第18回ヘルスケア関連団体ワークショップ
「目的を達成するための新たな資金調達」自分たちの活動について見つめ直し新たな一歩を踏み出すために、財政基盤の強化を考える
2018年10月20・21日、東京のファイザー株式会社アポロ・ラーニングセンターで、第18回ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会のワークショップが開催されました。今回は「目的を達成するための新たな資金調達」をテーマに、資金調達(ファンドレイジング)経験者の講演や、ヘルスケア関連団体の財政基盤の強化について考えを深める議論が行われました。
開会の挨拶として中央世話人の山根則子さん((公社)日本オストミー協会 横浜市支部)は、「VHO-net は参加者の主体性を大切にして語り合い、自分たち以外の病気や疾病のことを知り、他の団体の運営方法や活動を知ることによって、所属団体の活動をよりよくする発想を得る場です。新しい発想で、新たなモデルを創出し実践していくことで、各団体の活動領域を広げることもできると思います。たくさんの気づきと元気を持ち帰り、それぞれの団体の活動が活性化することを願っています」と述べました。続いてファイザー株式会社 代表取締役社長 原田明久氏が「団体が存続するために財政基盤は重要です。多くの学びを得て、実りあるワークショップとしてください。そして、ぜひ大学の研究者や製薬企業の開発部門と交流し、お互いの理解を深めていただきたい。それが次の世代へのゴールにつながると思います」と歓迎の挨拶を述べました。その後、基調講演、グループに分かれての分科会、翌日はまとめの発表、全体討論などが行われました。VHO-netとして財政基盤をテーマに取り上げるのは初めての試みでしたが、さまざまな場面で活発な議論が繰り広げられ、目的を達成するために資金調達を真正面から考えようという意気込みの感じられる2日間となりました。
基調講演1
目的を達成するための資金調達
Madison4Kids創設メンバー (Founding Board Member)
Tazuko Ferguson (タズコ・ファーガソン)さん
■プロフィール
学生時代に渡米。結婚後、原因不明の身体の痛みに悩まされ、車椅子生活となり、その後リウマチと診断され治療を受けて回復。同じように診断がつかず困っている人を助けたいとArthritis Foundation(関節炎財団)でのボランティア活動に取り組み、数々の賞を受賞。最近は活動の場を広げ、地元の子どもたちのためにMadison4Kidsを
創設。VHO-netには結成時から協力し、ワークショップに初回から参加している。
・笑顔を忘れず常にポジティブに取り組む
私は、さまざまな資金調達の取り組みにより、資金を得て活動してきました。まず、地元のウィスコンシン州知事に寄付をお願いし、承諾を得ました。こうした場合、口約束だけでなく、面会後に確認の手紙を送ることが大切です。勤務先の銀行のCEOや、州議会議員にも支援を求めて成功しました。資金調達の鍵は、関係性を築き、維持し、心を通わせることです。大規模なイベントの場合は、近隣の企業や店を訪問して寄付をお願いします。最初はほとんど断られましたが、毎年続けているとやがて寄付をしてもらえるようになり、30年続けると私の顔を見ただけでわかってもらえるようになりました。断られても〝ビッグスマイル〞を心がけ、信頼関係が構築できるまで諦めないこと、終了後に改めて支援者に感謝の気持ちを伝えることが大切です。
イベントは、他と差別化するような工夫も必要です。たとえばマラソンイベントは夏に多いので、あえて冬に、ジングルベル・ランとして行っています。資金調達の活動をする中で、シャイだった私が人前で話せるようになりました。活動も広がり、東日本大震災では津波被害を受けた地域に寄付を行い、また、米国ウィスコンシン州では地元の子ども達への支援を目的として、Madison4Kids(慈善団体)を創設しました。自分の病気から始まった活動は、家族に支えられ、多くの方々の笑顔が原動力となり、広がっていきました。目的を達成するための資金調達は恥ずかしいことではありません。ポジティブに考えてほしい。アメリカと日本では法律や制度の違いもありますが、私の経験を参考にしてください。私ができたことは、きっと皆さんにもできると思います。ともに頑張りましょう。
