震災から1年半を経た被災地の現状と復興への課題を探る
日本障害フォーラム(JDF)による東日本大震災の支援活動
東日本大震災から1年半が経過し、被災地では復旧・復興が進められていますが、いまだに震災による被害の全容は明らかでなく、また津波被害の大きかった沿岸部や、福島第一原子力発電所の事故、仮設住宅や県外避難などに関して、数多くの問題が山積しているといわれています。
そこで、今回のトピックスでは、震災直後から地域の団体や行政と連携しながら、被災した障がい者への継続的な支援活動を行ってきた日本障害フォーラム(以下JDF)の藤井克徳さんと原田潔さんに、被災地の現状や復興に向けての課題をお聞きしました。
日本障害フォーラム(JDF)幹事会議長 藤井 克徳 さん
日本障害フォーラム(JDF)事務局 原田 潔 さん
東日本大震災から1年半を経て、被災地はどのような状況にあるのでしょうか
日にちが経つにつれ、報道も減り、ボランティアや募金などの支援も急激に少なくなっています。今でも、大半の被災地では、行政や施設の職員など現場の人材が足りず、移動や生活上の困難がなお多く残り、仮設住宅での生活支援、今後の生活基盤や社会資源の復興など長期的なサポートを必要としています。一般の関心や支援が薄らぎつつある今こそ、私たちの支援力が問われると考え、JDFは活動資金やスタッフを全国から調達・動員し、活動を継続しています。
被災3県の中で、宮城では復興が進んでいることから、2011年12月をもって県外からの人員派遣を終了し、現地の障がい関係団体が構成するJDF宮城を主体とした活動に引き継ぎました。福島県は、原発事故により支援活動が難しい面もありますが、南相馬市での支援と、東電の原発損害賠償にかかわる活動などを行っています。原発による損害は類例のない事態であり、しかも賠償の指針等の情報も日々変化し、損害賠償への対応は一般の人でも複雑です。障がい者にとっては、情報の正確な収集、交渉などをすべて自力で進めていくことはいっそう困難を伴うので、福島県各地で「障がい者のためのわかりやすい東電賠償学習会」を日本弁護士会・福島県弁護士会と共催しています。今後も個別相談など、きめ細かな支援体制を続ける予定です。
岩手県では、職員の犠牲が多く行政機能の復旧が遅れている陸前高田市を中心に活動しており、行政や関係機関と協力しながら、障がいのある人の実態とニーズの把握、必要な支援への橋渡しを行っています。市からの要請を受けた聞き取り調査には、全国の障害者施設などの職員がボランティアで携わっています。
被災した障がい者の死亡率は、一般被災者の2倍以上いう報道もありました
宮城県が2012年3月末に発表した報告や各報道機関によると、障がい者の死亡率は一般の方に比べて2倍から4倍とされ、おそらく人災的な要素が関係していると考えられます。サイレンや警報は聞こえたのか、要援護者名簿は有効だったか、ライフラインの途絶や余震の影響はあったのか、などの実態を検証し、その原因を明らかにしなければ、東南海地震など今後の災害への備えもできず、何よりも犠牲になった方々が報われません。
国にも要望を出していますが、独自の活動として、九死に一生を得た障がい者の方にお会いして、「何が生死を分けたのか」を語ってもらうドキュメンタリービデオを制作しています。また、震災の全体像を把握するために、地震当日、ライフラインが途絶えた数日間、避難所や仮設住宅での生活、福島の県外避難など、それぞれにどのような状況であったか、どういった問題があったかなどのさまざまな証言も集め、将来への提言としていくことも必要でしょう。南相馬市と陸前高田市では、市から情報開示を受け、障害者手帳をもつ人の聞き取り調査が実現しました。現在、今までの支援活動をまとめた報告書をまとめていますが、その中では、障がい者団体や支援団体の提言を明示し、さらなる支援の継続を国や社会に対して訴えていきたいと考えています。
南相馬市や陸前高田市の個人情報に関する対応は、今後の災害対策を考えるうえで注目されますね。今後、JDFの支援活動は、どのような方向に進むのでしょうか
原発事故にかかわる問題解決や、陸前高田市など沿岸部の復興への道のりはほど遠く、支援活動は10年単位で考えるべきだというのが、私たちの認識です。
保健所法が地域保健法へと変わり、保健所機能が脆弱化したところ、特別養護老人ホームやグループホームが集中した沿岸部に甚大な被害が生じるなど、震災には、近年のこの国のあり方を問いただすような側面がありました。復興に向けての地域格差も大きく、高齢化や過疎化の進んだ沿岸部などは、まだガレキが残ったままで、脆弱さをかかえている地域は被害が大きく、復興の遅いことは明らかです。
また障がい者を取り巻く問題は、社会のひずみや弱みなどが浮き彫りになりやすいため、障がい者支援という観点から災害対策や復興を考えることは、国民全体にも役立つと考え、「防災対策・災害時要援護者支援対策の有効性などの検証」「障害視野権利条約をひとつの指標として、すべての人に住みやすいインクルーシブな社会の復興」「今後の復興や防災対策づくりの課程への当事者の参加」などを提言しています。
今年7月に仙台市で「世界防災閣僚会議in東北」が開催され、2015年の「国連防災国際会議」の誘致も行われています。近年、アジア各地でも自然災害が頻発し、障がい者の被災問題は憂慮されているので、東日本大震災での支援活動の経験を活かし、国際的な視点からも災害対策に取り組んでいきたいと考えています。
日本障害フォーラム(JDF)
2004年設立。障害者権利条約の国内での批准と実施に向けた活動に従事。東日本大震災の発生を受け、「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部」を設置し、被災障がい者の支援と、今後の被災地の復旧・復興に向けて、各構成団体の力を結集して取り組む。
支援本部の主な活動
■「東日本大震災に関わる障害者等の支援と復興に関す る要望」など政府等7次にわたる要望書を提出
■情報の収集と発信
ホームページ http://www.dinf.ne.jp/doc/JDF/
第一次報告会(2011.7.13 於 衆議院第一議員会館)
第二次報告会(2012.3.1 於 参議院議員会館/日本財団共催)
活動報告書・ドキュメンタリービデオを制作中
■宮城県での活動
●「被災障がい者を支援するみやぎの会」と協働して、みやぎ支援センター開設
●障がい者支援に携わる団体と行政の情報交換会を定期的に開催
●障害者支援事業所の調査と支援、自治体や保健センターと連携しての支援活動
■福島県での活動
●支援センターふくしま開設(2011.4.16)
●南相馬市より障がい者手帳所持者の情報開示を受け、障がい者の所在と要支援状況の把握のため訪問調査を実施(2011.4~6月)
●植物による除染、缶バッジ頒布などを通じた仕事づくり
●「障がい者のための分かりやすい東電賠償学習会」(日本弁護士会・福島県弁護士会と共催)を郡山市、いわき市、南相馬市などで連続開催。
●避難所等で障がい者のニーズ確認調査、障がい者の相談支援、障がい者支援事業所の支援、交流サロンの設置など
■岩手県での活動
●被災障がい者支援いわて本部設置(2011.9.22盛岡市)、いわて支援センター開設(2012.4.17陸前高田市)
●「障がい者支援活動推進プラットフォーム会議」をはじめとする関係団体との連携
●陸前高田市における障がい者の生活支援・移動支援
●陸前高田市からの情報開示を受け、障がい者の要支援状況などについて、訪問調査を実施