第3回
摂食障害からの回復と成長を目指して多彩な活動に取り組む自助グループ「NABA」
実際にピアサポートに携わる団体のリーダーやピアサポーターの立場から、その現状や課題を探る「ピアサポートNOW」。第3回は、摂食障害者の自助グループとして、さまざまな体験を分かち合い、回復と成長を目指す「NABA」の活動をご紹介します。
NABA
日本アノレキシア(拒食症)・ブリミア(過食症)協会
共同代表 鶴田 桃エ さん
事務局長 高橋 直樹 さん
摂食障害は再発を繰り返すケースが多く、その回復と成長には自助グループでのピアサポートが有効であるとされています。そこで、摂食障害の自助グループとして20年以上にわたって活動を続けてきた「NABA」のメンバーに、その取り組みの様子や摂食障害におけるピアサポートの役割についてお聞きしました。
日本アノレキシア(拒食症)・ブリミア(過食症)協会
Nippn Anorexia Bulimia Association 通称NABA(ナバ)
1987年設立。94年、東京・上北沢に独立した事務所兼ミーティング場を開設。全国各地のNABAグループと連携しながら、個別に独立した活動を行っています。摂食障害者や家族、専門家などのメッセージが聞ける「NABAテレフォン・メッセージ」は0990-511-211(情報提供料300円と通話料がかかる)まで。
http://naba1987.web.fc2.com/
まず、NABAについて教えてください
NABAは、自らの摂食障害(拒食、過食、自己誘発嘔吐、偏食、下剤乱用など)からの回復と成長を願う人々の集まりです。摂食障害者が安心して集える場の中で仲間と出会い、理解と共感を通して相互に助け合う自助グループとして、私たち摂食障害者本人が主体的に運営しています。他にも各地にNABAグループがありますが、本部・支部などの上下関係ではなく、個々に独立しながら連携をとって活動しています。
また、摂食障害者の親や家族の自助グループ「やどかり」は別組織ですが、NABAの事務所を利用して定期的にミーティングを開催し、摂食障害者の家族からの電話相談に対応しています。
摂食障害の場合、ピアサポートはどのような役割を果たすのでしょうか
摂食障害は、食べる・食べない、太る・痩せるという症状が注目されがちです。しかし、緊張感の高い家庭などに育ち、常に孤独感や疎外感を感じてきたという共通点があり、症状の背景には耐えがたい寂しさや生きていくことへの恐怖、自己肯定感や自尊心の欠如などがあり、対人関係や生き方の中にこそ本質的な問題があります。
摂食障害の症状が治療によって治まっても、本質的な問題が解決しなければ回復したということはできません。大切なことは、症状を含めた今の自分を責めずに認め、少しずつ自分を受け入れることです。ですから、同じ悩みを抱えた者同士が、安心できる場所で、抱えている問題とその体験を分かち合える、自助グループの中でこそ回復や成長が得られると私たちは考えています。
その分かち合いの場として、ミーティングが開かれているわけですね
ミーティングでは、安心で安全な場所を守るために「言いっぱなし、聞きっぱなし」と「そこで話されたこと、見たことは、外へ持ち出さない」を約束事として、何を言ってもかまわないことになっています。そして、アルコール依存症からの回復を目的に米国で作成された「12ステップ」というプログラムを、日本の摂食障害者向けにアレンジした「NABA10ステップ」という独自の指針を使って、メンバーの回復・成長を目指しています。
初めて参加した人は症状や治療について語りますが、他の人の話を聞いていくうちに、次第に症状そのものよりも、対人関係などに本質的な問題があることに気付いて、親との関係などを話し出します。ミーティングは本人だけが参加するクローズな場なので、「死にたい」「親が憎い」「子どもが可愛くない」など、他では言いにくいことも「言いっぱなし、聞きっぱなし」で自由に言えるのです。
ミーティングなどNABAの活動は、摂食障害者本人だけが参加するのですか
私たちは、クローズとオープンの二本立ての活動ということを大切に考えています。クローズの部分としては、摂食障害者本人の安心と安全を守るという考えから、ミーティングや会報「いいかげんに生きよう新聞」も非公開です。
その一方、多様な生き方や考え方を知ることも必要と考え、オープンな活動として、広報紙「NABAニューズ・レター」を発行したり、家族や医療関係者も参加するオープンミーティングやフォーラム、全国の仲間が集まるワークショップを開催したりしています。
また、引きこもりやDV、嗜癖(アディクション)、依存症などさまざまな問題に取り組む自助・ピアサポートグループが集う「ピアサポ祭り」を毎年開催しています。6回目を迎えた今年は90団体が参加し、体験談やパフォーマンスを披露し合いました。他のグループとの交流の中で、誰もが肯定されることが大切であり、いろんな生き方があってもいいと教えられたことは、私たちの活動に大きな影響を与えてくれました。 またNABAの活動には精神科医や看護師、ケースワーカーなども「NABAの友人」として協力してくれています。専門家と患者という上下関係ではなく、対等な立場でのつながりは、私たちの宝だと思っています。
今後は、どういった活動を展開していくのですか
摂食障害は若い世代だけの問題と誤解されがちですが、私たちは、摂食障害に悩む中堅世代や、若い時に摂食障害を経験した人たちに注目しています。主婦や社会人としての役割を立派にこなしている人も多いのですが、今も続く症状を家族に隠していたり、症状はなくても本質的な問題を抱えたまま、子育てや親の介護に直面して生きづらさを感じている人が増えているからです。
そこで、2008年にファイザープログラムから助成を受け、「摂食障害『ストップ!問題先送りと世代連鎖』」という事業を行いました。中堅世代の摂食障害者(経験者も含む)を対象に、この世代の抱える「生きづらさ」や悩みをわかち合い、希望のメッセージを届けようと全国各地で出前セミナーを開催しています。
厳しい経済情勢の中で、NABAでも運営資金の確保が大きな課題ではありますが、こうした助成プログラムなども活用して、摂食障害者の回復・成長のみならず、様々な人々とともに豊かに生きられる社会を目指して活動していきたいと考えています。