NPO法人 ICT救助隊
ICTとは、インフォメーション アンド コミュニケーション テクノロジー(Information and Communication Technology)。
つまり「情報通信技術」です。
パソコン、意思伝達装置、それらを操作する各種スイッチ類・・・。ICT救助隊はそんなツールを活用し、難病患者や重度障がい者のコミュニケーション支援を行っています。患者と、家族や支援者、社会との“つながり”を実現させるために、全国各地で講座を開催。「コミュニケーションは命に直結する」、そんな熱い思いのもとで活動する理事長の今井啓二さん、理事の仁科恵美子さんにお話を伺いました。
得意なパソコンでのサポート活動がスタート
今井 私はとにかくパソコンが好きで、20年以上前、地元品川区の福祉施設から、「ワープロがうまくできない障がい者の方の相談にのってくれないか」と声をかけられたのがそもそもの出発点でした。それまで障がいのある方と全く接点がなかったのですが、私の助言で機器がしっかりと使えるようになり、とても新鮮な体験でした。その後も、視覚障がい者に対応したり、私自身も日本作業療法士協会の研修を受けるなどの勉強もしました。そうこうしているうちに、福祉施設に来られない、在宅の視覚障がい者や難病患者へのコミュニケーションサポートが十分でないことがわかってきました。そういう人たちこそパソコンなどの機器を使い、メールなどで外とつながることが必要だと感じるようになりました。
仁科 私は会社員をしていて、何か人の役に立つことをしたいなと思っていたとき、今井さんの活動に出会い、パソコンのお手伝いならできるかなと関わるようになりました。そのころ私自身も緑内障と診断され、将来失明という障がいを負う可能性があることを知り、もし失明してもパソコンは使えるようでいたいという思いもあり、ICT救助隊の一員になりました。
患者団体、企業、行政とつながり、活動は全国へ
2007年に、NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会(以下、さくら会)の依頼で、透明文字盤や、意志伝達装置「伝の心」を使った操作の講義・実習を行いました。その受講生や支援者から、入力スイッチなどの相談を受けるようになり、訪問サポートの需要が増えていきました。同時期に、日本電気株式会社(NEC)の社会貢献事業の協賛を受け、難病コミュニケーション支援講座をスタート。10年に難病患者のコミュニケーション活動に特化した、ICT救助隊を立ち上げました。
NECからの助成金によって全国に出張できるようになり、さくら会のつながりで、日本ALS協会の各支部から声がかかり、講座が広がっていきました。また、難病相談支援センターや自治体の障がい課、さらに(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA)が厚生労働省から委託を受けている事業を受託するなど、患者団体、行政、企業、NPOなどが一体となった活動のベースができあがっていきました。
講座では、意思伝達装置やそれを操作するさまざまなスイッチ類、視線センサーが必要です。意思伝達装置は本体だけで1台45万円という、とても高価な機器です。普段触ることが難しい機材を体験できることが、講座の特徴ですが、そのために支援機器の開発会社にさまざまに協力してもらっています。
全国で講座を始めた当初は、患者さんが自宅から外出することが想像できないという地域も多かったので、東京での講座参加者に同行してもらい、講演や実演をしてもらいました。東京から患者本人が来ている、その姿を見るだけでも参加者は勇気づけられたようです。19年までに、NEC関連を含めトータルで47都道府県で約300ヶ所、約1万3000人が講座に参加しています。
より深い内容のオンライン研修へ
全国に出向いて機材を実際に体験してもらい、患者目線でどう使えばいいのか、家族や医療関係者の人たちに伝えていく集合研修がメインの活動でしたから、コロナ禍は団体の存続にもかかわる大問題でした。ただ、時代の流れとしてインターネットを活用しての講習会も模索しており、逆にコロナ禍はいいきっかけにもなりました。
国からの持続化給付金や、さまざまな企業の助成金事業に応募し、ICT救助隊が所有する機材を大幅に増やしました。それらを参加者の自宅に送付し、手元に機材があって操作ができる、機材貸し出しでのオンラインのカリキュラムをつくりました。今までの1日講習会とは違い、1〜2週間という長い期間実物を自由に使ってしっかりと体験できるようになり、集合研修とは違ったより深い内容が盛り込めるようになりました。機器や機材を体験し、使えるようになれば、さまざまな制度を活用し、無料または1割負担などで補装具として購入することができ、生活に密着したツールにすることができます。
コミュニケーションは命に直結するそれを解決する課題に取り組みたい
現在の抱負として三つのこと考えています。一つ目は、講習会への参加者は医療職の方も多いのですが、スケジュール調整が難しいため、今後はオンデマンドに移行し、自分の都合のいい時間に受講できるスタイルにしていきたいです。
二つ目は、全国各地で同様の活動をしている団体との協働です。新しい機器が日進月歩で開発され、患者さん自身も日々新しい方法を見つけています。それらの情報を1ヶ所にまとめた「情報ポータルサイト」をつくりたい。ウィキペディアのように、いろいろな人が情報を更新していくような、コミュニケーション支援サイトです。
三つ目は、全国の団体と協力し、「貸し出し事業」の共同化を目指したい。スイッチは最低でも1万円はします。そのハードルを低くし、気軽に借りられ試せる貸し出しシステムをつくりたいと考えています。
これまでの活動を通して、パソコンに触ったこともなかった人が使いこなせるようになり、ホームページを立ち上げたり、いきいきとした生活に変わっていく様子を目の当たりにしてきました。家族や支援者、社会とコミュニケーションをとれることが、患者や障がい者にとってとても大切なことであり、それは命に直結している問題だということを実感しています。そこから発せられるメッセージが人を勇気づけ、政策にも活かされ、社会を変えていく。そういう支援を継続していきたいと考えています。
講座フォローアップのホームページでは、さまざまな情報を公開中。
これらの冊子はその一部で、無料ダウンロードできる。
組織の概要
■設立年 2010年4月(2011年NPO法人に改組)
活動内容
■全国各地で、難病コミュニケーション支援講座を開催(2020年からはオンライン講座も開催)
■戸別訪問での、訪問サポート、機器類の貸し出し
■講習会で蓄積した知識を冊子として発行
■学会、行政、医療機関への働きかけ