今年は、ピアサポートをテーマに
第12回ヘルスケア関連団体ワークショップ
『共に』〜ピアサポートの未来〜 をテーマに、ピアサポートを多角的に考えるワークショップ開催
2012年10月27日・28日、東京のファイザー株式会社アポロ・ラーニングセンターで、第12回ヘルスケア関連団体ワークショップが開催されました。今年のテーマは、「『共に』〜ピアサポートの未来〜」。全国のヘルスケア関連団体のリーダーや医療関係者が集い、さまざまな視点からピアサポートの課題と今後の可能性についての討議が行われました。
今年は、ピアサポートをテーマに
12回目を迎えるヘルスケア関連団体ワークショップ。今年のテーマは、「『共に』〜ピアサポートの未来〜」と設定されました。従来から、多くの患者団体や障がい者団体では、相談や交流などの形で同じ病気や障がいのある当事者同士が支え合い、助け合う「ピアサポート」が行われています。ピアサポート事業を支援する自治体も増えるなど社会的な関心も高まり、地域学習会でテーマに取り上げられることも増えてきました。そこで、今回のワークショップでは、各団体が行っているピアサポートをさまざまな視点から深く考え、未来に向けての展望を探ろうと、このテーマが選ばれました。
第1日目 10月27日
それぞれに印象的な4人の講演を受け、分科会へ
「たくさんの笑顔に会えてうれしく思います。ぜひ積極的に議論に参加して、何か新しいものを持って帰ってください」というファイザー株式会社 梅田一郎代表取締役社長の歓迎の言葉から始まったワークショップ。1日目はまず、当事者や研究者などの立場でピアサポートにかかわる4人の講演が行われ、次に9つのグループに分かれての分科会が行われました。ヘルスケア関連団体のメンバーにはとても身近で、活動の原点とも言えるピアサポートがテーマであることから、どのグループでも熱の込もった話し合いが繰り広げられました。夜の懇親会では各地域のパフォーマンスも披露され、全員で楽しいひと時を過ごし、親交を深めました。
第2日目 10月28日
分科会の取りまとめおよび、全体発表と総括を実施
2日目は分科会で出された意見のまとめ作業が進められました。各グループごとの発表と、続いての全体討論会では、電話相談などのデータ集積法、会報発行の工夫、ピアサポーターとしてのスキル、社会との協働、企業とのコラボレーション、次世代へのサポートなどのテーマに関心が集まりました。ピアサポートの未来というキーワードから教育へのかかわり方も話題になり、教員免許更新を担う大学へ働きかけようという提案がありました。
ワークショップを振り返り、参加者からは「リーダーも当事者であり、自身の病気や団体の運営についてもピアサポートが必要だと考えてきたので参加できてよかった」「立場を超えて話し合いに参加でき、リフレッシュできた」「社会に生きるという視点で発信の仕方を工夫していきたい」などの感想が述べられました。 最後に「ピアサポートにさまざまな可能性があることがわかった。ワークショップの成果を地元に持ち帰り、さらにサポート力をつけていこう」と確認し合い、2日間にわたるワークショップは幕を下ろしました。
講演
難病患者のピアサポートの場づくり
NPO法人 肺高血圧症研究会代表理事 重藤 啓子 さん
肺高血圧症研究会 重藤啓子さんは、難病患者が集い、語り、聞く会「ごった煮会」の活動を紹介しました。 重藤さんは、患者団体の活動に参加し、同じ病気の仲間と語り合うことの必要性を知り、さらにVHO-netに参加して、異なる病気の患者や医療者など立場の違う人と話し合うことも必要だと痛感。VHO-netで知り合った慶應義塾大学教授の加藤眞三さんの協力で、2年半前からさまざまな病気の患者や家族が集い、語り合い、聞き合う「ごった煮会」を開催しています。
重藤さんは、「目的はスピリチュアルぺインの軽減」「話す方はできるだけ正直なことを話す。聴く方は評価したり教えたり、アドバイスしたりしようとしない」と述べ、「あくまでもピア(仲間)で、お互いがフラットな横の関係というところに大きな意味がある」「場所を提供すれば、自然と話す側、聴く側の関係が生まれる」など、「ごった煮会」の果たす役割や意義を語りました。
当事者の目線で情報を収集し、提供
NPO法人 MSキャビン 中田 郷子 さん
多発性硬化症の患者と家族に情報を提供するNPO法人 MSキャビンの中田さんは、団体の活動と、ピアサポートについての考えを話しました。MSキャビンでは、よくある質問や相談への対応法をまとめたサポートツールを用意するとともに、データベースソフトを使って、内容を分類して記録し、相談件数や相談内容は1年に一度整理しています。
中田さんは、「悩みを傾聴することはないので、ピアサポートは行ってないと考えていたが、最近、患者の立場で情報収集を行い、情報提供することもピア(仲間)の活動ではないかと考えるようになった」と話しました。そして、ピアの目線で情報を集めて提供することを意識して、また現在の相談内容が将来に役立つ可能性もあることから、活用しやすいように記録や整理の方法を工夫しているとのことでした。
そして、「多発性硬化症の新薬が発売されたが、まだ安全性情報の蓄積が少ないので、患者さんや家族からの情報を集め、専門家の協力を得てより良い治療のために役立てていきたい」と、ピアサポートの新たな可能性に言及しました。
臨床心理士の立場からピアカウンセリングを語る
東北福祉大学教授 渡部 純夫 さん
東北福祉大学教授で、臨床心理士として東日本大震災被災者の支援にかかわる人のケアなどに取り組む渡部さんは、ピアサポートの中でも特に、相談を中心にかかわる「ピアカウンセリング」をテーマに講演しました。
渡部さんは、ピアカウンセリングの基本的な姿勢として、「違う人間同士、すみずみまでわかることはできないが、わかろうと努力することはできる。相談者の抱える問題がなくなることはないが、それを抱えながらどう生きていくか、自分で気づいて解決していくか、寄り添いながら導くことが基本」と述べました。そして、「傾聴はただ聴くことではなく、話しながら、相手を受け止めること、存在価値を受け止めていくこと。共感することはできなくても、共感しようとする思いが重要であること」「相手が話しやすいようにするコミュニケーションスキルや心理学的な知識も必要」などと語り、いい形でピアサポートしてほしいというメッセージを伝えました。
セルフヘルプグループを研究する立場から
埼玉県立大学教授 埼玉ピアサポート研究会 高畑 隆 さん
高畑さんは、セルフヘルプグループとしての患者団体の活動に焦点を当て、ピアサポートと患者団体の果たす役割について講演しました。
高畑さんは、ピアサポートの段階として「①個人の体験」「②会で仲間と出会い、自分の体験を仲間に話す」「③例会・交流会で十分に話を聞いてもらい、仲間の体験も十分に聞いてもらえる」「④会のリーダーとして責務を果たし、私と私たち活動を行う」「⑤これらの体験を通してリーダー相談員として会員以外にも個別相談を受けたり、会として社会活動をしたりする」という5段階のプロセスを紹介しました。
そして、「患者会活動のベースには当事者としての同じ体験がある」「セルフヘルプグループではフラットな横の関係が特徴であり、助けることによって自分も助けられる」「つらさを共有すると2分の1に、楽しいことは倍にという考え方が大切」「患者団体の活動で多様な役割を担うことは自己存在を評価されること。それが後輩を助け、やがては社会を変えることにもつながる」ということを述べました。最後に「『私だけ』の活動ではもったいない。個人の『私』ではなく、『我々感覚』を大切に患者団体の活動に取り組み、社会貢献として生かしてほしい」と語りました。