プロジェクトメンバーが語る『VHO-netが考えるピアサポート5か条』
「信頼されるピアサポート」の共通の出発点として昨年秋、完成した『VHO-netが考えるピアサポート5か条』(以下、『ピアサポート5か条』)について、ピアサポートに携わるみなさんから「活動の参考にしたい」「どう活用するか知りたい」という声が多数届いています。そこで、この冊子の意義や活用方法を語っていただく座談会を企画しました。
座談会参加者
●佐賀県難病支援ネットワーク 理事長 三原睦子さん
●松村医院 院長 松村真司さん
●横浜市立大学 教授 松下年子さん
●関東予防医学診療所 理事 箕輪良行さん
まず、2年間の取り組みを振り返っての思いをお聞かせください。
●松村真司さん
VHO-netのワークショップに参加するたびに私の方が元気をもらうことが多く、障がいや病気の有無にかかわらず、生きていくうえではお互いにサポートする力が働くのかなと感じていました。多くの医療者は、患者団体やピアサポートについてよく知らないので、「信頼されるピアサポート」という着眼点は良かったと思います。これにより患者団体のピアサポートが社会に対して普遍的な、有用な活動となることが期待されます。それぞれの団体の思いを邪魔しないような、それでいて、VHO-netの団体が目指すべきピアサポートの形や方向性を提示するものとなったのではないでしょうか。この5か条のもとに、団体ごとの具体的な活動指針が生まれてくるだろうと思っています。
●箕輪良行さん
ゼロからの出発で手さぐりの2年間の作業は「作成の経緯」にあるように実態調査が大きな山でした。幸い、資料としてプロジェクトメンバーの山根さんが提供された、日本オストミー協会 横浜市支部のテキストブックやアンケートに、ひとつのモデルがあったことが助けになりました。私は医師という立場で、ピアサポートからは最も距離感があるところにいるメンバーとしての役割を与えられたと認識していました。この冊子の中で語られている理念がどの程度役に立つのかは、未知数だと思います。量的にも質的にも極めて計りにくいものを、信頼されるように作り上げることができるのか。相談を受けた側も、相談した側も、両方がエンパワメントされることを、この『ピアサポート5か条』が後押しできるようになるか、見守っていきたいという思いです。
●三原睦子さん
一語一語、検討を重ね、洗練された言葉になったと感じています。この言葉をどう実現するか、活用していくかが、私たちの課題だと思っています。私は、相談支援センターで相談を受ける立場なので、第3条の“フィードバックを受ける”という点に力を入れたいと思います。クレームを受ける場合は、こちらになんらかの原因があったかもしれないし、先方にクレームという形でSOSを出すような要素があるのかもしれません。ピアサポートを行う人は専門家によるスーパーバイズ(指導やアドバイス)も受けながら、第三者的な評価を大切にしていくことが重要だと改めて思いました。
●松下年子さん
実際にピアサポートに携わる方の声を聞いて、やはり医療者とはギャップがあるなと感じ、そのギャップを縮めるプロセスが大切だと思っています。また、専門性が保証されるようなピアサポートができれば良いなとも思います。当初は当事者団体の活動はすべてピアサポートに当たるのではないかと感じていましたが、プロセスの中で、団体によってピアサポートの実態やとらえ方は多様であり、VHO-netでは、あくまでも信頼されるピアサポートを目指すべきと考えるようになりました。『ピアサポート5か条』には新しい視点や着眼点があり、素晴らしいと思っています。そして、団体の成熟度によって、活用方法はそれぞれ違ってくるのではないかと思います。
ピアサポートは当事者にしかできないからこそ価値があるし、その反面、専門家ではない当事者が行うことへの不安や怖さもあります。団体のリーダーのみなさんが「ピアサポートとはなにか」「自分のピアサポートはこれで良いのか」と迷った時に、『ピアサポート5か条』はその指針になるのではないのでしょうか。みなさんは、どのようなことを期待されていますか。
●松村真司さん
プロジェクトメンバー以外にもさまざまな人がかかわり、前書きや後書きにもメンバーの思いが込められているので、一語一語をじっくりと読んでほしいですね。活用方法は読む人にお任せしたい。私自身は、団体の方たちが社会への働きかけをとても強く意識されていることが印象的でした。VHO-netにかかわり、ネットワークができ、ノウハウも蓄積され、それぞれの団体に力がついてきた今の段階だから実現したと思います。これが社会を有用に変革する力になれば、医療の現場はもう少し風通しが良くなるのではないかと期待しています。
●箕輪良行さん
私たちの手が届く範囲でベストを尽くしました。行間の想いを読んでもらいたいです。病気を経験した患者にしかわからないものがあるはずですから、この5か条は作業した私たちにとっては最高の到達点であっても「試金石」にすぎません。 作業の中で、医療者ができないことが、ピアサポートという形で補われていると気づき、ありがたいと思いました。しかしまだ、医療の中のほころびはすべて埋まってはいないので、この冊子を使えば、それを埋められるのではないか。こういうところに注意したらもっとスムーズにできると考え、ピアサポートに取り組む人が増えてほしいと期待しています。
●三原睦子さん
私は、相談者が前向きになることによって、相談を受ける側も勇気づけられることを実感しています。この冊子には、そんな私たちが“気づく”言葉がたくさん連ねられているので、ピアサポートに携わる方々には、しっかり読み込んで、自ら気づいてほしい。自分たちの活動の中身に気づきながら、より良い方向に変えていくために、活用していきたいですね。
●松下年子さん
自分たちの活動がこれで良いのかと思った時に、自分たちの活動がこの5か条のどこに値するのかと当てはめて、日々の活動に引き寄せ、つなげていくことで、活動を体系化し、価値化できると思います。似て非なる人たちが集まると自分たちの本質がみえるもの。VHO-netは、まさに似て非なる人たちが集まる場を提供するという意味で社会資源だと改めて感じました。
プロジェクトメンバー 山根則子さんからのメッセージ
社会から信頼される団体を目指して、ピアサポートとはなにかをより明確にし、ピアサポートが社会資源となるよう、「信頼されるピアサポート・プロジェクト」に取り組んできました。『ピアサポート5か条』を共通の出発点として、ピアサポートを充実させたいと思う気持ちを後押ししていきたい。ヘルスケア関連団体として取り組むピアサポートのサポートブックとして、自分の団体の活動に引き寄せて考えて活用していただきたいと願っています。また、これが完成形ではなく、より良いものに変えていきたいと考えていますので、ピアサポートに携わる多くの団体のみなさんのご意見も聞かせてください。