「全国難病センター研究会」
47都道府県への難病相談・支援センター実現へ大きな役割を果たした
2003年度より厚生労働省が難病対策事業の一環として、全国への設立をめざしてきた「難病相談・支援センター」がすべての都道府県に整備されました。その実現にあたって重要な役割を果たしたのが、ヘルスケア関連団体や自治体、研究者、研究団体が参加して立ち上げた「全国難病センター研究会」です。
ここでは「全国難病センター研究会」会長を務め、数々の難病対策事業研究に取り組んできた独立行政法人国立病院機構宮城病院院長兼、東北大学医学部臨床教授木村格氏と、同研究会事務局として患者・家族の立場から活動してきた全国難病センター研究会事務局長伊藤たてお氏に、「難病相談・支援センター」の現状や課題、これから進むべき方向などについてお聞きしました。
全県へのセンター整備は、大きな成果。今後は質の向上へ
厚生労働省の研究事業「特定疾患の地域支援体制の構築に関する研究班」で調査研究に携わっていました。1997年に「難病に対するケアシステムとして、どんなことでも相談できるところが必要だ」という提案を行い、その内容は「相談事業によってその地域の問題が浮き彫りになり、一つずつ解決することによって地域のケアシステムの質も向上する」というものでした。その後、国が相談事業に取り組み始めたことをきっかけに、患者団体や行政、医療、福祉などさまざまな立場の人が集まり「全国難病センター研究会」として活動してきました。当初からの目的であった「全国47都道府県への難病相談・支援センター設立」が実現したことは、研究会の大きな成果だと思います。
各センターの運営は都道府県に任され、患者会が運営しているところ、病院や行政が主導しているところなど形態や規模はさまざまで、まだ十分に機能していないところもあるようですが、予算面など各県の事情があることも事実です。都道府県によっては本当に厳しい状況もあります。そうした事情を踏まえた上で、難病相談・支援センターを充実させていくためにそれぞれのセンターの現状や課題を検証していく必要があり、質を評価する第三者機関を作りたいと提言しています。
また、センターの相談支援員資質向上のために研修会を行う予定です。また相談員のためのカウンセリングも必要です。患者さんや家族の思いを汲み取り、何を望んでいるのかを受けとる。解決ができなくても一緒に考えていく。患者さんの思いを受け入れられるキャパシティ(収容能力)を持つ、元気な相談員を育てたいと考えています。
センター自身が自立していく方向を見つける
研究会を立ち上げた当初、患者さんたちは国への要求や要望など「他力本願」の意見がみられましたが、最近は、「研究会を共に進める」という姿勢に変わってきています。医療もオールマイティではないことや行政の事情も理解されるようになりました。また難病の患者さんでも、研究会や患者団体の活動などでがんばっている人は活気があり、予後がよくなった人も多く、活動は体に対してよい影響を与えていると感じています。
難病センターの今後の目標は就労問題です。今年から沖縄、佐賀など4ヵ所のセンターに就労支援の資格をもつジョブ・コーチが加わり、相談員と一緒に活動しています。4ヵ所での就労成果をみて、全国のセンターに広げたいと考えています。また、今後は全国のセンターとネットワークを結び、相互支援も実現していきたい。バーチャルな全国センターをネットワークの中で運営できるようにします。
私たちがめざすのは、患者さん自身が思うような生活ができるように支援ができる、一つの拠点となるべきところ。実際には、サロン的な雰囲気も持ちつつ専門的な指導や支援もできるセンターです。これまで相談したことのない人や患者団体に入っていない人も相談しやすいような形にしたい。上から指示をするシステムでの運営ではないため、国や都道府県には任せられない部分もあると思います。民間での運営や企業の支援によりセンター自身が自立していける経営基盤も模索したいと考えています。難病相談・支援センターは数も少なく、予算も少なく、まだまだ小さな存在です。小さな芽が少しずつでも大きくなるよう、さまざまな面から支えていきたいと思います。
全国難病センター研究会
「全国難病センター研究会」には、地域の団体、ヘルスケア関連団体、そして保健・医療・福祉関係者、研究者および団体が参加しています。同研究会では2003年より各地で「全国難病センター研究大会」を開催し、難病相談・支援センターのあるべき姿や、役割と運営方法の研究、専門医や地域医療との連携、地域との連携システムの構築など多くの課題解決に向けて活動してきました。そして設立したのが「難病相談・支援センター」です。これは、難病対策の制度安定化と研究の推進及び就学・就労問題を含めた福祉施策の重点的強化の一環として、全国47都道府県へ整備されました。
患者団体が中心となって運営する難病相談・支援センター
全県に難病相談・支援センターを作ることは簡単なことではなく、大きな目標でした。最終的な形態としては、行政が直接運営したり、保健所が運営したり、病院の中にあったりと、県によってさまざまな形になりました。
私は北海道難病連などで長年、相談事業に携わってきましたが、患者さんの相談は、単に知識がほしいのではなく、医療や行政に対する不安や不満、生活支援の問題から、就労の問題、心の問題まで非常に幅広いのです。人が生きていくために抱えざるを得ないこと、それに対応するのが難病相談・支援センターの目的です。患者さんや家族の悩みをまず聞いて整理をして、解決方法に関して一緒に考え、制度がなければ社会に訴えていく。私たちは、居住地域の中にこそセンターが必要であり、特定疾患をかかえているかないかで相談者を選別することはできないと訴えてきました。その点を整備したかったのですが、相談事業を引き受けられる患者団体が見つからず、目標とするセンターに届かなかった地域があったことも事実です。しかしながら、全都道府県に設置されたので、これからは質、中身の問題になってきます。いかに患者さんが自由に話せて、自分自身を解放していくか。自分の力で生きていくことがつかめるかどうか。患者さんの満足度を医療や行政の専門家主導でゴール設定をするのではなく、個々の患者さんに寄り添いながら先をいっしょに考えていく場でなければと考えます。
次の課題は「全国センター」の設立
相談員の質も問われます。まず相談に来た人を受け入れ、自由に話してもらえる雰囲気作りができる技術と人格が求められます。個人の専門や知識には限界があるので、相談員を指導できる適切な専門医やケースワーカー、患者会などを紹介し、紹介後にはフォローも行う。そこまでして初めてセンターの意義があるといえます。私は患者さんの難病相談の専門家には、長い間、患者団体で相談事業に携わってきた人たちが適任だと考えます。ですから難病相談支援センターは、患者団体中心の運営がいいと思います。そして、各都道府県の連携、また患者団体の育成という点でからも「全国センター」が必要です。患者団体、行政、医療や福祉の専門家で第三者の組織を作って「全国センター」として機能することが最もいいのではないか。それも医療者に全主導権があるのではなく、患者自身や患者団体も力をつけていかなければならないと痛感しています。
今後はさらに、各都道府県の難病相談・支援センターの活動の様子や事例報告などを検証しながら、患者さんが何を望んでいるのか、医療者や行政が患者支援にどうかかわるべきか、もう少し具体的な深いところを考えていきたいと考えています。