社団法人 日本てんかん協会
常務理事・事務局長 福井 典子/事務局次長 富田 明子
日本てんかん協会は、てんかんによって起こる悩みや苦しみを解決するため、1973年に発足した「小児てんかんの子どもをもつ親の会」と「てんかんの患者を守る会」を母体にし、1976年に統合し設立された全国組織の団体です。いち早く全都道府県に支部を設けたり、最近注目されているピアカウンセリングに、会の設立当初から積極的に取り組むなど、独自の活動を続けてきた「日本てんかん協会」をご紹介します。
活動の状況
医療専門職も多く参加する患者会
日本てんかん協会は、1981年に社団法人に認定され、会員は現在 約6500人。会員には、当事者(患者本人と家族)の他、医師、専門職も会員の約2割が参加。当事者にとって心強いだけでなく、啓発活動において果たす役割も大きく、てんかん協会の広く市民や社会と共同しようとする姿勢を示しています。当会は、全都道府県に支部がありますが、これは創設期のメンバーが、てんかん学会と協力しながら、全国で医療講演会や医療相談会などを開き、組織を立ち上げてきた成果です。当初から医療専門家と連携してきたという点でも、創設期の組織づくりがユニークであったと思います。医師の側も使命感をもって患者会の設立に協力してくれ、今も友好な関係が続いています。
さて、当会の活動としては、まず会報「波」の発行があげられます。医師や当事者による編集委員が制作を担当していますが、できるだけ会員に読んでもらえるように誌面作りを工夫しています。どう読まれているのか反応を知りたいので、定期的にアンケートもとることにしています。「毎日ポストをのぞいて心待ちにしている」とそんな声も届くので、「ささやかなものでも全国の会員をつなぐ糸のようなものだから」と、緊張感をもって編集発行しています。最近人気がある記事は、当事者でもあるライターのエッセイ。当事者が東京でがんばっている姿は、会員に夢や憧れ、希望を与えているようで、いずれは書籍として出版したいと考えています。他にてんかんに関するものや当事者の声を集めた書籍なども多数刊行しています。
講演会や勉強会については、まず年に1回、主に専門職を対象に行う基礎講座。また、次々と生まれてくる患児と若い親のための基礎的な学習会も行っています。てんかん学会と共催でリレー講座なども開催しています。学会もとても協力的で、うまく連携がとれているのでありがたいと思っています。
全国大会は32回を数えます。開催については、もちろん本部も関わりますが、各支部が中心になって進めます。地方自治体の参加を得て運営委員会を立ち上げ、地方紙が取り上げてくれたりするので、その地域にてんかんの理解を深めることもできます。何より「集まること」は楽しいし、お互いに切磋琢磨することができます。全国大会を開くことになるとみんなの手を借りないとできない。すると、今まで参加していなかった若いお母さんも出てきて働く。支部の役員が交代して、どうなるかなあと心配しているとちゃんと活発な人が出てきて支えてくれたり…組織は生き物だなあと感じます。支部だけではなく、ブロック単位で活動している地方もあります。情報交流会で横のつながりができて、隣の支部と合同でキャンプを行い、さらに学習会などのときも近隣の支部がバックアップするなど協力体制をとっています。これも全国各都道府県に支部があるからこそとうれしく思っています。
創立当初からピアカウンセリングに取り組む
ピアカウンセリングへの取り組みも、当会の大きな特徴です。ピアカウンセリングのピアとは「仲間、同志」という意味で、普通のカウンセリングと違って「私はあなたと同じ仲間。あなたの苦しみの一部は私の苦しみのようなものだ」と言える人たちが行うカウンセリングです。
自分の障がいを自分で認めにくいとか、社会でうまく生きていけないから話を聴いてほしいという人たちが集うことを「セルフヘルプグループ=自助集団(自分たちで助け合うグループ)」と呼び、これをサポートするのがピアサポーターです。当会では発足当時から、全国各支部でピアカウンセリングを行ってきましたが、そのほとんどが支部の役員によるボランティアであったため、その継続性についてはつねに危機感をもっていました。
そこで各支部におけるピアカウンセリングの体制を、研修会や実践訓練を積むことによって充実させ、てんかんのある障がい者の生活の質の向上を得ることを目的に始まったのが「てんかんがある人々のピアカウンセリングを充実させるための事業」です。具体的には、独立行政法人福祉医療機構の助成を受けながら、てんかんのある障がい者のピアカウンセリング向け教材の開発と、協会会員およびその家族向けの講習会を実施し、その成果をまとめた報告書とマニュアルを作成しました。現在、ビデオとテキストを作成し、全国50か所で上映学習会を開催しています。テキストを加筆増補したマニュアルも刊行し、関係者だけでなく、医療機関、福祉機関のほか、統合失調症やうつ病の当事者団体にも配布しています。
次の世代に役立つ患者団体をめざして
てんかんは医学の進歩で「治る病気」になりました。それ自体は喜ばしいことですが、まだまだ患者や家族の抱える問題は多数あります。そうした問題を解決していくために、国会請願活動も行っています。JRの運賃の割引、小中学校用にてんかん副読本を作るという2つの請願が採択されましたが、副読本に関しては予算がないということで実現はしていません。こうした請願活動は国政への要求を実現することも目的ですが、全国の支部が署名活動を行うことによって、てんかんへの理解が深まり、てんかん協会の存在を示し、こういう要求があるということを知ってもらう効果があると考えています。自立支援法に関してもたびたび見解を提出しましたし、しっかりと主張する患者会としての存在感は示していかなければと考えています。
インターネットの広まりとともに、情報を得たいというだけの人が増え、会員数そのものは減っています。しかし、一緒に運動しないと患者を取り巻く状況は変わらない、情報を得るだけでは変わらないと考えています。社会に向けて切実な要求を実現していく力は、会員の力です。今後の課題として、できるだけ仲間を増やして会としての存在感を高め、いっそう積極的に活動していきたいと考えています。
お互いに共感を持ったり、意志の共有をしていくためには集まって話し合うことが重要です。患児が成長するにつれ、親との意識の違いも生まれてきますが、そういった悩みを共有できるのはやはり患者会だと思います。
日本は障がい者にとってまだまだ厳しい社会です。情報を得ただけで、ハンディキャップを持ちながら生きていくことは大変です。私たちは、これからも積極的に活動に取り組み、つねに次の世代のために何ができるかということを考える患者会でありたいと思っています。
組織の概要
■1976年設立/1981年 社団法人化
■会員数:約6500人
■本部事務局:東京都新宿区