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JPAの活動からみる、新しい難病対策の行方 枠組みづくりから実現へ向けての課題を考える

枠組みづくりから実現へ向けての課題を考える
JPAの活動からみる、新しい難病対策の行方

2013年4月1日より、障害者総合支援法が施行され、身体障害者手帳のない難病等の患者も障害福祉サービスが受けられるようになりました。また、一方では新しい難病対策の法整備に向けての作業も進んでいます。そこで、難病患者にとって障害者総合支援法の課題や、新しい難病対策の現状と課題について、JPA事務局長の水谷幸司さんにお聞きしました。

一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会(JPA) 事務局長 水谷 幸司 さん

障害者総合支援法への評価と課題について

4月からの障害者総合支援法の施行は、難病新法の実現に先駆けての実施であり、対象疾患が暫定のものであるなど課題もありますが、新たに難病等の患者も障害福祉サービスの対象になったことは、大きな意義があります。具体的には、難病患者等居宅生活支援事業として行われていたホームヘルプサービス、ショートステイ、日常生活用具給付事業が、障害者総合支援法の障害福祉サービスに統合されたのをはじめ、総合支援法で実施されているその他の障害福祉サービスの対象にも条件が合えば入ることになりました。今後、制度自体の見直しや拡充が行われ、支援の必要な難病患者等が広く使える制度として実施されることを強く望んでいます。

そのためには、現在の報酬単価の仕組みの改善や、サービスを行う地域の事業所の整備、人材養成といった実施体制の構築が急務です。また、アセスメント(評価基準)が患者の実態に合わず、対象外とされる患者が多く出ることを危惧しています。市町村窓口や認定調査員に対して、難病マニュアルにある配慮事項を踏まえ、患者の生活状況を理解してもらえるように周知徹底することが必要であると考えています。施行後の状況を注視しながら、各患者団体からの情報も収集して、今後も検討を続けていきます。

新しい難病対策の法整備に向けて

新しい難病対策については、単に医療費と研究費の助成にとどまらず、患者の福祉、就労支援など多くの施策からなる総合的な対策であることが改革の基本的な方向とされ、検討が進められてきました。その第一歩として、厚生科学審議会疾病対策部会の難病対策委員会において「難病対策の改革について(提言)」(表1)がまとめられました。多くの稀少疾患を対策に取り込み、必要な財源を確保しつつ法制化について検討するとしたことを、私たちは評価し期待しています。

難病対策の抜本改革実現への課題(表2)について具体的に触れると、まず、「①医療費助成について」の中の対象疾患の選定については、その公平・公正さや透明さが確保されることが必要です。患者数と診断基準の視点から約300疾患程度と言われていますが、認定されない疾患への対応も求められます。また、症状の程度(基準)により「軽症」と診断され、医療費助成の対象にならなくなることへの危惧もあります。しかし、軽症患者にも福祉制度の活用や就労支援などの社会参加への支援が必要ですし、重症化させないための治療を重視することは、結果的には国の医療費軽減につながるはずです。また、「治療を続けなければ生命の危険や重症化につながると予測できる場合には、状態が改善されていても対象に入れるべき」という点は研究班の報告会でも発言があり、症状の程度のとらえ方は重要なポイントになると思います。さらに、難病に限りませんが、公平な自己負担軽減という観点から、医療保険制度の高額療養費制度の見直しは急務です。公費負担による難病新法をまず実現し、その他の医療費助成制度で補完しつつ、すべての患者の負担軽減を目指すというのが私たちの考えです。

次に、「②総合的な難病対策の構築について」の中の難病相談・支援センターについては、自治体により体制等が異なり、ネットワークの中で重要な役割を果たす保健所は統廃合され、保健師が不足しているという現状があります。難病医療コーディネーターや難病医療専門員等の役割の整理もこれからです。さらに、症状が出始めてから確定診断までの期間を解消するために、地域の開業医が専門医へ橋渡しするなど医学界全体の仕組みづくりも必要だと考えています。

40年を経ての抜本的な改革という機会を大切に

「新しい難病対策については、全体的な枠組みは出来上がっているが、具体的な整備はこれから」というのが私の率直な感想です。障害者制度改革もまだ途上であり、障害者総合支援法の改善も含めて、福祉や医療の制度の谷間をなくし、改革をさらに進める必要があります。私たちの要求が一気に実現する状況ではないという現実も承知していますが、難病対策要綱がつくられて以来40年を経て、初めて抜本的な新しい難病対策の実現への道筋が見えてきたという、このチャンスを大切にしたい。ここで、ぜひ医療費助成の義務的経費化を含む総合的な難病対策の法制化を実現し、教育も含めた社会サービスを難病患者が受けられるように働きかけていきたいと考えています。行政や国会、医療関係者はもちろん、創薬に携わる企業や研究者と結びつけるなど、JPAには当事者団体としての大きな役割があると認識しています。

新しい難病対策は、国会への法案提出に向けて準備が進んでいます。難病対策委員会の「提言」にあるように、難病は社会全体で支え、医療全体で考えていかなければならないものです。

私たちの活動は、難病のためだけのものではなく、それによって社会全体の仕組みを誰もが生活しやすいようにするための、意義ある活動と考えています。専門医や患者団体代表も含めて真摯に検討されてきた「提言」の実現に向けて、JPAとしても多くの患者団体や各関係者と協力しながら、その具体化と残された課題の解決に向けて取り組んでいきたいと思います。

取材を終えて
まねきねこの視点

勉強会や水谷さんのお話からも、抜本的な新しい難病対策の実現に向けて、JPAや患者団体、研究者や医療者、厚生労働省がお互い理解し合い、歩み寄りながら、制度改革に向けての準備を進めてきたことが強く感じられました。障害者総合支援法の施行により、難病患者にとって福祉面での課題もより明らかになっていくと考えられます。枠組みづくりから実現へ向けて進み出した新しい難病対策の行方を、私たちも期待を持ちつつ見守っていきたいと思います。