資金調達のための取り組み例
●ライブオークションとワインテイスティング
●サイレントオークションテーブル(地元企業から寄せられた品のオークション)
●ジングルベル・ラン/ウォーク
● ゴルフイベント などの開催
基調講演2
“不治の病”を“治る病”にするファンドレイジング 2025年の1型糖尿病根治の祝杯を目指して
認定NPO法人 日本IDDMネットワーク 副理事長兼事務局長 岩永 幸三 さん
■プロフィール
1型糖尿病の佐賀県患者・家族会代表を経て、日本IDDMネットワークに参加。2000年のNPO法人化を主導し、事務局を佐賀市へ移す。事務局責任者として、全国初の都道府県認定の認定NPO法人に導き、ふるさと納税をはじめさまざまな寄付メニューを用意し、1型糖尿病の根絶を目指して研究助成に取り組む。
・経営者の意識をもちミッションの達成を目指す
私たちは、〝2025年に1型糖尿病を「治らない」病気から「治る」病気にすること〞を目標としています。患者の多様なニーズに私たちがすべて対応することは不可能ですから、すべてを解決するために、1型糖尿病の根治を目標としているのです。
私たちの活動の柱となるのは、患者・家族に対して〝救う・つなぐ・解決する〞ことです。
〝救う〞は情報提供誌の発行や、発症初期の方に必要な情報を届ける「希望のバッグ」の提供です。〝つなぐ〞としては企業や医療者と、患者・家族をつなぐのは私たちの役割と考え、企業との協働で商品開発なども行っています。〝解決する〞については、2005年に1型糖尿病の根治に向けた研究開発の促進・支援の基金を立ち上げました。
佐賀県のふるさと納税を利用できるようになってからさらに資金が集まるようになり、現在までに2億5460万円(48
件)の研究助成を行っています(2018年9月末時点)。日本には寄付文化がないと言われますが、寄付税制は世界最高水準であり、訴え方の工夫や、寄付金の使途や目的を明確にし、情報発信をして信頼される団体となることで、寄付は集まるようになると考えています。またNPOなどの非営利組織で稼ぐべきではないという考え方がありますが、利益を出して新たな活動に循環させることは、NPO法の理念にもかないます。私たちはセミナーなどのイベントは原則有償とし、価値に見合うサービスの提供を心がけています。そして寄付の場合は、成果を出してこそ寄付者の方々の思いに応えることができるので、当団体の役員は経営者という意識、ミッションを完結させるために活動しているのだという意識をもつよう厳しく言っています。
課題は、次世代を育て、活動を継続させていくこと。また財政基盤が寄付金に偏っているので、今後は事業収入を増やしバランスをとりたいと考え、マーケティングの専門家を招聘し、新たなファンドレイジングも模索しています。「患者に治る未来を届け、注射のない世界をつくる」という目標を達成するために、人材と資金には貪欲でありたい。資金調達に関して、失敗もたくさんありましたが、失敗から学んだことを行動につなげていけばよいと思っています。私たちの経験が皆さんのお役に立てば幸いです。
● 認定NPO法人化(寄付者に税制優遇措置有)
● 情報提供誌・絵本の発行
● 各種セミナーの開催
● 佐賀県 日本IDDMネットワーク指定ふるさと納税
●クラウドファンディング
● 研究推進寄付つき商品の開発
●ノーモア注射マンスリーサポーター(1口1000円継続寄付)
● 遺産寄付 など
分科会 & グループ発表
資金調達について新たなモデルを創出し 実践へとつなぐ手法を探る
インパクトのある基調講演を受けて、5グループでの分科会が2日間にわたり行われました。まず分科会開始に当たり、ワークショップ準備委員会によるテーマ決定までの経緯、近年の国内外の寄付動向、団体・個人として資金調達のために何を大切にするべきか、その理念や実務についての説明がありました。さらに今回のテーマでは、会費、助成金、行政からの委託は除外して議論すること、資金調達の阻害要因を抽出し、克服方法を考える、各グループにはテーマが与えられ、参加者の体験や知識、情報、アイデアを駆使した具体的なプランづくりなど、刺激的な議論が繰り広げられました。グループ発表での内容の要約をリポートします。
グループ1/テーマ:社会啓発+本の出版
目標金額 1,000万円(2 年後に出版)
目的:社会にVHO-netを知ってもらおう!
