ウィズ・コロナの時代の患者会活動
コロナパンデミックが及ぼす影響
2019年年末に中国武漢市から始まったとされる新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界各国に拡がり、日常生活に大きな影響をもたらしています。患者会などで活動している皆さんも、不便と不安のなかで日々を過ごしている方が多いのではないでしょうか。
わが国では4月7日に出された緊急事態宣言などにより感染の爆発的な増加は起こらず減少していましたが、5月25日に宣言が解除され、6月19日の県外移動自粛が解除されてから再び増加を始めており、コロナ対策の難しさを感じさせます。
緊急事態宣言の前や期間中には、政府や自治体、マスコミからコロナ感染症の恐怖が伝えられ、Stayhome(自宅に閉じこもること)が強調されていました。わたしはそれだけでは解決は難しいと考えていました。なぜなら、世界的パンデミックですから、たとえ国内でコントロールできても、経済活動が再開されれば海外から再びウイルスが持ち込まれるからです。
世界的なコロナウイルスの沈静化には、数ヶ月や半年の単位ではなく、もっと長い時間の単位で考えておいた方が良さそうです。コロナウイルスが消失した後のポスト・コロナの時代ではなく、コロナウイルスの存在を前提とした社会、ウィズ・コロナの社会で、どのように生きていくかが大切なのです。
コロナウイルス感染症と慢性病患者
コロナウイルスの感染では、無症状の人が多いと考えられ、しかも無症状の時期にも周囲に感染させてしまいます。無症状や軽症の感染者が報告されてくると、全体での致死率はそれ程高くはありませんが、65歳以上の高齢者や心疾患・糖尿病・高血圧・慢性呼吸器疾患・がんなどの基礎疾患をもつ人では重症化し死亡するケースも多くなります。
難病の患者さんすべてがコロナウイルスに対して弱いわけではありません。しかし、呼吸器や循環器疾患の患者さん、ステロイド剤や免疫抑制剤、抗がん剤などの薬を使っている方は、感染予防のために特に厳重な注意と慎重さが必要となるでしょう。
さて、コロナ感染の予防に、皆さんもご存じの①三密の回避、②マスクの着用、③十分な手洗いの三項目があります。しかし、自宅に閉じこもっているばかりが良いわけではありません。閉じこもれば、不安や心配なことが次々に浮かんでコロナ鬱と呼ばれる状態になったり、高齢者の方では認知症を進行させることもあります。
早朝に近所を30分程散歩をするなど、身体を適度に動かす運動は、感情や認知面だけでなく身体面にも良い影響をもたらします。筋肉を維持したり増やすことは、感染症に対する免疫力を高めるからです。時間や場所、状況を選んで散歩し、他の人と接触することもなければ、外出により感染することはありません。空気(飛沫核)感染をするのは、換気の悪い密集した空間ですから、屋外の散歩は安全と考えてよいのです。
他の人との会話時には、マスクをして、その後によく手洗いすることです。発声時に出される感染者の唾の飛沫や、その飛沫に触れた手が触れたものから、感染が拡がります。したがって、大人数での会食やカラオケなど、大きな声を出して飲食をする環境には、しばらくの間は近づかない方がよいと思われます。
一方で、家に閉じこもり、運動をせずにソファーに横たわり、テレビを視ながら菓子や果物を食べるような生活も良くありません。肥満や糖尿病や脂質異常症の原因になり、コロナウイルス感染症をより重症化しやすくするからです。
わたしの診ている患者さんで、外出が恐いからと家に閉じこもり、栄養をつけなければいけないとしっかり食べていたため、体重が急に3kg以上も増えたという患者さんがいました。糖尿病の指標であるHbA1cや血中の脂質がかなり悪化しており、コロナウイルスに感染したら重症化しやすくなっていたのです。安静と高蛋白・高エネルギー食はコロナ感染症を悪化させてしまうのです。
感染を避けながらコミュニケーションを保つ工夫を
感染予防のためにソーシャルディスタンス(社会的距離)をとることがすすめられていますが、わたしは賛成できません。距離をとるべきなのは身体的距離(フィジカルディスタンス)であって、本来の意味の社会的距離ではありません。むしろ、社会的には交流を保つことの重要性を強調したいのです。
感染を避けながら社会的交流を保つための方法、すなわち、身体的には距離をおきながら、人とコミュニケーションできる便利な方法が今ではあるのです。この10年間で急速に進歩したICTと呼ばれる通信情報技術です。
ICTといっても、難しいものではありません。まずは、電話やスマートフォン(スマホ)などを積極的に利用してください。家族や友人、患者会の仲間との会話を楽しむことができれば、不安感は和らげられるはずです。
