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NPO法人 患者スピーカーバンク

NPO法人 患者スピーカーバンク

NPO法人 患者スピーカーバンク 理事長 香川 由美 さん
NPO法人 患者スピーカーバンク 事務局長 片岡 紀子 さん

患者の声を医療者の教育や医療現場で活かすために、当事者による講演や講義などの〝患者の語り〞が注目されています。当事者の側にも、自分の病気や障がいの経験を伝えることで社会の役に立ちたいと考える人が増えてきたようです。そこで、今回のクローズアップでは、講演などの場でふさわしい語りができる「患者スピーカー」を養成し、その語りを活かした企画の提案・実施までを行い、〝患者の語り〞で社会を変えることを目指す「NPO法人 患者スピーカーバンク」をご紹介します。

活動の状況
語りを社会に活かしたい当事者と、語りを求める依頼者を結ぶ

「患者スピーカーバンク」は、患者の語りで社会を変えることを目指し、当事者の立場から講演を行う「患者スピーカー」の育成と、その講演を活かした企画の提案や実施を行っています。活動のきっかけとなったのは、東京大学公共政策大学院H-PAC※が主催したシンポジウムでした。そこでは、医療者の教育や製薬企業などの社員研修の場で、当事者による講演をより良い実践や製品開発、適切な情報提供に活かそうという取り組みが増えているが、依頼者側は講演できる当事者を探すことが難しいこと、また依頼を受ける当事者の多くは独学で講演準備を行うため、その語りの質にばらつきがあること、そのため聞き手にとって効果的な講演を実施することが難しく、依頼者の目的が達成できない場合が少なくないことが報告されました。そして当事者側、依頼者側のニーズに応える患者スピーカーを養成し紹介する方策が必要という提言がなされ、その趣旨に賛同した当事者が中心となって「患者スピーカーバンク」を立ち上げたのです。

患者スピーカーになるための研修を行い講演もサポート

患者スピーカーの養成にあたっては、病気や障がいの体験を講演するための体系的な研修を実施し、個人の体験に基づく主観的な世界だけを語るのではなく、医療の現状についても学び、客観的なことも含めて話ができることを目指しています。研修プログラムは、これまで研修を受講された方のフィードバックや要望を基に2016年に見直しを行い、「ビギナー研修」「ベーシック研修」「ファシリテーター研修」として整理しました。「ビギナー研修」はいわば入門編で、自分の伝えたいエピソードとメッセージを15分程度にまとめ、少人数のグループで話せるようになることを目標としています。「ベーシック研修」は、聞き手に合わせた30〜60分の講演をつくるためのノウハウを学び、講演できるようになることを目標としています。研修を修了した方は講演資料を完成させて認定を受けた後、患者スピーカーとして登録されます。講演が決まった場合は、依頼者の企画目的にかなうように、当団体の研修講師が講演作成サポートを行い、語りの内容を高めるお手伝いをしています。「ファシリテーター研修」は、患者視点を活かしたファシリテーション(会議などがスムーズに進み、成果が得られるように支援しリードすること)の方法を学び、グループワークを円滑に進めながらも議論を深め、参加者に満足と気づきを得てもらえる患者ファシリテーターになることを目指した内容です。

患者スピーカーとして登録されている方は、20 代から70代と幅広い年代で、病気や障がいも多様な方々です。講演の依頼元は企業や大学、専門職の勉強会などで、患者スピーカーには当団体から講演時間に応じた講演料をお支払いします。教育機関からの依頼は運営上赤字になることもありますが、患者の経験を未来に活かすという考えから助成金などで補いながら運営しています。研修やイベントは東京が中心ですが、今年は大阪でも研修を実施しています。登録していても実際には講演経験のない方もおり、もっと積極的に講演する人を増やすために、会員交流会なども開催して活動の活性化を図っています。

※H-PAC:医療政策実践コミュニティー(Health Policy Action Community)

〝患者の語り〞を実践するうえで心がけていること

団体を運営している私たち自身も当事者であり、患者スピーカーのひとりです。私たちが語る時に気をつけているのは、聞き手にきちんと伝わる話をするということです。たとえば、医療は進展のスピードが目覚ましく、昔の治療のつらさや苦しさを語っても、現在の医療者や患者さんには伝わりにくく共感が得られません。ですから、具体的な治療のことより、当事者と医療者の間の齟齬やコミュニケーションの問題、子どもが発病した時の親の心の痛みなど普遍的なものを取り上げることを心がけています。講演の後には、参加者と患者スピーカーが一緒に話すグループワークを行い、講演テーマについてともに考えを深められるようにしています。

目的に応じて自分のどの〝引き出し〞を開けて語りを構築していくか、ひとりでは迷うことも多いので、スタッフがサポートし、相談しながら講演をつくり上げます。聞いた人がそれぞれの立場で明日から活かせる講演を実現するには、語る側の努力も必要ですし、聞き手側との目的意識を共有することも大切です。〝患者の語り〞は私たちにとっても決して簡単なものではありませんが、時に聞き手の方と「人と人として通じ合えた」と深く感じることがあります。そんな時、ただ〝頑張っている患者さん〞として生きているのではなく、ひとりの社会人として、だれかの役に立てる人間として生きていると実感でき、その思いがこの活動を続ける原動力にもなっているように思います。

〝患者の語り〞を社会に活かすことを目指して

これからの団体としての課題は組織体制を整えていくことです。患者スピーカーを紹介するだけでなく、講演を活かした企画の提案や実施も請け負うようになり、今年から専任スタッフも設けましたので、社会的に責任のある組織に成長する過渡期ととらえています。また現在は関東中心の活動ですが、地方の方から「東京での研修には参加しにくい」という声も聞くので、全国規模で研修を開催していきたいと考えています。

私たちが目指すのは、患者スピーカーの語りや、活動する姿そのものを通じて病気や障がいといった、一見マイナスに思われるようなことも人生のプラスにできることを社会に発信していくことです。

そして、ぜひ取り組みたいのは、医療の場だけでなく、さまざまな幅広い場に 〝患者の語り〞を届けることです。私たちが話すことは医療のニーズだけではなく、だれの人生にも起こりうる困難にどう向き合って、どう対処していくかという普遍的なメッセージにもなりうると思いますので、中高生などの若い世代や、一般の方々にも聞いてもらいたいのです。〝患者の語り〞が、それぞれの人生や向き合うべきものに対して、どう行動を起こすかを考えるきっかけとなり、また多様な人々がお互いに認め合って生きていける社会づくりのきっかけになってほしいと願うとともに、当事者が医療のニーズを伝えることを超えた活動に取り組みたいと思っています。

組織の概要

■設立 2011年 2012年NPO法人に改組

■会員数 約120名(そのうち患者スピーカー 登録者約80名)

主な活動

■患者スピーカー研修の開催

■患者スピーカー講演イベント 「患者スピーカー’sストーリー」の開催

■2016年講演受託案件数 39件 (大学の医療系学部、製薬企業、地方  自治体などより受託)