●媒体は「漫画エッセイ」紙&電子書籍
●資金集めリーダー1名 その他全員が資金集めに参加
●クラウドファンディングによる先行予約、出版への投資の呼びかけ
●有名人を招致したイベント企画
●レストランでの飲食チケットやグッズのオークション販売
●遺産の寄贈を呼びかける
資金調達:スマイル、あきらめない、Thank you!
●信用力をつけ、戦略を立てる
●人脈を大切にし、メディアを活用する
●寄付を断られてもスマイル、あきらめない
●手応えを感じたらつながる。チャンスを逃さない
●寄付者に必ず活動報告を行う。お礼は最も重要
グループ2/テーマ:継続的な居場所づくり+安定的な事務運営
目標金額 2,000万円(2ヶ年)
目的:社会につなげる、中間的な場所づくり
●制度の谷間にある人や、地域で孤立している人を支援
●当事者のためのクローズドな場所、誰もが参加できるオープンな場所の2つの機能をもつ場の設置
●電話相談、食事会、学習・就労支援などの事業展開
●組織化、関係団体への声かけ(ミッションの共有)
●コアメンバーはメーリングリストで情報共有、役割分担
資金調達:さまざまな寄付を募る
●企業訪問(ロータリークラブ、ライオンズクラブ、商工会も含む)
●ホームページでのマンスリーサポーターの呼びかけ(例 : 1,000円/月×12ヶ月×1,000人=1,200万円)
●ハンドメイドのワークショップ、カフェ、料理教室、ヨガ教室の開催
●ボランティアを募り、運営に携わる喜びを実感してもらう
●プロボノ※の協力で、地域に対して魅力ある広報活動の展開
※プロボノ:専門家が自らの専門知識や技能を活かして社会貢献するボランティア活動
グループ3/テーマ:社会啓発+継続的なイベント
目標金額 3,000万円(5 年後の事業規模想定)
目的:災害弱者を支え、尊厳をもって生きていける社会を目指す
●VHO-netの9つの地域学習会をつなぐイベント開催
・災害時のネットワーク構築のためのイベント
・主 催:VHO-net参加団体(82団体)
・具体例: チャリティコンサート、食のイベントなど
・初回開催は2019年、会場は東京国際フォーラム(2日間)( 入場料5,000円・目標収入1億円)
資金調達:他団体との連携で継続できるイベントへ
●クラウドファンディング
●寄付の呼びかけ、企業とのコラボレーション(災害グッズ、備蓄食料、飲料水などの提供依頼)
●イベントはネット中継で、全国の学習会地域をつなぐ
●継続するために、開催地は各学習会地域を巡回
●他団体と連携することで大きな資金調達を目指す
大切なこと Face to face、Smile、Never give up、Thank you
グループ4/テーマ:社会啓発+パンフレット作成・配布
目標金額 100万円
目的:協賛広告やイベントなどでの社会啓発
●企業は、寄付よりも協賛広告の方がメリットがある場合もある
●広報チームをつくり、申請作業などの負担が一人にかからないように
資金調達:団体活動をプレゼンし、寄付を募る手法を探る
●医療公演会での募金箱設置、パンフレットの制作でのプロボノの活用、遺産寄付、香典返しの寄付先になる、医療専門職向けの動画を作成し有料で提供する、など
●企画プレゼンイベントの開催。起業家がプレゼンし、投資家がそれに応じる、シリコンバレーでの「Pitch(ピッチ)」に注目。ヘルスケア関連団体がプレゼンし、寄付者を募る型式を採用
●MED Japan(公募で医療関係者らが自薦のプレゼンを行い、動画を公開し、寄付を募る手法)の活用。ヘルスケア関連団体も参加し、寄付、団体のピーアールを行う
●いずれもプレゼンテーター養成の必要があるため、VHO-netでプロジェクトチームをつくりたい
グループ5/テーマ:社会啓発+研修会
目標金額 100万円
目的:到達可能な目標を探そう!
