一般社団法人 全国がん患者団体連合会
一般社団法人 全国がん患者団体連合会 理事長 天野 慎介さん
がん医療のめざましい発展により、がんになっても治療を受けてサバイバーとして社会生活を送る人も増えてきました。その一方、地域による医療格差、心のケアの不足、がん患者に対する社会的な差別や偏見など、いまださまざまな課題があることも指摘されています。
このようながん患者を取り巻く課題の解決に向けて、全国のがん患者団体の連合組織として結成されたのが、「全国がん患者団体連合会(以下、全がん連)」です。がん患者団体の連携や活動の促進を図りながら、がん患者と家族が直面する治療やケア、生活における課題の解決に取り組み、がん医療の向上と、がんになっても安心して暮らせる社会の構築を目指す全がん連について、天野慎介理事長にお聞きしました。
がん患者団体の連合組織の必要性を感じて結成
全国には、多くのがんの患者団体や患者支援団体があります。私も、2001年に血液がん患者の団体である「一般社団法人 グループ・ネクサス・ジャパン」を立ち上げて活動してきました。
2006年、がん対策基本法が成立する原動力となったのは、それぞれの地域や各領域で活動してきた患者団体の力だったと思います。しかし現在、がん対策予算の拡充や研究推進をはじめ、がん患者全体に共通する課題も多く残されています。私は厚生労働省がん対策推進協議会で会長代理を務めるなど、血液がんだけではなく、がん全体のことを含めた政策提言活動も行ってきましたが、個々の団体の立場で声を挙げても国や行政、社会全体に届きにくいことが多く、団体が連携して活動する必要性を感じていました。
また2014年に「患者申出療養制度※」が日本再興戦略の新しい施策に位置づけられたことに対して、国民皆保険制度のもとでのがん医療を守らなければならないと危機感を感じ、よりいっそう連合組織が必要だと考えるようになりました。そこで、がん対策推進協議会で患者委員を務めていた松本陽子さん(NPO法人 愛媛がんサポートおれんじの会)、三好綾さん(NPO法人 がんサポートかごしま)とともに、がん患者団体の連合組織「全がん連」を2015年5月に立ち上げたのです。患者の切なる願いであるがん医療の向上と、がんになっても安心して暮らせる社会の構築のために、共通する声を届け、共通する課題について提言する連合組織です。
患者申出療養制度」については、同じ問題意識をもつ一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会(JPA)と共同歩調をとる形で政府に要望書を提出しました。国会で院内集会を開催し、「新しい薬や治療法を求める患者さんの切なる思いには応えてほしいが、有効性と安全性が示された治療薬は保険適用にして、経済力によって医療格差が生じないようにしてほしい」と訴えました。中央社会保険医療協議会(中医協)でもJPAとともに患者申出療養制度に対する意見を述べ、その結果、後の制度運用についても私たちがかかわっていくことになりました。
※患者申出療養制度
患者から申し出のあった健康保険適用外の治療や治験、あるいは未承認薬の使用に対し、安全性や有効性など国の定める基準を満たしたものについて、現行の保険外併用療養制度の中で、健康保険が適用される診療との併用を認める制度。
「がん患者学会」など患者の力を高める活動に取り組む
がん対策基本法が施行され、がん診療連携拠点病院などの〝箱〞はできましたが、その中身はまだ十分整っているとは言えないのが、がん対策の現状です。全がん連では、患者団体の連合組織として社会に声を届けることに加えて、がん医療を支え、患者さんにより効果的な支援を届けることを目的とした活動に取り組んできました。
たとえば、がん患者団体のリーダーを対象とした「がん患者学会」というイベントです。がん患者や家族・遺族を代表する立場の人が、がん対策推進協議会に参画することになっています。そこで、会議の場で質の高い活動ができるように当事者のスキルアップを目的に2015年から開催してきました。第1回、第2回は医療講演と、患者団体に何ができるかを話し合うパネルディスカッションを行い、第3回は、団体の活動を紹介し合い、がん教育の講師やピアサポーターに対する研修など有益な活動を共有する試みも加えました。
多くの患者団体は経済的にもマンパワー的にも恵まれず運営に苦労している現状があるため、連合組織としての各団体やリーダーへのサポートも必要です。リーダーが思いを語り合う場を設けて課題やその解決法を共有することにより、患者団体を支え、活動へのモチベーションを維持できると良いと考えています。
また、がん患者にとってピアサポートは重要な支援だと考えていますので、2018年度は、厚労省のがんピアサポーターに対する研修プログラムを利用して全国でピアサポートの研修を実施していきたいと考えています。
チームの一員として医療にかかわることのできる患者を目指す
活動の中心となるのは、これからも政策提言活動と、患者団体としてともに学び質を高める活動です。今までは患者が医療を一方的に受けながら、医療界や行政に対して提言し、要請していく活動が中心でしたが、今後は、患者団体が医療の担い手とまではいかなくても、チームの一員として役割を果たすことが求められると考えています。
たとえば、個別的医療の提供を目指す「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」にも患者団体が参画することが決まっています。これは研究開発が進みにくい希少がんや難治がんについて、ゲノム試料バンクをもとに、患者団体が研究者と協力し、率先して研究を進めていく活動です。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)でも、研究の計画段階から患者が参画するための取り組みを開始する予定で、がん研究者との協働も進んでいくと考えられます。研究の意義を理解し、研究者にしっかり患者の声を届けることのできる人材を育てるために、全がん連として研修プログラムを作成し、患者団体の質を高められるような活動に取り組んでいきたいと思います。
どの地域にも質の高い患者団体があれば、それは全国の患者や家族の幸せにつながります。各地のがん患者団体が情報や経験を共有してそれぞれの活動をより良いものとし、またそれぞれの団体の取り組みや考え方を尊重しつつ連携して、がん医療の発展と、がんになっても安心して暮らせる社会の構築に向けて取り組んでいきたいと思います。
組織の概要
■設立 2015年5月
■加盟団体 39団体(2018年1月9日現在)
事業内容
■がん患者と家族の治療やケア、生活における課題を解決するための政策提言、調査研究、普及啓発に関する事業
■がん患者と家族の自助や共助を促進するために必要な事業
■がん患者団体の連携や活動を促進するために必要な事業