NPO法人 環境汚染等から
呼吸器病患者を守る会(エパレク)
理事・事務局長 矢内純子
環境汚染等から呼吸器病患者を守る会(エパレク)は、ぜんそく、アレルギー、COPDなどの呼吸器の病気にかかわる知識の啓発や環境汚染等の改善を目的として、さまざまな形で患者を支援する活動を行っている団体です。患者としての経験や豊富な知識を持つ「熟練患者(EP=Expert Patient)」を中心に、当事者や家族と同じ目線での問題解決を目指す、その独自の活動について、理事・事務局長、矢内純子さんにお話をうかがいました。
活動の状況
熟練患者が、経験を生かして患者支援を行う
エパレクという名称は、「Expert Patient in Respiratory Care」の頭文字から取ったものです。そもそものスタートはある医療施設でのぜんそく患者を中心とした勉強会で、2003年に患者としての経験を役立てたいというボランティアや専門医が中心になってNPO法人を設立しました。現在、ボランティアとして参加している人のうち、約9割がぜんそく、あとの1割はCOPDなどの呼吸器系の病気の患者や家族です。
名前の由来ともなった「Expert Patient(EP)=熟練患者」とは、エパレクの学習会に参加して、自分の病気や自己管理方法を理解し、ぜんそくのコントロールができるようになった人の中から、ピア(同じ病気の仲間)としての活動に積極的に参加する意欲があり、認定試験をクリアし理事会で承認された人のことです。2010年4月現在、32人の熟練患者を認定しており、ぜんそくと診断されたばかりの患者などの相談に応えたり、病気や薬の知識や自己管理の習得法、自分の経験に基づいた生活上のヒントを提供するなどのサポートを行っています。
学習会や大相談会でも、熟練患者が活躍
エパレクの代表的な活動としては、毎月の学習会と、年に1回開催する大相談会があります。
学習会では、ぜんそくやアレルギー、COPDなどの病気や治療について、熟練患者が自己管理のコツを伝授したり、患者や家族の悩みや相談に応えたりしています。学習会の記録は『EPだより』として発行するほか、HPでも公開しています。
大相談会は、呼吸器の病気やアレルギーにかかわる専門家と、熟練患者、一般の患者や家族がテーブルを囲みながら、質疑やディスカッションを行い、それぞれの悩みや問題の解決法を探る場です。さまざまな関連する分野の専門家が参加し、また、薬の吸入やスキンケアの実演や個別指導も体験できるので、多くの患者さんたちの好評を得ているイベントです。 この他、専門家による講演会や、海外のぜんそく支援団体のリーダーを招いた特別セミナーなどの開催、関連する学会や地域の禁煙キャンペーンなどへの参加も積極的に行っています。
各地の病院で、患者教育に使われるテキストを作成
エパレクでは、ぜんそくに関する治療法や病気を理解するためのテキストづくりにも力を入れてきました。実際の診療の場で、患者が医師に適切な質問をするのは、難しいことです。そこで患者が医師の言葉をよく理解し、納得して治療を選択することができるようなテキストが、必要だと考えました。
2004年に発行した『HOWTO STUDY ぜんそく』は、患者が必要としている知識と生活上役立つ知恵を集めて編集したもので、「喘息予防・管理ガイドライン」に沿った治療法や自己管理の方法を紹介している冊子です。目次に索引を掲載し、知りたいことがすぐに調べられるようにしたり、主要な薬の写真を載せ、服用している薬の作用を理解できるように配慮するなど、患者自身が主体的に治療に取り組むためのサポートとなるような工夫が好評で、全国の病院や患者団体でも学習資料として使われています。
そして『HOWTOSTUDYぜんそく』から一歩踏み込んだ情報冊子として、現在作成しているのが『めざせ 快適生活!!成人ぜんそくハンドブック』です。
「普通の生活をすること」を目標に、納得してよりよい治療方法を選択するために役立つ情報として「喘息予防・管理ガイドライン2009」を患者向けに解説するとともに、病気を持っていても「自分らしく生きる」知恵を盛り込んでいます。
患者目線からの広い視野を持ち、活動分野を広げたい
今までの活動を通して、各分野の専門家や、アレルギーやCOPDなどの患者団体ともつながりができ、ネットワークも広がってきました。大相談会の開催やテキストの発行についても、ぜんそく予防事業などを手がける独立行政法人環境再生保全機構と連携して行っています。
ぜんそくを完治させる薬はまだありません。しかし「長期管理薬」(吸入ステロイドなど)で気道の慢性炎症を鎮める重要性を理解し、上手な自己管理を継続することで、症状や発作が減り、「発作治療薬」を使わなくても普通の生活ができる病気になりました。しかし、ぜんそくと診断されたばかりの人には、必要な知識や生活の見直しについてすぐには理解できません。
今の忙しい医療現場では、戸惑っている患者一人ひとりの訴えを受け止め、病気や治療について理解できるまで話をすることは不可能です。私たちの活動はその意味で役立っていると思います。熟練患者自身も、後輩を支援しようとすることで自己管理のモチベーションの維持や最新知識の習得に意欲がわくなど、自分自身の健康意識が高まっているようです。今後は、ぜんそくという枠に留まらず、患者目線からの広い視野を持ち、よりよい医療を実現する団体に成長できればと考えています。
今後の活動に向けては、NPO法人としての使命と役割を果たすために、熟練患者を増やしてもっと活動を活性化したいという思いと、就労できる若い患者には、病気を乗り越えて社会で活躍してほしいという思いがあります。難しいことですが、両方の思いを実現できる方法を模索しながら、よりよい医療を目指して、医療関係者やさまざまな団体とも協力して活動していきたいと思います。
主な活動
■病気の人とその家族を支援する活動
■市民が誰でも参加できるオープン
セミナー(講演会、大相談会)の開催
■学習会の開催とテキスト作成
■専門医のいる医療機関、活動団体と の情報交換、セミナー、施設見学研修
■日本アレルギー学会等への参加
組織の概要
NPO法人 環境汚染等から呼吸器病患者を守る会
■設立:2003年3月
■会員数:約200名