日本肝臓病患者団体協議会
患者団体協議会 代表幹事 渡辺 孝 氏
日本肝臓病患者団体協議会(以下、日肝協)は、肝臓病の患者団体の全国組織として1991年に結成された団体です。近年、画期的な治療薬が開発されたことや、肝炎対策基本法の施行により、患者を救う道は開かれてきました。しかし、いまだに多くの肝臓病患者が重症化や高齢化の中で苦しんでおり、また新たな肝炎の発生などの課題もあります。
そこで、日肝協 代表幹事の渡辺孝さんに、その活動や、肝炎患者を取り巻く環境の変化、課題をお聞きしました。
活動の状況
国内最大の感染症でもあるウイルス性肝炎の患者が会員の8割以上
肝炎は、その原因などからウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎などに分けられ、日本では患者の約8割がウイルス性肝炎と言われています。ウイルス性肝炎は、集団予防接種や一般医療の現場において注射針などの消毒や取り替えが不十分であったことや、長期の売血制度による輸血などで広がったとされています。現在でも国内最大の感染症で、ウイルス性肝炎患者・感染者は現在250万人と推定されています。肝炎は適切な治療を行わないまま放置すると慢性化し、肝硬変、肝がんなどのより重篤な病気に進行する恐れがあります。そのため、年間死亡者数は3万5千人にものぼり、いまだに毎日100人以上の肝臓病患者が命を失っているのです。
そこで、病気や生活に苦しんでいる肝炎患者の実態や支援の必要性を社会や行政に対して訴え、治療薬の開発を求めていこうと、日本で最初の肝臓病の患者団体「肝炎友の会」が1971年に結成されました。各地でも患者団体が結成され、やがて連携して活動しようという機運が生まれ、全国の団体をまとめる連合組織として1991年に日肝協が設立されました。原則として各都道府県に1つの患者団体としていますが、地域や病院ごとの患者団体も認めていますので、現在は35都道府県、65団体、約6000名の会員が所属しています。会員の8割以上がウイルス性肝炎で、あとはアルコール性肝炎、自己免疫性肝炎などの患者です。
私自身は手術の際の輸血でC型肝炎に感染しました。C型肝炎が「非A非B型肝炎」と言われていた頃で、患者として必要な情報を求めて講演会に参加したのがきっかけとなって、埼玉肝臓友の会に入会し、やがて日肝協の活動に携わるようになり、今日に至っています。
肝炎対策基本法により患者救済の道が開かれる
日肝協では、患者が良質かつ適切な医療を安心して受けられるように、肝炎の克服に向けた取り組みを求め、国などへの請願活動や、社会に向けての啓発活動を行ってきました。こうした努力の甲斐もあり、2010年に肝炎総合対策として肝炎対策基本法が施行されました。国の肝炎対策推進協議会と各都道府県に肝炎対策協議会が設置され、肝炎ウイルス検診や肝疾患診療体制の整備などが進められ、また、抗ウイルス治療に医療費助成が実施されて、患者の負担は大幅に軽減されました。医療面では、革新的な治療薬の研究・開発が進み、肝炎患者は希望をもって治療を受けています。また、私たちは自己免疫性肝炎の療養支援の推進についても訴えてきましたが、2015年から難病対策の中で特定疾患に指定されることになり、医療と福祉の改善がかないました。
しかし、高齢化・重篤化した肝硬変・肝がん患者の治療には、特別な救済や支援はありません。2010年4月から肝炎も内部障害として身体障害者手帳の交付が認められましたが、その認定基準が大変厳しく、重症の肝硬変・肝がん患者の多くは基準を満たさず支援が受けられないまま亡くなっています。療養支援の強化、とりわけ医療費助成の実現は、高齢化・重症化が進む患者にとって最も重要で急がれる課題だと考えています。
団体としては、重症化・高齢化、会員減少という課題に直面
感染対策や治療開発が進展したことは喜ばしいことですが、団体としては会員の減少につながっている側面もあります。新しく発症する人が減ったため、新入会する若い会員がほとんどなく、治った患者が退会し、重症化・高齢化する患者には亡くなる人も多く、会員数は年々減って、活動を推進していくには厳しい状況にあります。そこで「あり方委員会」という取り組みを始め、活動が維持できるような仕組みを検討しているところです。役員の負担も減らし、東京に偏らず、全国的によりスムーズに活動できるように代表幹事3人制も導入しています。
また、医療の進展、治療薬の開発により、肝炎の克服に向けた道が開かれてきていますが、その一方で、現在においても早期発見や医療へのアクセスにはいまだ解決すべき課題が多くあります。肝炎ウイルスや肝炎に対する正しい理解が国民すべてに定着しているとは言えず、今も偏見や差別に苦しむ患者や家族が少なくありません。感染対策も進んできていますが、最近は、性交渉によるB型肝炎が増えているという報告もあります。B型肝炎は感染力が強く、夫婦間でも感染します。若い世代の間でウイルス性肝炎に対する危機意識が不足しているのではないか、新たな肝炎患者の増加につながるのではないかと私たちは危惧しています。
肝炎の苦しみを根絶するために早期発見やワクチンの定期予防接種化を提言
ウイルス検査の受診率は十分とは言えず、さらに陽性であることが判明しても、必ずしも有効な治療に結びつかない現状も指摘されています。そこで日肝協では、「世界・日本肝炎デーフォーラム」を開催するなど、肝炎の現状や問題点について社会の理解を深める取り組みなどを積極的に行っています。そして、家族が肝炎患者である杉良太郎さんが実行委員長を務める「知って、肝炎プロジェクト」による啓発キャンペーンにも協力しています。
また私たちは、子どものうちからB型肝炎への感染を防ぎ、将来の日本を担う大切な子どもたちを肝炎から救い、健やかに育んでいくことが大切だと考えています。それは将来の医療費削減にもつながるはずです。そして、少子化が進む日本の中で、子どもの健康を社会全体で支えていくべきだと考えています。そこでB型肝炎ワクチンの定期接種化を求める請願を3年前から厚生労働省に提出し、毎年の厚生労働省への予算要望項目にも入れ、早期実現を求めています。この日本で誕生し、肝炎や難病から守られ、成長した時に「日本に生まれて良かった」と思えるような国にしたい。日本の将来のためにも、元気な子どもたちを増やし、肝炎患者をなくしていきたいのです。
多くの肝炎患者は、過去の医療と血液行政によって発病し、病気の苦しみに加え、経済的な困難や偏見・差別に苦しんできました。こうした苦しみを味わうことがなくなることを願い、社会に訴えていくのは苦しみを知る私たち患者の使命であると感じています。役員も高齢化し、活動にもさまざまな困難がありますが、全国の仲間とともに努力していきたいと思います。
組織の概要
■日本肝臓病患者団体協議会
■設 立 1991年
■会員数 約6000人
主な活動
■相互交流、加盟団体の会報や参考文献の紹介、会報の発行および配布
■行政などに対する働きかけ
■医療相談会、医療講演会などの開催
■世界・日本肝炎デーにちなんだ「肝炎デーフォーラム」開催など、国際的な活動と連動した取り組み