フェイス to フェイスのネットワークづくりを目指して
難病にかかわる人が集う「宮城メディカルリンク(MML)」交流会を開催
2010年4月、宮城県患者・家族団体連絡協議会(MPC)は、これまでにMPCにかかわってきた患者・家族や、医療保健分野で難病にかかわる関係者が集まり、相互に交流・理解を深め合い、フェイスtoフェイスによるネットワークを構築する機会として「宮城メディカルリンク(MML)」の交流会を開催しました。医師や患者が自由に語り合う交流の在り方は県内外で注目され、2011年にも第2回の開催が予定されています。そこで、宮城メディカルリンク交流会開催に至った経緯や、今後の展開についてMPC理事長の白江浩さんと、前副理事長の山田イキ子さんにお聞きしました。
※この記事は、2011年3月11日東日本大震災発生前に取材したものです。
まず宮城メディカルリンクの根幹にある「宮城県難病支援ネットワーク構想」について教えてください
MPCは、宮城県内の難病の患者・家族が必要とする支援の実現に向けた活動を行うことを目的に、宮城県難病相談支援センターの運営や仙台市からのさまざまな委託事業などを行っています。その活動の中でかかわった方々に呼びかけて相互理解と交流を深め、分野にとらわれない総合的なネットワーク体制を構築するのが、宮城県難病支援ネットワーク構想です。
さまざまな疾患の患者や家族と医療保健分野の関係者の交流を通して、疾病や患者団体についての理解を深め、今後の協力関係を確立し、フェイスtoフェイスによるネットワークを構築することで、病気についてだけに留まらず人的な交流・理解を進めることを目指しています。
このような構想が生まれた背景には何があるのでしょうか
従来は患者団体が患者さんの情報源になっていましたが、今は何でもインターネットで情報が得られるので、なかなか患者団体に患者さんが入会しないという話を聞き、これでいいのだろうかと疑問に思っていました。そんなときに、MPCの協力者である医師とお会いする機会があり、直接話をすると先生の患者さんに対する思いなどがよく伝わってくることを実感しました。また、難病相談支援センターの中で患者団体の皆さんの話を聞いていると、知識としての情報だけではなく、お互いに語り合う中で理解が深まり合い、元気になっていく様子が感じられ、「直接会って話すこと」にはインターネットでは得られないよさがあると痛感したことが、フェイスtoフェイスのネットワークづくりを発想したきっかけです。
実際に宮城メディカルリンクの交流会開催はどのように進めたのですか
まず、患者団体と医師、看護師など難病相談支援センターの活動にかかわりを持ったすべての方に呼びかけました。特に、専門が違うと医師同士は顔を合わせる場が少ないと聞いていたので、多くの医療者に集まってもらうよう努めました。
当日の参加者は、患者・家族、医師や薬剤師、保健師など38名で、全員にスピーチをしてもらい、質問や情報交換の後、立食形式で自由に歓談しました。手料理の持ち寄りなど手作り感にあふれる交流会となりましたが、参加者それぞれの立場での思いが伝わり、文字通りフェイスtoフェイスの交流ができて、当初の目的は達成されたのではないかと思っています。
費用にはMPCの予算や有志からの寄付を充てましたが、今後は、MPCと難病相談支援センターの共催として事業化していきたいと考えています。
参加した患者さんや医療関係者の反応はいかがでしたか。また、今後はどのように展開していくのですか
患者さんは、セカンドオピニオンや主治医とのコミュニケーションについて、さまざまな分野の医師とざっくばらんに話ができたことがよかったようです。参加した医師からも、異なる病気の患者さんと直接知り合えてよかった、こういう会を続けてほしいという感想をいただきました。 2011年は日程を調整中ですが、仙台以外の※7つの地域のいずれかで開催したいと考えています。仙台などの専門医と地元の医師の情報交換や交流も促進したいので、もっと積極的に医療関係者に参加を呼びかけたいと考えています。
また、福祉や教育・子ども、労働・就労などのカテゴリーでネットワークを作る構想もあります。難病相談支援センターの運営協議会には小児科医師も参加して、少しずつ活動の輪が広がっていますので、近いうちに教育や子どもをめぐるネットワークの構築に取り組みたいと考えています。
理解や交流の先にあるもの、宮城メディカルリンクとして最終的に目指すものがあるのでしょうか
少し大げさかもしれませんが、目指すものは障がいや疾病に関係なく誰でも自由に一緒に暮らせる街づくりです。MPCでは仙台市の委託でボランティア講習会なども開いていますが、ボランティアや一般市民の方にもこうした交流会に参加してもらって、街づくりに活かしていきたいと考えています。同じ地域に住む難病患者さんの病気を理解してもらうことによって偏見や差別をなくしたり、医療の地域格差をなくしたりすることが最大の目標です。 さまざまな面からのネットワークを構築し、医療や福祉から取り残される人がいない、誰もが安心して暮らせる街づくりを宮城メディカルリンクから目指したいと思います。
取材を終えて
取材の中で、患者団体の方は「ささやかな活動です」と謙遜されることが多いのですが、日頃の交流やピアサポートなどの地道な「小さな活動」が、ネットワークの構築やコミュニケーションに役立つ大切な活動であることが多いと私たちは感じています。宮城メディカルリンクのようなネットワークづくりは、まさに患者団体にとって重要な活動と言えるのではないでしょうか。
また、医療者間にネットワークが構築されていると、医師の情報交換もスムーズに行われ、医療の質の向上にもつながります。しかし実際は、医師同士は専門分野が異なると顔を合わす機会が少ないこともありネットワークづくりが難しい面があるので、宮城メディカルリンクのように患者団体や難病連が医師と医師を結ぶ役割を果たすことも必要だと感じました。
さまざまな意義をもつ宮城メディカルリンクのネットワーク作りの試みに込められた期待は、震災後にさらに高まっています。まねきねこでも見守っていきたいと思います。
※参考:仙台市以外の地域を、以下の保健所の管理ごとに分けた区分です。
仙南/塩釜/大崎/栗原/登米/石巻/気仙沼