CLOSE

このサイトは、ファイザー株式会社が社会貢献活動として発行しております『まねきねこ』の情報誌のウェブ版です。
まねきねこの郵送、もしくは郵送停止はこちらからご連絡ください。
なお、個別の疾患の相談は受け付けておりません。

お問い合わせはこちら

※メーラーが起動します。

膵島細胞症患者の会

膵島細胞症患者の会

膵臓からインスリンが過剰に分泌され、血糖値が低下し低血糖症を起こす希少疾患、膵島細胞症。指定難病に認定されておらず、治療方法も確立されていません。先天性と後天性があり、それぞれに治療やQOLの面でさまざまな課題を抱えています。同病患者に出会う機会もなく長く不安な生活が続く中で、インターネットで同病患者と知り合い、ともに患者団体を発足。患者年齢が0歳から80代という世代間ギャップを乗り越えて活動する「膵島細胞症患者の会」代表の高橋満保さんにお話を伺いました。

膵島細胞症患者の会 代表
高橋 満保さん

 
 
インスリンが過剰分泌し血糖値が低下する希少疾患

膵島細胞症は、膵臓のβ細胞からインスリンが過剰分泌して血糖値が異常低下し、低血糖発作を起こす希少難病です。インスリンの分泌が減少し、高血糖になる「糖尿病」とは正反対の疾患です。先天性と後天性があり、小児では先天性高インスリン血症とも呼ばれ、小児慢性特定疾病に指定されています。新生児や小児では約5万人に1人が発症しており、遺伝子異常が原因とされています。
2019年に行われた実態調査では、膵臓に腫瘍ができることで低血糖を起こすインスリノーマなどを含む「内因性高インスリン性低血糖症」は、国内で780名の患者が同定されており、そのうち膵島細胞症と診断されている患者は9名でした※。指定難病には認定されておらず、成人発症患者の全体把握はできていません。主な症状は冷や汗、動悸、視覚変化、けいれんや意識障害など、命にかかわることもあります。
私は、50歳のときに急に冷や汗が出る、ろれつが回らない、会議でも上の空になるなどの症状が出ました。特に起床時や食後6時間後くらいに起こり、人間ドックで相談したところ低血糖状態だとわかりました。検査を繰り返す中で膵臓に微小な腫瘍が複数ある疑いもあり、膵臓がんかもという怖さからすぐに手術を希望し、膵臓の3分の2を切除。そのときの細胞診検査で膵島細胞症と診断されました。

※膵島細胞症患者の会.内因性高インスリン性低血糖症 調査・研究Ⅱ,2022年.

インターネットで同病者と知り合い、患者団体設立へ

発病から約10年間、同じ疾患の人に出会えませんでした。保健所や難病相談支援センターにも尋ねましたが、いないと。手術後も低血糖のままで安定せず、とても不安な状態が続きました。そんなとき、インターネットのサイトで同じ病名で闘病記を書いている方と知り合ったのです。すぐに連絡を取り、交流が始まりました。同志を得て、希少難病フォーラムへの参加や、厚生労働省に出向き指定難病認定への働きかけも行うようになりました。専門医との出会いもあり、膵島細胞症には後天性だけではなく先天性もあることも初めて知りました。その専門医に「患者会をつくって社会に発信しないと、前に進まない。そのためにはまずホームページを開設した方がいい」とアドバイスを受け、同志と2人で患者団体の立ち上げを決意しました。(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA)の「患者会のない希少疾患グループ交流会」に参加し、患者団体のつくり方や経験談を聞くなどして2017年にホームページを開設。すぐに小児患者の家族や、小児から移行して成人になった人たちからメールや電話があり、その反響の大きさに驚きました。翌18年に膵島細胞症患者の会を設立。私自身がそうだったように、皆さんとても情報と仲間がほしかった、同じ境遇の人を探していたのだと痛感しました。

0歳から80代まで共通の症状でつながる全世代・広域患者団体として活動

日本小児内分泌学会での展示ブース 日本小児内分泌学会での展示ブース とにかく希少難病なので、会員数は現在14名、全国にいます。コロナ禍ということもあり、ここ2年はメールやオンライン会議、SNSでの交流になりがちですが、それまでは九州では2月の世界希少・難治性疾患の日(RDD)のイベント時や、関西では日本小児内分泌学会に患者団体ブースを出展したときに、関東ではJPAのイベント時に呼びかけ、対面での交流会を行ってきました。

医療講演会の様子 医療講演会の様子 患者は0歳から80代までと幅広く、世代を超えて交流する、ある面とてもユニークな患者団体ですが、同時に難しい面もあります。たとえば、先天性で出生時に診断されたり、2~3歳で発症した親からの相談に、私のような後天性の患者は的確に対応できません。そんなときは、同じ小児の家族の会員に連絡し、バトンタッチをします。それでも会員全員が低血糖症状という一つの共通点で話がかみ合い、世代のギャップは関係なく運営ができています。

会報誌(年4回発行) 会報誌(年4回発行) 現在、九州、関西、関東の3ブロックに担当者を置き、会報、ホームページ、ツイッター、ウェブ会議などを分担しています。専門医との勉強会も開催していますが、若いお母さん会員はSNSに慣れているのでウェブ会議もうまくリードしてくれます。
また、JPAのリーダー研修会や、VHO-netの九州学習会、関西学習会に私や他のメンバーが参加し、さまざまな情報を得て、学び、共有しています。患者団体の設立をはじめ他団体とのかかわりがなかったら、狭い範囲での愚痴のこぼし合いになっていたかもしれません。

指定難病認定に向けた活動を続けていきたい

『内因性高インスリン性低血糖症<br>調査・研究Ⅱ』(2022年1月第2版) 『内因性高インスリン性低血糖症
調査・研究Ⅱ』(2022年1月第2版)
課題としては、小児の場合、就園、就学時の医療ケア問題がネックとなりますので、市町村の教育委員会との話し合いも必要です。また、小児から成人に移行した人は、就業中に低血糖で倒れたりする場合もあり、就業が困難、または継続できるのかという問題もあります。その他、医療費の問題も深刻です。小児からのトランジションで、原則18歳を超えると医療費助成がなくなるため、医療費が大きな負担になります。血糖測定器の購入や薬代、合併症がある場合の治療費など、50代のときの私の場合、月に約4万円かかっていました。
このような課題を解決するためにも、患者団体の設立当初から指定難病認定への活動を軸にしてきました。これまで厚生労働省の指定難病の検討委員会にも計8回パブリックコメントを提出していますが、足踏み状態が続いています。
20年には、厚生労働省の「小児期・移行期を含む包括的対応を要する希少難治性肝胆膵疾患の調査研究班」に参加している医師の協力のもと、『内因性高インスリン性低血糖症 調査・研究』の冊子を発刊(22年第2版発刊)。医療情報や患者の声を掲載しています。このような冊子を厚生労働省に提出することで、少しでも指定難病認定への道筋をつけていきたいと思っています。
患者団体の活動を通じて、本当に出会いの大切さを実感しています。不安が解消され、希望が生まれる。患者ができること、患者だけではできないことがあり、それをどう克服していくか。患者ができることを精一杯やりつつ、医療関係者や他団体と協働していきたいと考えています。

膵島細胞症患者の会
組織の概要
■設立年 2018年8月
■会員数 14名(2022年2月現在)
活動内容
■広報活動〔ホームページ、会報(年4回)、パンフレットなど〕
■交流会、会員SNS運営
■医療講演会、医師との勉強会、JPA研修会・各種団体行事への参加
■調査・研究冊子の発行
■学会への患者団体ブース出展