難病のある人の就職×職場定着支援 公開フォーラム
難病患者の就労について、患者と研究者、支援者さまざまな分野の人たちが一堂に会して考える
2015年11月3日、東京交通会館で「患者と支援者、みんなで考える 難病のある人の就職×職場定着支援 公開フォーラム」(主催:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難病患者への支援体制に関する研究班」)が開催されました。
フォーラムでは、文京学院大学 教授の松為信雄さん、(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA)の伊藤たておさんを座長に、まず、労働・障害者雇用分野の調査研究、福祉系就労支援研究班、産業保健分野研究班、医療従事者向け研修研究(西澤班)の発表が行われました。次に、実際に就労支援にかかわるハローワークの職員や、難病患者就職サポーターと連携する労働局職員、難病相談支援センターの相談員による事例報告を含めた発表と、参加者を含めた全体ディスカッションが行われました。
総括として、松為さんは「就労支援にかかわる機関の連携が重要。顔が見える関係のネットワークをつくって、就労支援に活かしてほしい」、伊藤さんは「難病対策がここまで進んだと感慨深いが、厳しい道のりではあるので、未来を信じつつ、これからも今回のような取り組みを続けていきたい」と締めくくりました。
参加者を交えての熱のこもった話し合いも印象的で、障害者総合支援法で難病患者も障がい者として位置づけられたこと、また2015年4月の難病法施行や、2016年4月から障害者差別解消法が施行予定であることなどを受け、難病患者の就労支援を充実させたいという機運が高まっていることが伝わってくるフォーラムでした。
フォーラムでの発表やディスカッションから、就労支援の研究や実践にかかわるみなさんの意見や提案をご紹介します
労働・障害者雇用分野の調査研究から
春名 由一郎 さん(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター)
難病による就労の困難性をふまえた効果的な就労支援をテーマとした調査研究を実施。多くの難病患者は、適切な仕事とのマッチングや、職場の理解や配慮が不十分なために、難病の症状が悪化し、仕事が続けにくくなっている。障害認定対象外の人の多くが、慢性疾患への理解のなさという社会的障壁により、困難を経験。難病患者は健常者と障がい者への支援の間で谷間となりやすい。難病患者の就労支援は、共生社会への試金石。治療と仕事の両立を支える、医療・福祉・就労の縦割りを越えた、本人中心の支援が必要。支援者のスキルアップを次の課題としたい。
福祉系就労支援研究班から
深津 玲子 さん(国立障害者リハビリテーションセンター)
「難病のある人の就労系福祉サービスの利用実態:現状と今後の課題」として、就労系福祉サービス事業所の利用実態調査、難病のある人の就労支援ニーズに関する調査を実施。難病患者も対象となることで、福祉系就労支援が進化する可能性があると期待している。
身体障害者手帳は5・6級など低い等級でも法定雇用率などでメリットが受けられる。特定疾患の指定の際に、障害年金や身体障害者手帳についてもガイダンスできれば良いのではないか。
難病を含む障がいは特別なことではなく、誰でも経験する可能性がある。すでに合理的配慮※がある程度行われている環境で教育を受けてきた世代が労働するようになると、職場環境も大きく変わるのではないかと期待している。
産業保健分野研究班から
和田 耕治 さん(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター)
産業医の難病患者の就労支援における役割について調査研究を実施。難病患者の主治医に産業医の役割を知ってもらうことが課題。
江口 尚 さん(北里大学医学部公衆衛生学)
「職域における中途障害者の実態調査とそれに基づく関係者間の望ましい連携のあり方に関する研究」での調査結果を発表。難病患者をはじめ、働き方に制約をもった労働者が働きやすい職場は、だれにとっても働きやすい職場となるはず。できるだけ多くの労働者が働きやすい職場風土の醸成が求められる。メンタルヘルス分野で行われている、産業医と主治医が連携するシステムを難病患者の就労についても活かしたい。産業保健の場では、合理的配慮※が周知されていない面がある。産業保健職の立場から積極的に情報発信し、偏見や差別の解消に向けて努力したい。
