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多様な立場の人が幅広く参加できる学びの場を創出 PPIの普及や、患者が中心となる医薬品開発に向けて

多様な立場の人が幅広く参加できる学びの場を創出
PPIの普及や、患者が中心となる医薬品開発に向けて

東京大学大学院薬学系研究科<br>ITヘルスケア社会連携講座<br>特任教授 今村 恭子さん 東京大学大学院薬学系研究科
ITヘルスケア社会連携講座
特任教授 今村 恭子さん
日本でも医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI)に対する注目が高まる一方、コロナ禍において、リモートで参加できる「オンライン講座」がさまざまな分野で開かれるようになりました。
そこで今回のトピックスでは、PPIの普及や患者中心の医薬品開発を目指して、オンライン講座も活用しながら“多様な立場の人が参加できる学びの場づくり”に先駆的に取り組んでいる今村恭子さんにお話を伺いました。

医療をテーマに、患者さんや市民が参加できるさまざまな学びの場を運営されていますね。こうした活動に至った経緯を教えてください。

私はもともと整形外科医だったのですが、社会医学的な考え方に興味をもち、ロンドン大学の衛生熱帯医学院などに留学し、帰国後は製薬企業で新薬開発や薬品の製販後の安全性・有効性の調査などにかかわってきました。その中で、ヨーロッパで患者や市民参画を志す団体「EUPATI※」や日本の関係者ともつながり、「患者・市民参画コンソーシアム」設立に発起人として参加し、「(一社)ピー・ピー・アイ・ジャパン(PPI-JAPAN)」の設立にもかかわりました。PPI-JAPANでは、EUPATIの優れたツールを日本に導入する取り組みをはじめ、日本におけるPPIを推進する活動を行っています。
私も自分のフィールドである東京大学大学院の社会連携講座や、2020年に設立した「(一社)医療開発基盤研究所」での取り組みなどを通じてPPIに貢献し、日本に合った患者中心の医薬品開発を実現したいと活動しています。

※EUPATI( European Patients' Academy on Therapeutic Innovation):欧州治療革新患者アカデミー(医薬品の研究開発やその他の関連分野における患者や患者代表のためのトレーニングや教育資料の継続的な開発をしている)

社会連携講座とはどのような講座なのですか

研究室内の様子 研究室内の様子 社会連携講座は、公共性の高い共通の課題について、企業などと共同して研究を実施しようとするものです。
当初、私は、東京大学大学院薬学系研究科の寄付講座を担当していましたが、より持続的に研究を続けていくために社会連携講座へと発展させ、18年11月から3年計画で「ICT利活用による医薬品開発と適正使用のイノベーションにおける研究」を始めました。
研究課題としては、治験や製販後調査・臨床研究で信頼性の高いデータを在宅や遠隔で効率よく収集するための「治験・調査のパラダイムシフト」、薬剤師の育成と全人的なエビデンスに基づく服薬指導を実現する「適正使用のパラダイムシフト」、産官学で必要な活動を支える「患者参加型の医薬品開発の実現」、日本の医療イノベーションの実現を目指す「リアルワールドデータ(RWD)の探索的解析による疾患疫学と医療イノベーションの実現」の4テーマに取り組んでいます。

さらに社会連携講座と並行して、学外でもオンライン講座を始められましたね

東大薬学部でのセミナー 東大薬学部でのセミナー そうです。社会連携講座では、コロナ禍の早期から多様な人が参加できるようにオンラインゼミを始めており、製薬企業や研究者に加えて、患者さんや市民の方も参加されるようになりました。その中で、患者・市民側と製薬企業や研究者の間でもっと共通理解が必要だということを感じたのです。PPIについても、患者・市民側と業界や研究者側では理解が異なっているところがあり、そこを近づけていくためには、長期にわたって社会人向けの学習コースを続けることが必要だと考えました。
そこで、学外に別の組織である(一社)医療開発基盤研究所を立ち上げ、患者・市民と製薬企業・研究者が共通の理解をもつために、医薬品の開発から承認後の処方に至るまでのプロセスについて、体系的に学べる学習コースを開設しました。20年10月から「患者・市民のための人材育成コース」「開発基礎知識コース」「開発専門家コース」がスタートしており、21年からは患者・市民向けの「組織リーダー育成コース」も始める予定です。このコースでは、患者団体の法人化や若手人材の育成、ファンドレイジングなど、活動に役立つ知識をシェアしていきたいと考えています。

こうした活動を通じて、日本で医療におけるPPIを実現するためには、何が課題と感じていますか

PPIについて私が注目しているのは、市民の参画です。患者さんが根本的な治療薬やより良い医療を求めるのは当然ですが、患者さんの意見を医薬品開発に反映するためには、社会全体がそれを認めて運営していくことが必要であり、市民の理解や関心も重要だからです。薬の開発にはお金も時間もかかるようになり、社会的な資源配分の議論が避けられません。病気を治すためには社会資源が必要とされ、それをどう市民社会が賄うかという議論がついて回るので、患者さんはもちろんのこと、もっと広く市民に関心をもって参画してもらう必要があるのです。
しかし、健康な人に当事者意識をもってもらうことは非常に難しいので、学びの場への積極的な参加や、患者団体の活動への市民の参加を促すことが必要と考えています。

患者さん自体もそうですが市民をどう巻き込むかが課題ということですね

そうなんです。欧米と比べると、日本では医薬品開発に対して、患者さんや市民の巻き込み方がとても遅れています。それは、日本は保険医療行政が整備され、患者さんが声高に主張しなくても一定の医療にアクセスできる恵まれた国であることも一因だと思います。しかし、国際的な医薬品開発競争において、日本の市場規模は限られていますから、今後は相応のアピールをしないと、日本の患者さんのニーズをふまえた薬は生まれにくくなると考えられます。
日本の課題解決の決め手となるような新薬をつくっていくプロセスに関して、欧米に追いつくのは大変です。だからこそ、医療に積極的に参画する患者さんと市民を増やしていくことが必要なのです。それには患者団体の果たす役割も大きいので、団体を法人化して組織的・体系的に取り組むことで、より効率的・効果的に活動できる人材を育てていきたい。
そのためにも、これからも参加したい人は誰でも学べる場をつくっていきたいと考えています。

まねきねこの目

さまざまな立場の人に対して、より持続的に学習プログラムを続けるために、学外にも組織を設立して尽力されていることが素晴らしいですね。こうした学びの場を通して、PPIやヘルスケア関連団体の活動が充実することを期待しています。

今村 恭子 さん プロフィール
熊本大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学整形外科を経て、ハーバードメディカルスクール、ロンドン大学留学。帰国後、ファイザー株式会社をはじめ製薬企業に勤務。2012年大阪大学招へい教員として製薬医学教育コースを担当。17年東京大学大学院薬学系研究科寄付講座特任教授、18年同ITヘルスケア社会連携講座特任教授。(一社ACRP - Japan 理事、(一社)医療開発基盤研究所代表理事。