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『患者と作る医学の教科書』完成 患者の実体験を、患者自身の言葉で表現した画期的な書籍

『患者と作る医学の教科書』完成
患者の実体験を、患者自身の言葉で表現した画期的な書籍

今まで世の中に出ることが少なかった患者の声や、患者から見た病気の像を、患者自身の言葉で伝える医学の教科書を作り、患者と医療者の相互理解を深めたい……。そんな願いから生まれた『患者と作る医学の教科書』が3年の歳月を経てついに完成、出版の運びとなりました。今回のトピックスではこの『患者と作る医学の教科書』を特集してお送りします。

『患者と作る医学の教科書』は、患者団体のリーダーや会員が執筆した原稿を基に、患者・家族や医師、看護師など多彩なメンバーから構成されたプロジェクトチームが編集したものです。

25の疾患について、病気の成り立ちや症状を患者の目線から解説し、生活上の不便や工夫、検査・治療を受けることへの不安、患者団体の果たす役割などが患者・家族の言葉で書かれています。さらに思考と理解を深める演習問題として、医療者と患者、あるいは患者と家族の間に起こりやすい問題が取り上げられています。

掲載されている疾患
慢性頭痛/統合失調症/心臓病/HAM/パーキンソン病/慢性腎不全肝臓病/CMT/1型糖尿病/口唇口蓋裂/PWS/COPD/中枢性尿崩症/腎性尿崩症/認知症乳がん/マルファン症候群/先端巨大症/てんかん/白血病/気管支ぜんそく/クローン病/排尿障害/変形性股関節症/全身性エリテマト

『患者が作る医学の教科書』とは?
企画から出版にいたるまでの道のり

『患者と作る医学の教科書』は、患者でなければわからない実体験から患者が執筆した教科書を作成、出版することにより、医療を学ぶ学生や医療関係者に、疾患や患者のことを学んでもらうと共に、患者自身も自らかかわることで、医療・医学への知識を向上させ、患者と医療者とのコミュニケーションを深めようという目的で作成されたものです。患者による医学の教科書の構想を温めてきた酒巻哲夫教授と、医学教育への参画を模索していたヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(VHO-net)の出会いがきっかけとなり、ファイザー株式会社の支援によりプロジェクトチームが構成され、2年半にわたって議論と作業が重ねられました。

従来の臨床系教科書の書き方や項立てでは患者の表現したいことが表現できないとの判断から、まず自身が患者であるメンバーが見本のひな形を作り、議論を重ねて見本とフォーマットをまとめ、患者団体に原稿を依頼しました。患者団体では会員アンケートの実施や、会報誌をまとめるなどしてフォーマットを基に原稿作成が進められました。医師や専門家ではなく、しかし患者であるメンバーが原稿を執筆することは容易なことではなく、執筆中に体調を崩し、入院した人もいたほどでした。

こうした苦労の中で出来上がった25疾患の原稿には、病気の成り立ち、生活の実態、家族の苦悩、望み、患者団体のサポート状況など、患者団体が培ってきた知識や患者の声が率直に執筆されていました。プロジェクトチームでは足りない部分の補足は最小限とし、元の原稿を最大限に活かすために執筆者ときめ細かくやりとりし、加筆を依頼したり、インタビューによって不足分を補い、原稿を完成させました。

「患者が執筆する」という前例のない医学書ということから、出版を打診した医学系出版社には次々と断られ、進行が難航した時期もありました。結局、看護師向けの雑誌・書籍等を手がける(株)日総研が出版を引き受けてくれることになり、同社の雑誌に、5団体の情報を掲載し、小規模なリサーチワークを行い、微調整を加えました。そして、完成した25疾患の原稿に、プロジェクトチームが作成した演習問題を加え、この夏、ついに『患者と作る医学の教科書』が完成したのです。

それぞれの立場から見た『患者と作る医学の教科書』

『患者と作る医学の教科書』について、プロジェクトチームの中心的存在として尽力された酒巻哲夫さんと、医師と患者の両方の立場からかかわった、大竹弘哲さんにお話を伺いました。

医学教育から見た『患者と作る医学の教科書』
〜その意義と果たす役割

群馬大学医学部附属病院 医療情報部部長・教授/医師
酒巻哲夫さん(編著代表)

医学教育の場で提供される教材と、医師として働く現場に生じるギャップを解決するために、患者さんの言葉で患者さんにしか書けない教科書を作れないかと考えたのが、この『患者と作る医学の教科書』作りの発端です。

医師は症状が悪くなったときや1ヶ月ごとというように、患者さんを「点」と「点」で診ていきますから、すべての時系列で、患者さんを理解することは現実的には難しく、特に人生経験も乏しい学生には想像力も働きません。そこで、点と点の間を埋める教材として用いることのできるのが、この教科書です。また、チーム医療において医療を「面」として展開するために、それぞれの役割を把握し、全体を見渡す想像力を育むためにも役立つと考えています。そして、患者さんの「このように理解してほしい」という思いに沿って編集され、どの場面でどの医療関係者が、どう関わるべきか表現されているので、学生だけでなく、医師や看護師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)などが、それぞれの立場に応じて深い読み取りができると考えています。

教科書を作るプロセスでは、患者さんが執筆した25編の原稿に衝撃を受け、深く感動しました。もっともインパクトを受けたのは、患者さんの医学知識が新しく、教科書として十分使えるものだったことです。また、表現が豊かであることにも非常に驚きました。教科書を作るというプロセスには、患者側と医療者側の相互理解を深めるという意味もあります。今回のプロジェクトチームは、多様な視点を持つ人たちが集まったからこそ、患者さんが書いたものを受け入れることができ、この教科書を作ることができたのだと思います。

従来の医学教科書という観点からは網羅性に欠けており、出版に対してさまざまな意見や批判もあると思いますが、その批判の中にこそ、これからの医学教育へのヒントがあるかもしれないとも思います。今回の経験を活かして、今後も医学生や医療者の理解を深め、患者さんとのコミュニケーションを深める医学教育に取り組んでいきたいと考えています。

医師と患者の立場から見た『患者と作る医学の教科書』
〜双方の立場からプロジェクトに参加して

CMT友の会/公立七日市病院 神経内科・リハビリテーション科 医師
大竹弘哲さん(執筆者・プロジェクトメンバー)

私は患者として、また医師としての双方の立場から教科書作りに参加しました。当初はイメージがつかめず、CMT(シャルコー・マリー・トゥース)についての原稿もどう書けばよいのかと悩みましたが、他の団体の原稿を読んで求められるものが理解でき、また大きなインパクトを感じました。

自分自身の医学部時代をふり返ると、多くの疾患の主な症状と治療方法、発症のメカニズムなどを覚えることに追われ、平板な印象しか持てませんでした。しかし、この教科書を読むと、患者さんはどこがどのようにつらいのかということが浮き彫りになり、病気のポイントが理解できると感じました。

また稀少疾患の場合は大規模な研究が実施できず、CMTの場合もリハビリテーションの効果などに関して有効なエビデンスが得られていませんが、実際は、患者さんの病歴からリハビリテーションや運動の効果はある程度認められます。このような患者さんの実体験などが、教科書という形で伝えられることは、とても有意義だと考えています。