NPO法人 日本コンチネンス協会
事務局長 藤江茂司
コンチネンス(Continence)とは、気持ちよく排泄のできる状態を表します。日本コンチネンス協会は、すべての人が気持ちよく排泄できる社会づくりを目指して、コンチネンスケア(排泄障がいの予防・治療・ケアの総称)にかかわる支援や教育、情報提供、研究開発などを行う団体です。今春からNPO法人として、より広く社会に向けての活動を展開している日本コンチネンス協会をご紹介します。
活動の状況
原点は、コンチネンスケアを学ぶ専門職の勉強会
日本コンチネンス協会のスタートは1989年、看護師である西村かおる会長(現NPO法人会長)が「コンチネンスケア」という考え方をもとに設立した「失禁勉強会」です。その後「コンチネンス研究会」の発足を経て、1993年から「日本コンチネンス協会」として活動を始め、今年3月には特定非営利活動法人(NPO法人)として、新たなスタートをきりました。各地の支部も地域の勉強会が発展したもので、今までは会計処理も支部ごとに行っていましたが、今後はNPO法人組織の本部支部として活動していくため、会計書類の作成や情報公開の手続きを現在進めています。
団体としての成り立ちが専門職の勉強会であったことから、現在も会員の8割以上が看護師、医師、介護士、ヘルパー、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)などの専門職で、2割弱が排泄に問題を持つ当事者や市民です。主な活動としては、排泄障がいがあっても正しく対処することで十分にコントロールできるという考え方に基づいて、専門職向けにコンチネンスケアに関する研修やセミナー、コンチネンスケア製品の研究開発などを行ってきました。当事者や市民に向けては、電話相談やコンチネンスケアに関する情報提供、PR活動などを実施してきました。
より社会的な活動に取り組むためにNPO法人格を取得
私たちが活動を始めて20年。以前と比べれば、排泄ケアに対する社会的な理解は広がってきたと思います。オムツなどのCMもテレビで普通に流れ、コンチネンス外来などの専門外来も設けられるようになりました。
しかし、例えば「尿もれ」が新聞やテレビで取り上げられると電話相談が一気に増えるのも事実で、まだ人に相談したり病院を受診したりすることができずに、一人で排泄に悩む人は多いのではないかと考えています。排泄障がいは目に見えず、周囲の理解が得にくく、教育現場での対応も整っていないため、障がいを持つ子どもたちの悩みも深刻です。また、病院や介護の現場での排泄ケアはかなり改善されてきましたが、まだ不十分な事例も見受けられます。さらに、高齢化の進展、あるいはがん手術後の排尿・排便障がいなどもあり、排泄障がいに悩む人はまだまだ多くいるのではないかと感じています。
こうした状況に対して、もっと当事者支援や、市民レベルの理解や賛同を得られるような社会的な活動に力を入れていくために、今回NPO法人格を取得しました。排泄は、さまざまな病気や障がいを横断するようにすべての人にかかわることなので、私たちの活動に求められるニーズは高く、多種多様であると考えています。
今後の活動の3つの柱
今後の活動は、コンチネンスケアへの理解を深めるための社会的な活動、当事者支援にかかわる活動、ケアを提供する専門職への活動の3つの柱で行っていきたいと思います。
■まず、コンチネンスケアへの理解を深めるための社会的な活動として、当会も所属する「インターナショナルコンチネンスソサエティ」(ICS)が、「6月第3週をワールドコンチネンスウィークに」と提唱しており、来年からは日本でもイベントなどを検討しています。また、コンチネンスという言葉がすべての人々や社会にポジティブに理解されることによって、悩みを抱える多くの人に貢献できると考え、国語辞典に載せる運動も始めています。尿もれの予防や改善に役立つ「骨盤底筋体操」や、谷川俊太郎さん作詞のイメージソングの普及にも取り組んでいます。また、排泄障がいを持つ子どもたちへの理解や支援を促すために、学校など教育現場にも働きかけて地域でのネットワークをつくり、市民レベルでの理解を得られるように社会的な活動を行っていきたいと考えています。
■二つ目の当事者支援にかかわる活動としては、電話相談に加えてピアカウンセリング、行政への提言を行っていきたいと考えています。また、電話相談基金や協賛金などで活動資金を確保していきたいと考えています。
■三つ目のケアを提供する専門職への活動は、コンチネンスケア学会の設立です。コンチネンスケア分野は研究者が少ないという問題もあるので、この学会ではコンチネンスケアの質を高める研究を行っていきたいと考えています。そして、今まで行ってきた教育的な活動をそれぞれの職種に分化させ、専門性を深めると同時に、専門職同士が協働できる環境の整備を目指しています。単なる知識やノウハウの普及だけでなく、専門職と患者さんとのつながりを大切にしながら、排泄をめぐる状況を改善していく社会的な活動にまで結びつけたいと考えています。
2006年の日本老年泌尿器学会では西村会長が代表世話人を務め、医療の視点だけではなく生活の視点から考えたコンチネンスケアを提唱しました。コンチネンスケア学会も同様の視点で、医療専門職だけではなく、介護専門職や当事者、市民などが幅広く参加する学会にしていくことを目指しています。
社会的な活動に取り組むコンチネンス協会と、研究を進めるコンチネンスケア学会が車の両輪のように動き、その2つの活動が交差するところですべての人が気持ちよく排泄できる社会を作りたいというのが、私たちの願いです。
主な活動
■支援活動事業
1990年より電話相談を実施
■教育事業
排泄ケアを学ぶセミナーや電話相談員セミナー、事例検討大会などを開催
コンチネンスアドバイザー(排泄ケアの専門家)の養成を目指したセミナーを計画
■情報収集管理と提供事業
月刊機関誌「コンチネンスナウ」を発行
WEBサイトの公開
排泄に関する最新情報のデータベース化や、当事者や家族とケアに携わる専門家のネットワークの構築を目指す
■調査研究及び開発事業
定例勉強会や事例検討、排泄ケア用品やケア方法の開発
■広報事業
コンチネンスという言葉や、コンチネンスマークの普及推進活動
■社会への提言活動事業
排泄に関する正しい知識を普及するための出版・講演会活動
マラニック大会開催(北海道支部)
組織の概要
NPO法人 日本コンチネンス協会
■設立/
1990年 日本コンチネンス研究会として設立
1993年 日本コンチネンス協会に改組
2009年 NPO法人日本コンチネンス協会(4月)として新たにスタート
■会員:約800名
■支部:全国8支部