神野 啓子 さん 腎性尿崩症友の会
事務局
医学生、看護学生などを対象に、また、教育機関にとどまらず学会や医療セミナーなどのさまざまな場で、患者やその家族が自らの体験を語る「患者講師」の活動が広がっています。これを受けてVHO-netでは、講演依頼があれば対応できる体制づくりを目指して活動しています。疾患や生活、社会環境や患者団体を通しての活動などを「生の声」で語る。そこには教科書や論文に載っていない切実な思いや、一人ひとりの生き方が息づいています。医療・福祉の現場、市民社会に種を蒔き、それが芽生え、大樹へと育っていく。そんな患者講師の活動を紹介していきます。
神野 啓子 さん
腎性尿崩症友の会 事務局
VHO-net関西学習会 運営委員 腎性尿崩症は、約40万人に1人の確率で発症する遺伝性の希少難病。抗利尿ホルモンに腎臓が反応できず、水を再吸収できないため、体内水分がどんどん尿として出てしまうため、常に多量の水分補給が必要になる。出生後、診断が遅れることによる発達障がいや、成長とともに起こる腎盂腎炎、てんかんなどの二次障がいが現れるケースもある。
講演原稿を作ることで体験やつらさを振り返り整理できる―それは“患者力”になる
私の長男は生後11ヶ月、次男は生後1ヶ月で腎性尿崩症と診断されました。この疾患は、麻酔を使用する手術などで医療者側に正確な情報が伝わっていないと、長時間にわたる脱水症状から生命の危険につながることもあります。私は1997年に高校1年生だった長男を、手の骨折手術で亡くしました。長男の経過を綴ったホームページを開設したことから、同じ疾患の子どもを持つ親たちと出会い、腎性尿崩症友の会が発足しました。
患者講師をすることになったきっかけは2004年に参加したVHO-net関西学習会です。今も継続している、患者・家族が自らの体験を話す模擬講演で、私に順番が回ってきました。原稿や発表スライドを作るのも初めてで、その時の発表がDVDで残っていますが、全くまとまりがなく講演の対象者も誰かわからない内容でした。メンバーからさまざまなアドバイスをもらい、良かった点はほめてもらいました。そして講演原稿を作ることは、これまでの体験を振り返って整理し、時々の思いをどう伝えるか考えることにつながり、また、疾患や医療制度などについてより深く学ぶきっかけになるなど、“患者力”をつける、とても良い機会となりました。
励まされ、癒やされたアンケートでの感想
患者講師として経験を積んでいた関西学習会のメンバーからの紹介で、2006年、新潟県立看護大学で初めて講演を行いました。与えられたテーマは「子どもの死からみえてきたもの」。ところが原稿を書いていると、いろいろな思いが甦り、泣いてしまう。これでは講演なんて無理だと思いました。その時にメンバーから「それは普通のこと」とアドバイスをもらいました。講演では涙ぐむこともありましたが、学生たちは受け止めてくれたようです。その体験から、感情を表してもいいのだと思うようになりました。
その時、講演前に簡単なアンケートを配布しました。内容について、良かった・普通・悪かったなど選べるようにして、感想を書く余白を作りました。最初に渡しておくと真剣に聞いてくれるかなという思惑もあったのですが(笑)、結果として私自身がそれを読むことで励まされ、癒やされ、次の講演への資料にもなりました。そのアンケートは私の宝物になっています。
VHO-netや他の疾患について語ることで、つながりが生まれる
経験を重ねていくうちに、伝えたいという思いは変わらないのですが、伝え方はずいぶん変わったと思います。筋書きは大体同じですが、対象者によるニーズの違いや、重点の置き方がわかるようになりました。発表スライドも、写真を多くするとか、時間を余らせてDVDを流すとか。それでも、最初のつかみ、場の雰囲気、人を引きつける話し方などといった、目に見えないものを創り出すのは難しいです。
一番の大きな変化は、他の疾患とのつながりについて話すようになったことです。VHO-netの紹介や、つながりのある団体の疾患名をできるだけ多く紹介します。そのことで、講演依頼へとつながる可能性もあります。医師対象の講演で『患者と作る医学の教科書』に私が執筆でかかわったことを話すと、ぜひ読みたいと、すぐに注文された先生もいました。最初は、腎性尿崩症という希少難病や遺伝性の疾患への偏見についてもっと知ってほしいと思っていたのが、今はいろいろな人や機関とのつながりをつくっていくことも患者講師の大きな目的だと思うようになりました。
伝えるためのコツ
●時計を必ずそばに置く
●準備に時間を十分かける
●話す内容を最初に目次で伝える
●緊張したら原稿に戻る