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MECP2重複症候群患者家族会

MECP2重複症候群患者家族会

MECP2重複症候群患者家族会 代表<br>河越 直美 さん MECP2重複症候群患者家族会 代表
河越 直美 さん
2024年4月に指定難病に認定・登録されたMECP2重複症候群は、X染色体上のMECP2遺伝子の重複が原因で、主に男児に発現する進行性の重度神経疾患です。6家族が集まって発足した「MECP2重複症候群患者家族会」は疾病啓発や指定難病認定などを求めて、国や研究者、医療関係者に積極的に働きかけてきました。代表の河越直美さんに、指定難病認定に向けての活動の経緯や団体運営、遺伝子治療への期待などについて伺いました。

知られていない進行性の希少疾患

MECP2(エムイーシーピーツー/メックピーツー)重複症候群は、X染色体上にあるMECP2という遺伝子が重複することによって、さまざまな神経の症状が起こる進行性の希少疾患です。乳児期早期からの重度の知的障害、繰り返す感染症、学童期以降の難治性てんかん、消化器症状(重度の便秘、嘔吐、胃食道逆流)などが特徴です。有効な治療法はなく、進行性であるため年齢を重ねるにつれ症状が悪化する傾向があります。てんかん薬物治療の副作用で肝機能が低下したり、QOLが下がったりすることも少なくありません。社会的認知度が低く、周囲に理解されにくいという負担もあります。専門医や専門的な医療機関も圧倒的に少なく、患児の親は原因がわからないまま、いくつもの医療機関を転々とすることも多く、診断までに30年を要したケースもあるほどです。2012年に生まれた長男は遺伝子検査で2014年に診断されましたが、当時としてはとても恵まれていたケースでした。

海外から情報を得たことをきっかけに

私は、長男がMECP2重複症候群と診断されてから、少しでも多くの情報を集めたいと考えたのですが、日本語の情報はほとんどありませんでした。アメリカの大学で学んだ経験から英語に慣れていたこともあり、欧米の患者家族のSNSグループに登録していたところ、2015年の年末にまだマウスレベルではあるもののMECP2重複症候群の治療に関する論文が発表されたという情報を得ました。「治るかもしれない」と欧米の家族たちは早速ファンドレイジングを始めるなど盛り上がっていたのですが、日本ではまったく報道されませんでした。その頃、同じ病気の子どもをもつお母さんとインターネットを介して知り合っていたのですが、彼女もその情報をまったく知らなかったのです。

目の前にいる子どもの病気は同じなのに、言語の違いや、住んでいる国が違うだけで、得られる情報がここまで違うということに私はショックを受けました。そこで、自分たちでなんとかしなければとウェブサイトやSNSで声を掛け、集まった6家族で2016年に「MECP2重複症候群患者家族会」を立ち上げたのです。

交流や社会啓発に取り組み、RDDにも注力

当会では、「疾患の認知度を上げる」「難病指定を受ける」「難治性てんかん発作の治療法を確立する」ことを活動の3つの柱に掲げ、最終的には日本で遺伝子治療を受けることを目標としました。遺伝子治療に対して保護者として正しい知識をもち、正しい判断ができるよう勉強会なども開催しています。

運営については、得意分野を活かして役割分担をしたり、プロジェクトごとに担当者を募集したりして工夫してきました。子どもが成長するにつれ症状が重くなり活動ができなくなる人が増えるので、子どもがまだ小さいお母さんたちに頑張ってもらっています。人数が少ない分、支え合いながら活動していこうという気持ちは強いかもしれません。当初は母親中心でしたが、参加してくれる父親も増えてきました。

また、毎年力を入れている取り組みが、「RDDきっず」です。RDD(レア・ディジーズ・デイ)の一環として希少疾患に焦点を当てた交流イベントで、高校生を対象に子どもたちと家族の日常を通じて疾患への理解を深めてもらおうというもので、患児たちにとっても、とてもよい時間となっています。また、関連学会の患者会ブースへの出展や、看護学生とのイベント「Rareスマイル」開催のほか、隔年でファミリーキャンプを開き、セミナーや交流会を行っています。

2023 年のファミリーキャンプ。隔年に開催され、家族ぐるみの交流を図る

2023 年のファミリーキャンプ。隔年に開催され、家族ぐるみの交流を図る

難病指定に向けて、積極的に活動

2019年に小児慢性特定疾患に認定され、2021年にはMECP2重複症候群の遺伝子検査が保険適用となって低月齢で診断されるようになり、当会のメンバーも少しずつ増えてきました。しかし、年齢を重ねるにつれて症状が悪化する傾向があるのに、小児慢性特定疾患への認定だけでは18歳以降の医療費助成が受けられません。そこで私たちは、指定難病の登録を目指して国や研究者に働きかけてきましたが、2年連続して見送りになりました。

ところが、コロナ禍でさまざまなミーティングや会議がオンラインで行われるようになり、これが私たちにとっては追い風になったと感じています。というのも厚生労働省などに出向くことなく、オンラインで担当者などに話をする機会が増え、私たちの現状や思いを伝えることができたからです。そして、2024年4月に指定難病に認定・登録され、小児期から成人期まで切れ目ない支援が受けられるようになりました。

遺伝子治療の実現を目指して

病気に特有の顔つきを親しみやすくキャラクター化した啓発グッズ 病気に特有の顔つきを親しみやすくキャラクター化した啓発グッズ 私たちの最終的な目標は、遺伝子治療を日本で受けることです。2017年には、同じ遺伝子の変異で起こる病気であるレット症候群との合同研究班が発足し、2020年には遺伝子治療に向けた研究班が発足するなど、日本でも治療の研究が少しずつ進んでいます。今年、アメリカと中国で患者を対象にした治験が計画されており、特にアメリカでの研究は有力視されているので期待していますし、日本でも治験に参加できないかと模索しているところです。

指定難病に登録されて医療関係者の理解も少しずつ広がり、レット症候群をはじめ、他の希少疾患の団体とのネットワークも広がってきました。私が親御さんたちに伝えているのは、希少疾患であるだけに、患者や家族一人ひとりの経験が貴重であり、それを研究者をはじめ社会に広く知ってもらうことが大切だということ。私たちの声は、この病気の研究や治療法の開発、患者さんのQOLの向上にきっと役立つはずです。これからも、広くこの病気について知ってもらえるよう、そして、子どもたちや家族が安心して生活していくことができるよう努力していきたいと思います。

MECP2重複症候群患者家族会
組織の概要
■ 設立年 2016年
■ 会員数 25家族28名(2024年5月現在)

活動内容
■ 疾患に関する情報発信
■ 会員専用SNSサイトの運営
■ ファミリーキャンプの開催
■ Rare Disease Dayイベント
  RDDきっずへの参加
■ 国や行政、医療機関への働きかけ