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異なる病気の患者・家族が自由に集まり語り合う試み
「慢性患者のごった煮会」

異なる病気の患者・家族が自由に集まり語り合う試み「慢性患者のごった煮会」

「慢性患者のごった煮会」(以下、ごった煮会)は、スピリチュアルケア(死に対する不安や恐怖、人生の意義や生きがいに関する悩みなど、心的な痛みの軽減)を目的に、難病や慢性病の患者とその家族が集い、自分たちの抱える悩みや不安を語り合い、聞き合い、話し合う場です。2010年秋に開催が始まり、2012年4月で第8回を数えます。当事者どうしのピアサポートのひとつの形として注目される「ごった煮会」について、お話を伺いました。

主催者 重藤 啓子 さん(NPO法人 肺高血圧症研究会)
ファシリテータ代表 加藤 眞三 さん(慶應大学看護医療学部教授)

まず、「ごった煮会」誕生のきっかけや経緯を教えてください

重藤さん 所属団体の肺高血圧症研究会でも、サロンとして語り合いの場を設けていますが、同じ病気の患者どうしではよく理解できることもある一方、話しにくいこともあると感じていました。2010年夏にVHO-netの関東学習会で、“異なる病気の患者”が語り合う場を作りたいという私の提案に、加藤先生が協力すると言ってくださって、その年の秋に第1回「ごった煮会」が実現しました。

加藤さん 僕は、肝臓病やアルコール依存症の患者さんを対象に、こういった集いを開催してきた経験から、患者の集まりに成果があると考えており、異なる病気の患者さんどうしが語り合う場が必要と考えていました。さまざまな視点があることを知ることにより、活性化されるのです。また、日本でのスピリチュアルケアは、「ホスピスなどで終末期に行うケア」とみなされてきましたが、僕は慢性病の患者さんにも必要と考えており、スピリチュアルケアを全国に広めていくための運動の一環だととらえています。

参加者は、どのような立場の方が多いですか

重藤さん 毎回20〜30名ほどで、私の所属団体やVHO-netなどで知り合った内部障がいの団体メンバーを中心に、がん患者さんも参加されています。口コミが多く、肺高血圧症研究会のホームページで知る人もいるようです。加藤先生のつながりから、看護師さんや看護学生も参加してくれます。

加藤さん 別に患者家族でなくても、だれが来てもよい。健常者であっても仲間には違いない。予約しなくてもよい。ふだん“人には言えないこと”を言える場所がある――それが重要だと考えています。

会を進めるに当たって心がけているのはどんなことですか

重藤さん 各グループにファシリテータを配し、親子や夫婦、友だちといった、関係の近い人はなるべく離して、グループ分けをします。家族やパートナーへの不満や思いも語れるようにするためです。
何回か開催してきて、行きたくても行けずにいる人がいること、迷いがある人ほど来るのが遅いことが分かりました。遅れてくる人ほど大きな問題を抱えている場合が多いため、そういった人もグループワークには加わりやすいように、最初に団体紹介と、加藤先生の話を聞く時間を設けています。

加藤さん 無理矢理明るい方へ話をもっていくと、話せなくなる人もいるので、まず導入の部分で、不安に思ったことをお話しくださいと呼びかけています。
重篤な悩みのある人は、躊躇して来られないことも多いので、とにかく来て、話してくれればよい。遅れてもよいから、何よりも来てくれることが大事だと考えています。参加者には、あらかじめ、そのことを知っておいてもらうと、遅れてきた人も受け入れられやすいのです。
自分の話を聞いてくれる人がいることにより、悲しみは半減し、喜びは倍増するといわれます。また、他の人の話を聞いていると、自分の気持ちが整理されてくることもある。話せないことを話せる場づくりが必要なのです。

「ごった煮会」を通じて得たものや目指すものはありますか

重藤さん 最初の頃は、自分のことを話して泣く人がとても多かった。最近は、何度か参加している人が傾聴する側に回ってくれるので、まさにピアサポートができるようになりました。病気という困難を克服するプロセスでは、どの段階にいるかによって、話す内容も違ってきますね。病気を受容し、かなり克服している人は、将来を見据えた話をもち出してくることもわかりました。
私自身は、「ごった煮会」に助けてもらっている、経験を積ませてもらっていると感じています。みなさんといると元気になれると思っています。
加藤先生は、医師としてではなく、同じ横の立場で参加してくださっています。患者と医療者のこれからの関係性を示しているかのようです。「ごった煮会」はそのように、関係性を学ぶ場でもあると思います。

加藤さん 医師に対しても意見を表明できることは大切で、それがコミュニケーション力でもある。コミュニケーション力というのは、テクニックやスキルではなく、場の中で学ぶものだから、その点でも役立つと思います。
僕自身は、「ごった煮会」を通して、ひとつのモデルを作り、それがどこでもできるようにシステム化したいと考えています。状態があまりかけ離れた人どうしだと参考になりにくいから、ある程度近い状況にある人が集まって、6〜8人ぐらいの話しやすいグループの中で……といった形を続ければ、トレーニングを受けた人がいなくても、患者のケアは可能かもしれない。
肝臓病の領域では、肝臓病教室が広がって成果があがっていますので、同じように「ごった煮会」のようなモデルを作り、普及させることが、僕にとっての目標です。
日本は宗教的なベースが希薄であり、ケアする側とされる側の1対1のスピリチュアルケアは、難しいように思います。1対1よりも、グループで横につながって話すうちにケアされていくという形が、日本でスピリチュアルケアを広める突破口になるのではと考えています。

ふだんは口に出せない思いや苦しさを話す場「ごった煮会」レポート

2012年2月4日に開催された「第7回ごった煮会」では、慶應大学信濃町キャンパスの教室に、約30人が集いました。
まずは、互いに理解を深めるための活動紹介から。この日は「適性たんぱく普及会」の紹介がありました。続いて、加藤さんが「ごった煮会」の主旨やグループワークについて説明。その後、6〜8人のグループに分かれ、自分の悩みや思いを順に話しました。話す人はバルーンを持ち、話している間、他者は口を挟まないことがルールです。スピリチュアルケアの研修を受けたメンバーや医療関係者が、ファシリテータとして各グループの進行を担当します。
グループワークは1時間半程度行われ、再び全員が集まり、各班で話し合った内容や感想をそれぞれのファシリテータが発表。閉会後は近くの喫茶店に場所を移し、2次会で忌憚なく語り合います。初めて参加した人も会の終わり頃には緊張が解け、少し笑顔を見せながら帰る姿が印象的でした。

〜参加者の言葉から〜

参加者は「ごった煮会」を経験して、どのように感じたのでしょうか。グループワークの振り返りからご紹介します。

1. 病気に悩むよりも、自分の人生をどう生きたいかを考えると語った人が印象的だった。また、「自立とは助けてくださいと言えること」という加藤先生の話が心に響いた。私も感じたことを言えるようになり、また、前向きになることができ、生きていてもいいと思えた。口に出して話すことの大切さを実感した。

2. 患者会に参加することや行動を起こすことで仲間が増えたり、得られるものが大きいと聞いた。それぞれが自分の人生に前向きで、人と人が交流することでしか得られない貴重な時間を共有できた。

3.最近、何もできない・何もしたくないと思いがちで、今日も実は来るのがおっくうだったが、素敵な言葉をもらってホッとした。来てよかったなと思う。

4. バルーンを持つ話し方を初めて経験した。じっと黙って聞くのは努力も必要だったが、じっくり聞けて勉強になった。

5.「この会に参加するようになって、自分の人生をどう終えるかを考え、少しずつ準備できている」という話が心に残った。