせよ、最近は、患者が行動に移すために一緒に考えていけるような活動に力を入れ、患者だけで10〜20人集まって、自分には何ができるのかを話し合う「グループワーク」や「勉強会」を始めています。
私は、MSでも精神的には普通に生活できると思います。症状や障害に応じてできることはあるはず。健康な人でも何らかの問題を抱えているわけですから、病気の人もできることはしてほしいし、するべきだと思います。そのためにMSキャビンが役に立てればと願って活動しています。
組織の概要
■創立:1996年2月(2004年1月法人格取得)
■スタッフ数:20人(専従1人・ボランティア19人)
■務局:東京都荒川区南千住
■年間活動費:2,000万円(2003年度)