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援助者治療原則

第3回 援助者治療原則

特定非営利活動法人ひょうごセルフヘルプ支援センター
代表  中田智恵海(佛教大学 教員)

援助を与えた人が最も援助を受ける

前回は体験的専門知識のお話をいたしました。当事者の持つ経験から得た知識は専門職の持つ知識と同じように貴重で、仲間はこれによってつながり、専門職と対等に対峙して主体的に生きる手段になるものだということを再度お伝えしておきしたいと思います。

今回はセルフヘルプグループのもう一つの理論的柱であるリースマンの「援助者治療原則」をご紹介しましょう。この理論はその後、多くの研究者によってその正しさが検証されています。

皆さんは困難に陥って自分では解決できないと困惑した時、他者に相談しますね。その時、信頼できる人、時には自分よりも能力・技術・知識が優れていると思う人を選ぶでしょう?そこには相談する以前から、優劣、あるいは強者弱者の関係が成立していて、相談する、という事態によって、その関係性がいっそう強化されます。また、相談する人と相談を受ける人との間に対等な関係が成立していたとしても、一旦、相談して援助を受ける立場になると「借りができた」「恩がある」という関係が成立するのが人情ですね。通常は、そういう関係になると考えられると思います。一般に援助を受けることには「マイナス」の、そして、援助を与えるということには「プラス」の要素が付着します。

しかし、セルフヘルプグループではそうはなりません。なぜなら、そこでは援助される人が援助する側に回ることも多いからです。リースマン(1965年)は援助者になることによって得られる次の5つの利点をあげています。(1)自分には他者に与える何かがあると感じて良い気分になる(2)さらに自立できていると自己を肯定できる(3)社会的に有用な人間だと感じられるし、そのために社会的地位を高める場合がある?自制心を与えられ、何かができると感じられて、潜在的に自分の有能感を強化する(4)効果的に他者を援助できるように学習せざるを得ないから、結果的に実際に能力を高める、というものです。

また、ガートナーはリースマンとの共著(1977年)の中で、「援助の役割」をとることによって(1)依存性を取り払う(2)同じような問題をもつ他の人の問題に深くかかわることによって、自分自身の問題を距離をもって見る機会となる(3)援助役割をとることによって社会的な有用性を感じる、の3点を挙げています。さらに、禁煙者が喫煙を止めたい人の手助けをしようとするケースを取り上げたD.T.フレデリクソン(1968年)や、過去にアルコール依存症の経験のある人が、現在アルコール依存で悩む者とグループで経験を共にして援助しようとするケースを扱ったD.R.クレッシィ(1968年)など、多数の研究者が「援助の与え手」になることで利点をえることを証明してきました。

「病気を抱えて生きる人」は通常、「援助を受ける人」と認識されがちです。しかし、セルフヘルプグループでは援助を与える人になることができます。グループのメンバーとして自分の体験を語ることによって、他のメンバーがおまかせ医療から脱却して適切な医療を選択しようと意欲的になったり、痛みと上手に付き合えるようになったり、病気を抱えていても自分らしく生きようと前向きになるのを目の当たりにして、自分自身の体験が無駄でなかったと自覚し、他者を援助できる自分の有能性に気づいたり、自己の問題解決能力を強化できたりするのです。セルフヘルプグループはこのように、お互いに「援助を与える場」となり、メンバーは援助を与える側にも立つことによって、自分らしく生き生きと生きる術を獲得していくのです。

*(  )内の数字は論文出版年です。

筆者紹介

口唇口蓋形成不全の子どもの親の会の元代表、世話人を経て2000年より、佛教大学 教員、特定非営利活動法人 ひょうごセルフヘルプ支援センター代表
情報誌を発行したり、毎年セルフヘルプセミナーを開催して、さまざまなセルフヘルプグループを市民、行政職者、専門職者などに広報し、生活課題を抱えて孤立する人をセルフヘルプグループにつないだり、リーダー支援のための研修会を開催している。