●今、なにをすべきか目の前の目標を定める
●疾患特性、地域性、社会や会員のニーズをキャッチ
●到達可能な中長期目標をもとう
●目指すゴールを、団体の皆で共有
資金調達:大きく稼ぐ、地道に稼ぐの二刀流で!
●大きく稼ぐ
●イベント+研修会の開催(参加費収入が見込める内容の研修会やチケットが売れるイベントの開催)
●パンフレットでの広告収入(地域の店舗のクーポン券なども含む)
●会場への募金箱設置、クラウドファンディング
●イベントの具体例:ワインと料理、そば打ち、ウォーキング、有名人(くまもんなど)の招致、複数団体での開催など
●地道に稼ぐ
●関心を引く募金箱を設置、ポイントカードの端数を募金してもらう、ホームページの寄付金クリックの工夫、定期的なバザーやオークションの開催(地域メディアを使っての広報活動)、香典返しの寄付先になる
全体討論
共感、気づき、決意表明…。全体討論 次々と挙手のある熱く前向きな全体討論となりました。
すぐに実践したいこと 検討する課題への気づき−ワークショップでの成果
基調講演を受けての感想では、日本IDDMネットワークの「治らない病気から治る病気にする」というスローガンや、タズコ・ファーガソンさんの「スマイル、あきらめない」という揺るがない意志や姿勢に共感を受けたという発言が多くありました。「自分の団体では、ミッションを明確な言葉で表現できていない。長年活動している仲間と同じゴールに向かえているのか。そんな思いを持ち帰りたい」「少数の会員だから無理と思っていたが、一人でも二人でも活動できることはある。新しい資金調達に取り組みたい」「岩永さんの講演で、“寄付のお願いをしていますか?”という言葉に胸を突かれた。すぐにできることがある。着手したい」という意見が出ました。
分科会ではグループごとにテーマ設定や資金調達の目標金額が提示されましたが、それを進めていくうえでのプロセスの大切さも検討されました。共感できる仲間をどのように集め、団体の役員をどう説得していくか。「同じ目標、ゴールが共有できていないと、先には進めない」「全国に役員が点在しているが、web 会議システムを採用し、意見が揃いやすくなった」「団体発足当時は当事者同士の目標に向かって活動していたが、事業が体系化しNPO法人となり外部役員も入るようになった。活動の規模に応じて変化している」と、各団体の現状や変遷が語られました。
資金調達については、自分の団体に持ち帰り「これをやります ! 」という決意表明を募りました。会場からは即座に数名の挙手があり、「大学の学園祭でブースを借りバザーをします。団体のパネル展示をして啓発活動を行い、学生やサークルも巻き込みたい」「地道に企業回りをし、寄付を呼びかける」「北海道の団体なので、ワインやチーズの試飲・試食会をし、寄付を募りたい」「ふるさと納税の使い道の指定先を目指します」など、地域で取り組む具体案も次々と発表されました。
全体を通しての感想では、「自動販売機やポイントカードのポイント寄付など、新しい情報が得られた。やれるところからやりたい」「あきらめないという大きなパワーをいただき、自分なりの目標設定ができた」「発想を切り替えて、自分たちのできる資金調達にチャレンジしていきたい」という、前向きな意思表明がありました。講演やグループワークだけでなく、懇親会、朝食、昼食の時間を通してさまざまな交流、出会いや響き合いがあった、充実した2日間であったことが全体討論を通して伝わってきました。