がん政策サミットで育まれた「患者アドボカシー」
NPO法人 日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター
がん対策については、ここ数年、患者関係者の取り組みが政策実現の大きなけん引役となってきました。こうした動きに大きな役割を果たしたと考えられるのが、患者関係者、医療提供者、議員、行政などのがん対策にかかわる関係者が一堂に会して問題意識や事例を共有し、地域での成果に結びつけてきた「がん政策サミット」です。そこで、今回のまねきねこサークルでは、5月に東京で行われた「がん政策サミット2014」から、異なる立場の人々がどのようにつながり、成果を上げてきたのかを探りました。
患者アドボカシーが育った“がん政策サミット”という場
がん政策サミットを主催するNPO法人 日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター(以下、がん政策情報センター)は、「がん患者・市民が、がん医療政策決定プロセスを主導することにより、最上のがん医療とがん対策を社会全般に実現すること」を目的に2009年から活動しています。
政策を提言する活動のことを“アドボカシー”、それを実行する人を“アドボケート”、そして、患者・家族・遺族・支援者などの患者関係者が、制度・政策の変革によって課題解決をする活動のことを“患者アドボカシー”と呼びます。がん政策情報センターでは、がん患者アドボケートの活動を促進し、活動のアウトカム ※1を目指して、多くの人の知恵とネットワークが共有される場づくりや、アドボケートの育成、ネットワーキングの支援、情報収集・提供を行ってきました。その活動の主軸となったがん政策サミットは、都道府県がん対策推進協議会・がん診療連携協議会に参画する患者関係者を中心に2009年から9回開催され、回を重ねるごとに、各都道府県の行政担当者、政治家、医療提供者なども参加するようになりました。
この活動によって、患者関係者は、がん対策やがん医療は政治や政策によって左右される側面が多いことを発見するとともに、同じようにアドボカシーに取り組む仲間を知り、お互いに励まし合うことができました。また、地域や所属を越えるネットワークを形成し、知識や情報が共有されることで学びも進み、各地での創意工夫や好事例が伝播されました。さらに患者アドボケートが活動をリードすることで、患者関係者、医療提供者、議員、行政、民間、メディアの異なる立場の人々が一体となって取り組む“六位一体”のスタイルが広がりました。がん医療や医療制度の地域格差も明らかになり、地域での患者関係者や医療者、行政担当者との協働によるがん対策推進条例の制定も進みました(2014年5月現在32都道府県で制定・施行)。
5月16日〜18日に開催されたがん政策サミット2014では、参加者がそれぞれの都道府県に戻り、PDCAサイクル ※2を基にしたがん対策を高め続けられるようになること、第2期がん対策推進基本計画の目標達成に向け、分野別に目標、指標、好事例を把握し、その実現・普及のための行動を行うことを目指したプログラムが組まれました。またサミットの場で、国会がん患者と家族の会総会が開催され、事務局長である衆議院議員の古川元久さんから「がん対策基本法の改正を検討する」との発表もありました。
それぞれの視点を探る
参加者が、がん政策サミットにどのような影響を受け、どのような取り組みに結びつけてきたか、当日の発表からご紹介します。
医療者の視点
がん医療に携わる立場から果たすべき役割を模索
・地元でどのような役割を果たすべきか、改めて考え直したい
・全国の医療者へも、がん対策への啓発を行っていきたい
・医学教育に携わる立場で参加し、今後の教育へのヒントをいただいた
行政の視点
成功事例や他県の進捗状況を学び患者との協働を深める
・地域医療ビジョンにがん対策を盛り込めるように、評価指標を活用したい
・それぞれの都道府県の遅れている分野が明確になり、ヒントが得られた。課題を患者団体と共有したい
・がん検診の受診率アップのヒントが得られた
・速やかに条例改正を行い、就労対策を盛り込む必要があることがわかった
・患者さんとのグループワークで得た意見やアイデアを活かしていきたい
・全体を見通して施策を進めることが必要だと認識した
・厚生労働省担当者や国会議員の考えを直接聞くことができ、また網羅的、系統的な情報を得て、がん対策の目的を改めて認識した
・施策の先に、患者さんや支える家族の存在があることを実感できた
患者関係者の視点
学びとネットワークを地域での成果に結びつける
・知識や情報が得られ、行政担当者に有意義な質問や提案ができるようになった
・近隣県の参加者と、地域ブロックで政策サミットを開催する予定
・地元選出の国会議員が参加していたので、地域ブロックでがん対策推進条例がないのは当県だけと訴えたところ、すぐに行政に働きかけてくれた
・参加した行政担当者と、目的意識を共有できた
・作ってほしいと頼むのではなく、みんなで作ることが大事だとわかった
・がん対策の後進県だが、自分の活動の方向性は正しいと確認し、エネルギーを得た
・何をしたかというアウトプットではなく、何ができたかというアウトカムが大切なことがわかった
アドボカシーにより、患者視点のアウトカムの達成へ
がん政策情報センター長 埴岡 健一 さん
国のがん対策推進基本計画は第1期(2007〜11年)から第2期(2012〜16年)に移行し、がん対策は、量の時代から質の時代となり、さらに成果の時代を目指す時期に来ています。がん対策基本法制定を契機に国の仕組みも整い、がん対策は前進してきました。患者さんたちが果たした役割は大きいと思います。しかし、私たちが求める「助かるはずの命が助かる。しなくてもいい苦労をしなくてもいい」という成果の実現はまだ道半ばという印象があります。
がん政策サミットを通じて、みなさんが政策を提言できることを知り、多くの仲間が集まって、ネットワークができました。スタートした頃は患者関係者が主体でしたが、医療提供者や行政関係者の参加も増え、患者関係者、医療提供者、議員、行政担当者、民間(企業)、メディアの六位一体の協働作業が広まり、ネットワークの場が広がってきました。
団塊の世代が75歳以上となる2025年を控えて、拠点病院や在宅医療などの地域医療も大きな節目の時を迎えています。今回、国のがん対策基本法の改正が検討されることもわかりましたので、患者関係者の皆さんも、地域の政策プロセスに参画して、患者さんに必要な条項が入るように活動してください。
六位一体で、さまざまな人が立場を越え、学び合い、元気を得て地域に戻る、サミットという場には本当に意義があったと思います。今回が最終回ですが、六位一体のアドボカシー・ムーブメントがネットワークの中でさらに育まれ、患者視点のアウトカムが達成されることを願っています。
取材を終えて〜まねきねこの視点
〝患者アドボカシー”という取り組みには、他のヘルスケア関連団体の活動にも取り入れるべき考え方やノウハウが多いと感じました。国会議員からがん対策基本法改正についての発表があるなど、このサミットで育まれたネットワークが、がん対策推進に大きな役割を果たしていることも伺えました。がん政策サミットは今回が最終回とのことですが、参加者の今後の活動を通して、この取り組みがどのように発展していくのか、政策実現にどう反映されていくのか注視していきたいと思います。