スマホを使っている人なら、LINE(ライン)やZoom(ズーム)を使って、画面で相手の顔を見ながら会話を楽しむことが簡単にできます。ハードルが高いと感じられるなら、身近にいる若い人、お子さんやお孫さんなどに、LINEを使ってビデオ会話をしてみたいと頼んでみてください。一度セットアップしてもらえば、その後は、簡単にビデオ会話を楽しめます。患者会の仲間と話したければ、Zoomが便利です。LINEもZoomも基本的な機能であれば、無料で簡単に利用できますから使わない手はありません。
ウィズ・コロナ時代の患者会活動
ウィズ・コロナの時代には、Zoomなどオンライン会議を使う活動がより重要になることは間違いありません。もちろん、実際に会って行うリアルの活動が不要になるわけではありませんが、補うような形でリアルとオンラインを利用すればよいのです。
わたしの大学ではオンライン授業のシステムが準備されていましたが、昨年度までは、オンライン授業など見向きもしないでいました。ところが、今回のコロナ騒動により、4月から急遽オンライン授業や会議をやらざるをえなくなったのです。それによって、オンラインのメリットが随分あることに気づかされました。
まず、通勤しなくて済み、往復の通勤時間とその間の心身のストレスが軽減されます。企業であれば、交通費が浮きますし、将来さらにリモートワークが普及すれば、オフィスの設備が半減することになるかもしれません。会社員によっては、職場で働いているときよりも効率良く仕事ができるという人もいます。
二つ目は、場所を越えて会えることです。大学の教室を利用して行っていた公開講座患者学も、本年6月よりオンラインの会としました。すると、北海道や沖縄、福岡、大阪、京都、群馬、そして海外からなど、今まで参加が難しかった地に住む人も参加できるようになりました。
三つ目は、学生や参加者にとって、より質問や意見を表出しやすくなることでした。オンラインでは座席の位置関係などがなくなり、より水平な意見を出しやすくなります。また、チャットという機能を使うと、授業や会議の進行を妨げることなく、しかも他の人には名前を伏せながら、質問や意見を書き込めるのです。オンライン会議では、会議室を確保しなくてよいのも大きなメリットの一つであり、費用も格安で簡単に開催できます。
リアルの授業や会議では、それが終わった後で個人的に質問したり雑談ができ、その後の懇親会や会食でより親密になりやすいというメリットがあります。このような一見無駄とされる効用を活かしやすいという面がリアル会議にはあります。オンライン会議のメリットとデメリットを考えつつ、リアルとオンラインを使い分けることが患者会の活動に求められるのです。
言語的コミュニケーション技術を磨く努力を
メール、電話、オンライン会議とリアル会議を比較すると、非言語コミュニケーションが大きく異なります。メールでは言語だけのコミュニケーションですが、電話では、非言語コミュニケーションとして音声(口調や大きさ、テンポ、声の張りなど)や合いの手(ふーん、エエッ、なるほどなど)が加わります。オンライン会議で画面が入ると、さらに表情や視線、ジェスチャーなどの情報が加わり、表現がより豊かになります。リアル会議ではさらに、相手の身だしなみや相手との接触、空間のとり方(位置関係・距離)などが加わります。
このように考えると、コミュニケーションの手段として、先程の記載順で言語に依存することになり、コミュニケーションの難しさが生じることがわかります。そのために、オンライン会議や電話の相談は、リアルで行う時に比べ、より言語的コミュニケーション技術を磨き、表出することが必要とされます。同時に、相手の声の調子や高さなどから相手の感情を感じとる敏感さも要求されます。
多分、そんな理由もあってか、オンラインでの会議や授業では疲れやすいのだそうです。ですから、余り長い時間にならない方が良さそうです。リアルの会では、せっかく遠方から来たのだからと、ある程度の時間をとってしまいますが、オンラインでは、短い時間で頻回にやるという考え方でよいのかもしれません。ぜひ、オンラインでの活動を増やしていってください。
加藤 眞三 さん プロフィール
1980年慶應義塾大学医学部卒業。1985年同大学大学院医学研究科修了、医学博士。1985~1988年、米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部内科専任講師(消化器内科)を経て、現在、慶應義塾大学看護医療学部教授(慢性期病態学、終末期病態学担当)。
■著 書
『患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿』(春秋社 2014 年)
『患者の生き方 よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ』(春秋社 2004年)