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医療安全の視点から
コミュニケーションの向上を目指す

医療安全の視点から
コミュニケーションの向上を目指す

医学研究・臨床試験を身近に捉え、医療への関心を高める取り組みとして注目される患者・市民参画「PPI(Patient and Public Involvement)」。今回は、自ら医療過誤の被害者となったことをきっかけに、医療安全の背景にある医療の課題に目を向け、患者・市民の立場から活動する井上恵子さんに、これまでの経緯や医療参画への思いをお聞きしました。

医療過誤の経験をきっかけに、医療を学ぶ

私は、乳がん検診での検体取り違え事故の被害者となり、検査会社への損害賠償交渉を経験して、医療過誤の背景に多様な医療の問題があることや、患者の立場は弱く情報を得にくいことを知り、「医療過誤 原告の会」に入会しました。相談業務など団体の活動に携わる中で、さまざまな医療事故があることや、医療の質の地域格差、多職種連携の難しさなども実感しました。そして、医療安全を推進していくためには、医療者や医療にかかわる企業と患者とのコミュニケーションの向上や、患者・市民の医療参画(PPI)が必要だと考えるようになったのです。そこで、私自身、医療やPPIについて学び、視野を広げる必要性があると感じて、「認定NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML」の講座で学び、さらに医薬品開発を学ぶために(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe)のオンライン講座を受講しました。

その後、医療過誤 原告の会の活動のほか、大学病院・研究機関の倫理審査委員会一般委員などを務めてきました。現在はJi4peの患者・市民向け講座の講師や、「(一社)日本プライマリ・ケア連合学会の医療の質・患者安全委員会」の外部委員を務めています。同委員会では、医療者と患者のコミュニケーションを改善するために、「患者安全改善ガイド」の作成などに取り組んでおり、医療者側に、患者とのコミュニケーションが医療安全につながることや、PPIが必要といった認識があることに、希望を感じているところです。

与えられた機会を積極的に活かす姿勢で

私は、活動の中で出会ったものに取り組むうちに、いつの間にかPPIの道を走ってきたという気がしています。医療職ではない私がPPIに関する講座の講師でよいのかという思いもありますが、これも私に与えられた機会と考えて、常にスキルアップを心がけつつ、同じ立場の皆さんにより良い学びの機会を提供したいと取り組んでいます。PPIに関心のある方には、学びの場など与えられた機会はぜひ活かしてほしいと思います。

PPIは医薬品開発にかかわるイメージが強いですが、私は、日常的な医療の中に活かされてこそ、患者に得るものがあると考えています。医療者や製薬企業も患者の思いや困難さに目を向けるようになり、またカルテ開示が容易になるなど、私たちを取り巻く環境は改善されてきましたが、まだ患者とのコミュニケーションには課題は多いと思います。そして、患者の側も、現在の医療制度や服薬情報提供の実現は、声を上げ続けてきた患者や団体の活動の成果であることを認識して、貴重な情報を正しく理解できるように知識やリテラシーを身につける必要があるのではないでしょうか。医療者や企業と、患者市民がお互いに理解し合いながら、新しいものをつくっていく時代なのかなと思います。

PPIの学びの場

(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe.tokyo)
体系的な人材育成PEエキスパート学習コース
※PE=Public Engagement(公共関与)

井上 恵子 さん プロフィール

医療過誤 原告の会<br>井上 恵子 さん 医療過誤 原告の会
井上 恵子 さん
医療過誤をきっかけに、医療安全を推進することで医療の質を高めることを目指して活動に取り組む。「医療過誤 原告の会」役員、(一社)医療開発基盤研究所(Ji4pe)社員、認定NPO法人 大阪精神医療人権センター会員、(一社)日本医療安全学会会員など。Ji4peでは、患者・市民のための人材育成コース(患者市民の考える医療コミュニケーション)、倫理審査委員育成コースの講師を担当。