医療従事者向け研修研究(西澤班)から
伊藤 美千代 さん(東京医療保健大学看護学科)
難病患者と就労相談・支援担当者が一緒に進める、難病のある人の就労のためのワークブックを作成。患者本人が自分の症状や健康を管理する能力、支援者や制度へのアクセス能力、病気による制約を説明する能力などの、ヘルスマネージメント能力の向上も目指す。
法改正により準備は整ってきた。各領域における就労支援研究結果の蓄積から、効果的な就労支援法も提案されているので、連携の仕組みをつくり、機能させていくことが課題。成功事例の蓄積と公表が重要。医療の立場から、どのようにかかわっていけるか考えていきたい。難病というくくりを外しても、一般の若者が夢をもちにくい時代。大変だと思うが、多様な分野の方々とつながり、ネットワークをクモの巣のように張り巡らせ、発展させていけるよう努力していきたい。
堀越 由紀子 さん(東海大学)
難病患者のための医療・生活・就労の統合的支援のための専門職研修プログラム開発の課題として、医療ソーシャルワーカー(MSW)研修について研究を実施。医療機関、難病相談・支援センター、労働専門職の連携体制による患者と職場への支援が必要。病院側のスタッフとしてMSWは期待されているのに、十分に機能していないと考えられるので、啓発的な研修が必要。
就労支援の現場から
難病患者就職サポーター事業について
萩生田 義昭 さん(ハローワーク渋谷)
今年度から全都道府県に設置された難病患者就職サポーターの支援事例として、ハローワーク渋谷における難病患者の就労支援について紹介。サポーターは機能し始めたところだが、成果も上がっている。難病による障がいがあるのに、身体障害者手帳を取得していない人も多い。医療機関、難病患者就職サポーターが中心となって難病患者を支えていかなければならないと実感している。
ハローワークの活動の現状と課題
市岡 雄志 さん(岐阜労働局職業安定部 職業対策課/難病患者)
難病のある人の就労支援について、ハローワークとしては、企業の担当者へのアピール方法などを工夫し、門戸を開いてもらえるような伝え方を心がけている。職場への定着率が悪いために、企業側が雇用を控える面もある。就職はあくまでもスタートで、その後、定着して働き続けられるような支援が重要と考える。
難病相談・支援センターの概要
川尻 洋美 さん(群馬県難病相談支援センター 相談支援員)
難病相談・支援センターにおける就労支援、難病患者就職サポーターとの連携について紹介。難病患者の就労には、個々の障がい特性に応じたきめ細やかな相談支援と、医療・福祉関係機関と連携した支援が必要。2014年に制定された難病法により、難病相談・支援センターにおける就労支援は重要とされているが、その役割は明確にされていない。難病患者就職サポーターとどのように連携していくかが課題である。
命の灯火を見つめているような人には、早急な支援が必要。成功事例、困難事例を検討し、こうした多職種のネットワークで考えていくことが大切。
患者団体の立場から、フォーラムについての感想をお聞きしました。
水谷 幸司 さん(一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会(JPA) 事務局長)
難病対策の見直しの中で、医療・労働・福祉の分野での難病患者の就労支援に関する調査研究が行われてきました。それぞれの研究にJPAがかかわり、各分野でも他分野との情報共有の必要性を求める声があったことから、今回のフォーラムが実現しました。特に、産業保健分野の参加は今までになかったことでした。2016年4月の障害者差別解消法の施行に向けて雇用者側の関心も高まる中で、このフォーラムが実現したことには大きな意義があるでしょう。医療・福祉・労働の各分野での研究成果を重ねることで、実像が見え、本当に必要な支援の形が見えてくると期待しています。私たちも、今回学んだことを活かして、就労支援への取り組みを強化し、社会に対しての問題提起も行っていきたいと考えています。