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「社会資源としてのピアサポート」をテーマに信頼される
患者団体を考えるワークショップを開催

「社会資源としてのピアサポート」をテーマに信頼される患者団体を考えるワークショップを開催

2013年10月26日・27日、東京のファイザー株式会社アポロ・ラーニングセンターで、第13回ヘルスケア関連団体ワークショップが開催されました。昨年のテーマ「『共に』〜ピアサポートの未来〜」を踏襲し、どのような仕組み・工夫があればピアサポートが社会資源となり得るのか、全国からヘルスケア関連団体のリーダー、医療関係者が集い、熱い議論が繰り広げられました。

今年のテーマ「社会資源としてのピアサポート」

昨年のワークショップでは、ヘルスケア関連団体が行っているさまざまなピアサポートについて整理をし、その活動の多くはピアサポートに結びついていることを確認しました。今年は、各団体のピアサポートを「社会資源」の一つとして位置づけ、どうすれば医療関係者・行政・一般市民から信頼を得られる活動ができるのかということを考えていくためにテーマを設定。代表的なピアサポートである「相談」「交流会」「会報誌」の3つの題材を中心に、さまざまな問題の解決策を話し合う中から、社会資源としてのピアサポートを探求していく作業が進められました。

第1日目
患者団体と医療者とのより良い関係をテーマに3人が講演

「大型台風が関東を直撃かという悪天候の中、全国各地から参加者ほぼ全員が到着され、無事開催できたことを何よりうれしく思います」というファイザー株式会社 梅田一郎代表取締役社長の歓迎の挨拶で、今年のワークショップがスタート。この1年間のVHO-net事業報告では、各地域学習会の活動や、新しく動き始めた「信頼されるピアサポートプロジェクト」の概要が紹介されました。その後、今回のテーマをふまえ、患者団体のリーダー・医療関係者3名による基調講演が行われました。続いて、ワークショップ準備委員会より医療者を対象に実施したアンケートの結果報告がありました。調査目的は“患者支援で連携しなければいけない医療者は、ヘルスケア関連団体のピアサポートをどのように理解しているかを明らかにすること”です。「精神面のサポートに対しては貢献度・期待度が高い」「病気、障がいを社会に知ってもらう活動に期待が大きい」「医療本来の領域に対しては貢献度・期待度は低い」といった結果のまとめが報告されました。このアンケート結果も材料の一つとして、午後から9グループに分かれての分科会がスタートしました。

第2日目
まとめ発表から全体討論へ活発な意見交換

第2日目は、各グループのまとめ発表が行われました。短い持ち時間の中で、文章やアイキャッチ効果などに工夫を凝らした発表内容や、質疑応答への回答などから、発表に至るまでの熱い議論、充実した時間が伝わってきました。全体討論の後、VHO-net の今後の活動については、会場から「メンバー内でのメーリングリストのような情報交換の仕組みがほしい」「災害時対応の取り組みをテーマにしたらどうか」などの意見が出ました。ワークショップの初参加者からは「いろいろな意見を自分の会に持ち帰り実行したい」「疾患を越えた横のつながりづくりに感動した」「社会に必要とされる患者団体をどう構築していくか真剣に考えていきたい」などの声が寄せられ、有意義な2日間のプログラムを終了しました。

基調講演
医療者とともに取り組むピアサポートへ

NPO法人 MSキャビン 中田 郷子 さん
多発性硬化症(MS)の患者と家族に対し、ピアサポートの柱として電話やメールでの「相談」業務を行っているMSキャビン。パソコンで独自のサポートツールを使い、相談内容を記録して団体内で共有。相談数の多い問題には情報誌で特集を組むなどして情報を提供しています。「そもそも相談の少ない社会になるのが良いわけで、相談を減らすために私たちができることを考えるようになった」と自らもMS患者である中田さんは語ります。

2011年に新薬が発売され、その利点や欠点について、患者、家族、医師らから情報を集め記録を取っている中で、薬との因果関係がはっきりとしないながらも国内初の死亡例が発生しました。中田さんは、「その時点でヘルスケア関連団体からの情報提供は患者の視点からだけでは無理だと判断し、2013年、5人の専門医にMSキャビンの役員へ加わっていただいた。まずはメーリングリストを活用し情報交換をしていく中で、医師はこういう風に考えるのだ、患者はそう思っているのかという、お互いの気づきがあった」と語りました。

