社団法人 全国脊髄損傷者連合会
理事長 妻屋 明
全国脊髄損傷者連合会は、創立46年という代表的な当事者団体です。会員の多くが中途障がい者であることから、早くから社会に働きかけ、障がい者の社会復帰をめざして活発な活動を展開してきました。現在は、脊髄損傷者だけでなく、障がい者全体の問題にも積極的に取り組み、社会や行政に対する影響力も大きくなっています。そこで、特に最近注目されているピアマネージャー養成研修事業を中心に、その活動状況をご紹介します。
活動の状況
障がいが重くても地域で暮らせる社会をめざして
当連合会の創立は1959年。脊髄損傷者は病院で一生を過ごすものとされていた時代ですが、初代会長・伊藤治夫さんが全国の労災病院をまわり、会の結成を呼びかけました。脊髄損傷は主に交通事故、スポーツ事故、労働災害、転落、転倒事故など外傷性によるものと、脊髄腫瘍などの疾病によるもので、その多くが中途障がい者です。そのため、社会に復帰したいという気持がことさら強く、呼びかけに応えて、21支部会員750人の「全国脊髄損傷者僚友会」が結成されたのです。ちょうど東京オリンピックに続き、日本で初めてのパラリンピックが行われ、障がい者も社会に出るべきだという社会背景もありました。その後、1974年には各県1支部の全国組織となったので「全国脊髄損傷者連合会」という名称に変わり、2002年には社団法人となって今日に至っています。
主な活動としては、1974年から毎年、各地で全国大会を開催しています。さまざまな地域で開くには困難が伴いますが、全国大会が行われ、会員が集まると、その地域の行政や市民が脊髄損傷者に関心を持ち、宿泊施設などのバリアフリーが進むなど影響力が大きいので、あえて全国各地で開催しています。また、北海道、東北、北越、関東、近畿・東海、四国・中国、九州の各ブロック大会を年に1回開催しています。対外的な活動としては、年に1度、省庁交渉を行っています。今年度は、障がい者用駐車場問題、労災問題、有料道路の割引、脊損センターの設置などについて交渉しました。社会保障審議会や、福祉用具の見直し検討委員会にも委員として選ばれ、意見を具申しています。
最近は行政にも当事者の意見を聞くという姿勢があり、私たちも委員会などに参加して発言し、制度に反映させるという活動が増えてきました。他の団体と意見が異なることもありますが、私たちは「どんなに障害が重くても地域で普通に暮らせる社会をめざす」ことを基本的な理念とし、判断の基準としています。自立支援法についても、本部がリーダーシップをとって賛成し、私たちの意見が付帯決議や法律に盛り込まれました。発言力や影響力を大きくして「要求を勝ち取れる」当事者団体になることをめざしてきましたが、徐々にその形になってきていると思います。同時に責任ある立場になってきたとも言えるので、最近では障がい者差別禁止法の成立をめざす全国ネットワーク「JDA」や、日本障がい者フォーラム「JDF」にも参加し、脊髄損傷者だけでなく障がい者全体の利益を考えて積極的に活動しています。
患者団体だからこそできる活動
ピアサポートを広めたい
現在、特に力を入れている活動は、脊髄損傷者のピアマネージャー養成研修事業です。「ピアマネージャー」とは、脊髄損傷者同士のピアサポートが行える資格者を意味する造語です。今まで各支部で行われていたピアサポートを統一し、社会的に通用するものにレベルアップさせるために、3年計画でピアマネージャーを120名以上養成し、全国どこでも充実したピアサポートが行えるようにしたいと考えているのです。各地で研修会を順次開催していますが、すでにピアマネージャーとなった会員が活躍し、成果を挙げている地域もあります。
私たちのピアサポートは、突然の事故等で脊髄損傷となり病院のベッドで寝ている人の不安を解消し、必要な情報を提供するものです。ただ「がんばれ」と無責任に励ますのではなく、バリアフリー環境や障がい者に対する社会福祉制度などの知識や情報を伝え、社会生活が可能であることを理解してもらう、とても意義のある活動だと考えています。
ピアサポートと連動して、脊髄損傷者が知っておきたい知識をまとめたマニュアルも作成中です。脊髄損傷者がどういうサービスが受けられるのかを1冊にまとめて、重い障がいを受けても社会の中で生きていける「バイブル」を作りたいと考えています。また、脊髄損傷の多くは従来、労災病院で治療を受けてきましたが、労災事故が減り、労災病院が統廃合で減少しています。そこで私たちは、脊髄再生の研究も進んでいることを背景にして、各地域ブロックに脊損センターを作ることを提案しています。事故などで脊髄に損傷を受けた患者をヘリコプターで運び、早期治療を施せば、脊髄再生が成功する時代がくるのではないかと考え、その実現を国に働きかけています。
最近は、脊髄損傷者の入院期間が短くなり、その間に必要な情報を得ることは非常に難しくなっています。ピアマネージャーを受け入れてくれる医療機関はまだ少数ですが、入院中に私たちのピアサポートを受ければ、患者さんは希望を持ち、治療やリハビリテーションにも前向きに取り組むことができ、医療機関側にもプラスになるはずです。脊髄損傷者は、ピアサポートと治療をきちんと受ければ、社会で役立つ当事者となってくれるはずです。私たちはピアサポートこそ患者団体ならではの活動であると考え、ぜひ社会や医療機関にもこの活動の意義を理解してほしいと願っています。
主な活動
■脊損ニュースの発行(月1回)
■新制度および改正された制度などの最新情報の提供
■「全国車いす宿泊ガイド2001」の出版
■脊髄損傷者のピアマネージャー養成研修事業
■スポーツ振興(スポーツ競技大会の後援・協賛)
■バリアフリー推進
■請願活動、各省庁交渉および民間企業等への要請活動
■ふれあい教育(学校や地域における福祉講演など)
■調査研究
■無年金障がい者の支援活動
組織の概要
■1959年10月設立
■会員数:約5,000人
■本部事務局:東京都江戸川区