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倫理的連携のためのコンセンサス・フレームワーク 「日本における倫理的連携のためのコンセンサス・フレームワーク」への署名が行われました。

APECにおいて、患者団体代表、医療関係団体、製薬・医療機器団体、厚生労働省などが参加して署名を行う
倫理的連携のためのコンセンサス・フレームワーク

2018年7月18日~20日、東京アメリカンクラブ(東京都港区)において開催された「2018APEC ビジネス・エシックス・フォーラム(東京会議)」において、「日本における倫理的連携のためのコンセンサス・フレームワーク」への署名が行われました。調印式には(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA)、(一社)全国がん患者団体連合会、( 公社)日本看護協会、(公社)日本医師会、(公社)日本薬剤師会、日本製薬団体連合会、(一社)日本医療機器産業連合会、厚生労働省の8 団体が参加しました。

世界でも初めて。患者団体代表が加わったコンセンサス・フレームワークが実現

患者団体代表として署名を行ったJPAの森幸子さんは、「私たち多くの患者が願う難病の克服のために、医療機関などさまざまな関係機関と連携し、さらに積極的に医療や研究などに参加していきたい」と挨拶。同じく患者団体代表の全国がん患者団体連合会の天野慎介さんは「患者と医療者、多くの方々が立場を越えて連携することで、一人でも多くの命が救われることを祈っている」と述べました。

日本製薬工業協会 常務理事 田中 徳雄 さん
日本で医療にかかわる幅広いステークホルダー(利害関係者)が、共通の倫理原則に合意するのは初めてのことで、またその場に患者団体代表が加わることも、画期的なこととして注目されています。

そこで、日本製薬工業協会(製薬協)常務理事として、日本におけるコンセンサス・フレームワークの実現に取り組まれてきた田中徳雄さんに、コンセンサス・フレームワークの概要や今回の署名の意義、今後の展望などについてお話を伺いました。

まず、APECビジネス・エシックス・フォーラムについて教えてください

APEC(アジア太平洋経済協力会議)が策定した倫理原則を普及させるために、APEC各国の患者団体・医療関係者・製薬団体関係者・医療機器団体関係者・行政関係者・企業が一堂に集まり開催されている会合です。

APECの倫理原則はAPECに加盟するアジア環太平洋地域の21の国と地域によって承認された自主的な規範で、患者さんを最優先するための、企業と医療関係者の適切な交流について規定されています。企業だけが遵守するのではなく、医療関係者や行政と協力して共通理解のもとに普及することを目指しています。

コンセンサス・フレームワークにはどのような団体が加盟していますか

世界レベルのコンセンサス・フレームワークは、国際患者団体連合(IAPO)、国際看護師協会(ICN)、国際製薬団体連合会(IFPMA)、国際薬剤師・薬学連合(FIP)および世界医師会(WMA)の5つの支持団体で策定されました。現在は、国際病院連盟(IHF)および国際ジェネリック医薬品連盟(IGPA)も支持を表明しています。 国レベルのコンセンサス・フレームワークの加盟団体は、国ごとに異なりますが、基本的には世界レベルの加盟団体の下部組織(国レベル)で構成されています。

コンセンサス・フレームワークはなぜつくられたのですか

患者さんの医療ニーズに対する最善の治療法、そして医薬品に対する最新情報を提供するためには、患者さん、医療関係者、製薬業界、および各関係組織間が、世界中の患者さんへ質の高い医療を提供するという共通の意識をもつことが必要です。
そこで患者さんに対し、最適な治療を確実に提供するために、各団体が専門家としての役割と責任を果たし、患者さんに最大限の利益をもたらすよう努め、また世界規模で倫理的な交流を推進していくためにつくられた文書がコンセンサス・フレームワークです。
そして、今回、このコンセンサス・フレームワークをベースとして策定されたのが、「日本における倫理的連携のためのコンセンサス・フレームワーク」です。

今回の署名によりどのような医療の変化や発展が期待できますか

4つの原則の中で、最も重要なのは「患者さんを最優先とする」ことです。今までもその考えで活動してきましたが、アメリカで臨床試験に参加したゲルシンガーさんが被害に遭われた事件※のように、すべては患者さんのためにと思いながら、ともすれば倫理観の欠如が大きな問題を引き起こしたこともありました。改めてすべての関係者に「患者さん最優先」を示し、理解を深めて活動することで、よりよい医療を提供できるようになると確信しています。

コンセンサス・フレームワークの基本的な内容を教えてください

コンセンサス・フレームワークは患者利益の最大化を目的に、「患者さんを最優先とする」「倫理的な研究と技術の革新を支持する」「中立性と倫理的な行動を保証する」「透明性の確保と説明責任を推進する」という4つの原則で構成されています(図)。
そして、世界中の患者さんに対して最適な医療を確実に届けるためには、すべてのステークホルダー間の連携が不可欠であり、これをいっそう推進していくため、倫理的で透明性の高い交流を行う必要があることを宣言しています。

患者団体代表である森幸子さんと天野慎介さんが参加されたことの意義をどうとらえていますか

これまでにコンセンサス・フレームワークに同意、署名された他の国でも、患者団体代表がその場に同席し署名をしたケースはありませんでした。今回、患者団体代表が初めて参加し、コンセンサス・フレームワークに同意している国際5団体の下部組織と行政までがすべて参加し署名を行ったことは、今後、コンセンサス・フレームワークを進めていく世界中の国々にとって模範事例になると考えています。

今後のコンセンサス・フレームワークに関する計画や展望について教えてください

コンセンサス・フレームワークに署名することがゴールではなく、スタートです。今回のコンセンサス・フレームワークの最後の一文は「すべてのパートナーが参加する定期的な会議の開催を提案します」としています。具体的には、実務者の集まりで、各団体の倫理に関する取り決めや活動状況、コンセンサス・フレームワーク署名後の活動の振り返り、さらには来年のAPECに向けての行動などの確認を予定しています。また今回、署名した団体以外にも興味をもっていただける団体への参加の呼びかけなど、積極的に広めていきたいと考えています。

コンセンサス・フレームワークを推進されてきた立場から日本の患者さんやヘルスケア関連団体の皆さんへのメッセージをお願いします

医学、医療技術は日進月歩です。当然、さらに高い倫理観が求められています。お互いの立場を理解し、正しい倫理的連携を進めることで、すべての患者さんに最適な医療をお届けできると信じています。私たちの活動を一人でも多くの団体や患者さんに知っていただくことで、この目標は達成できるものと考えています。

各ステークホルダーはそれぞれ異なる方針やルールをもっていますが、「患者さん最優先」という共通の倫理原則ではすべての団体が一致しています。この共通の目標を各団体が理解し、社会から信頼されるステークホルダー間の交流を行っていくことが、日本の医療に対するさらなる信頼向上につながり、ひいては患者さんの最善の治療につながると考えています。

まねきねこの目 まねきねこの目 医療が高度化・複雑化する中で、質の高い治療を患者が受けるためには、医療にかかわるステークホルダーであるヘルスケア関連団体、医療関係者、企業、行政の協力関係がますます重要になってきています。まねきねこでは、今後もヘルスケア関連団体の活動を支援する立場から、コンセンサス・フレームワークの取り組みやその影響・効果について注目していきたいと考えています。

※ゲルシンガーさん事件
1999年ペンシルバニア大学医学部研究所における遺伝子治療臨床試験で治療法の危険性が十分に知らされず、被験者ジェシー・ゲルシンガーさんが死亡した事件。