新しい体制になり、患者と医師の視点を併せ持った形での情報収集を行い、情報提供に関してはより慎重になったとのこと。その一方で、「情報の提供先を患者だけでなく全国の神経内科専門医にも広げていければ、研究の新たな視点へとつながるのではないか」と語りました。「医師も含めMSにかかわる人みんながピアサポートに参加していけるのではと、最近思うようになった」と結び、社会的に必要とされる団体の一つのスタイルを示唆した講演となりました。

医療者側から見た患者団体の役割

東京女子医科大学八千代医療センター 大橋 高志 さん
多発性硬化症(MS)の専門医の大橋さんは、MSキャビンとの連携を通した、医療者と患者団体との良好な関係づくりをテーマに講演しました。

2001年の出会いから、さまざまな地域での講演会やセミナー、フォーラムなどへの参加・協力をはじめ、情報誌の編集委員として執筆・監修を行い、2013年にはMSキャビンの役員にもなっています。 大橋さんは、「患者さんにとってまず大事なことは病気をよく知ること。でも診察室では病気の説明に十分な時間が取れないので、MSキャビンのパンフレットや情報誌を手渡し勉強してもらう。患者さんの理解が早く、医療者にとっても好都合であり、治療をスムーズに進めることができる」、さらに「MSキャビンは私にとって患者さんとの間を取り持ってくれる存在。医師は自分の病院に来る患者さんしか診察できないが、団体を通じて多くの患者さんとの距離を縮めることができる。医師に相談しにくいことはMSキャビンに相談し、こちらにつないでもらう一方で、私たちもまた団体を通じて情報が提供できる場合もある」と語り、患者・家族、患者団体、医療者、さらにコメディカル、行政、福祉、企業のネットワークをうまくつなげれば、より良い医療が提供できることを提示しました。実際に、薬との因果関係が確立されていないものの、懸念される事象をMSキャビンで共有することによって成功した事例が紹介されました。

最後に、大橋さんが患者団体に期待することとして、医療者にはなれない貴重な相談窓口となること、専門医の監修つきの正確な情報提供、より良い医療を受けるための「患者学」教育などを挙げ、その役割の重要性を伝えました。

ピアサポートを社会資源にするための標準化作業

聖マリアンナ医科大学救急医学教室 教授 箕輪 良行 さん
2005年からワークショップに参加し、VHO-net と深くかかわってきた箕輪さん。「社会資源というスタンスでピアサポートを確立していくためにどうすれば良いのか」を主題に、まずはピアサポートとはなにかを明確にするため、医療者が実際に使っている、現場の情報を価値として共有していくための手法をいくつか説明しました。たとえば、“科学的認識は現象論・実体論・本質論の3段階を経ながら発展する”という「武谷三段階論」にピアサポートを当てはめると、最初の現象論的段階では、患者団体やVHO-net に参加することで力がもらえたと実感し、人にも紹介したいと考える。次に実体論的段階では、電話相談や講演会、会報誌発行などに携わる。そして本質論的段階では、ピアサポートにより生きる力をさらに高め、力をもらうために人とつながるというように、ピアサポートというものを理解していくことができると箕輪さんは説明しました。

続いて、ピアサポートを社会資源として活用していくためには、個人や団体間での知識や情報のばらつきを整理し、だれもが理解・共有しやすく、同時にピアサポートを説明する道具となるような「標準化」という作業が必要であると話しました。その好例として、日本オストミー協会の作成した『オストミーピアサポーター オストミービジターテキスト』を挙げ、ピアサポートの構造、定義、組織の中での義務や役割が明確になり、全体像が次第に標準化されていった事例として紹介しました。

さらに、岩手県の一関市国民健康保険藤沢病院の20年の歩みの事例を取り上げ、「これからの医療は患者自身が自分の人生を生き、医療者はサポートやコーチに徹する“自己管理型モデル”が中心になっていくと考えている。そのために、医療者と患者が思いを共有するための概念の標準化は不可欠である。患者団体やVHO-net という独自の活動の中から、それが生まれてくるのが最適だと思っている」と結びました。