PPI活動を経験したヘルスケア関連団体のリーダーが参加して治験情報の現状と参加への課題を話し合う
2021年6月7日「VHO-net PPIワークショップ」がオンラインで開催されました。今回は、PPI※1(患者・市民参画)の代表的な取り組みである治験をテーマに、日頃からPPIへの関心が高く、ガイドライン作成への協力など、すでに医療参画を経験しているヘルスケア関連団体のリーダーと、治験の情報提供などに携わる企業担当者が参加しました。そこで、「治験情報公開について理解を深めること」を目的としたワークショップの概要と、進行にかかわった皆さんの感想や展望をご紹介します。
※1 PPI:Patient and Public Involvement
治験情報を提供する側と治験に参加する患者が集う
国や製薬企業は、治験をよりスムーズに進めるために、どのような治験が、どこで行われているか、治験情報の公開を推進しています。ワークショップでは、「必要な患者に治験情報が届いているか」「治験に参加するまでの課題は何か」をテーマに発表や議論が行われました。まず、ファイザーR&D合同会社の服部龍司さんが、治験情報の現状と参加への課題について、講演。臨床研究実施計画・研究概要公開システムのjRCT※2などの公的機関や、他の製薬企業の情報公開事例も紹介しました。次に、同社の江坂悦子さんが、治験情報について事前に示した質問のまとめを紹介し、患者側が感じている治験情報に対する課題を共有した後、グループディスカッションが行われました。
※2 jRCT:Japan Registry of Clinical Trialsの略。
治験などの研究情報が掲載されている臨床試験情報登録センターのウェブサイトの1つ(一般からの閲覧可能)
治験情報と治験参加のマッチングに取り組みたい
治験を探している患者さんに確実に情報を届けたいと、当社では治験情報の公開を進めていますが、そこから治験に入られる患者さんはごくわずかで、情報が治験の参加に活かされていないのではないかという思いがありました。
今回の議論を通して、治験に参加してほしい製薬企業側、治験に入りたいという患者さん側にミスマッチがありそうだと感じました。印象に残ったのは、患者さんにとって影響の大きい主治医に治験情報を知らない方が多いこと。正しい情報提供とともに、患者さんと医師に対する継続的なコミュニケーションが必要だと感じました。また、日常生活への支障や、通院の頻度、拘束時間、薬の副作用、治験の進捗状況など具体的な内容も事前にわかると参加しやすいという、患者さんの視点からの意見もあり、ともに話し合った意義があったと思います。患者さんと医師、企業、国が対等な立場で話し合える、そんな機会も必要だと感じました。
治験に対する継続的な啓発活動や、患者や市民の方が正しい情報に確実にアクセスできる治験情報と治験参加のマッチングに取り組みたいと思います。
素晴らしいアイデアもあり有意義な場に
治験について問い合わせることに躊躇を感じるというような本音が聞けたこと、不安を取り除けるような臨床心理士のサポートや、臨床試験の計画がほとんどない希少難病について、患者さんが登録しておくと情報提供するような仕組みなど、素晴らしいアイデアもいただけて、私たちにとっても有意義な場となりました。主治医が治験に後ろ向きだと、患者さんは治験に進めないという関係性は興味深かったですし、スマホやパソコンが使えない方のことも忘れてはいけないと痛感しました。
jRCTについても、一般の方にはわかりにくいところがあると気づき、当社のホームページの中で解説するなど橋渡しのような役割を果たしたいと考えています。
今回、参加された方は、治験やPPIについて造詣も深く、患者参画へ強い思いをもたれた方たちでした。事前課題にも熱心に取り組んでいただき、有意義なワークショップとなったことに感謝しています。
テーマを絞り議論を深める学びの場を創出
VHO-net事務局より
2019年、2020年に開催した「PPI学習会」は、入門編として興味のある人が広く学ぶ場でしたが、今回は、PPIの経験のある方にワークショップという形で参加していただきました。PPIの裾野を広げる学習会と、テーマを絞って議論を深めるワークショップ、どちらも必要だと感じていますし、今回参加された皆さんには、PPIを広めるインフルエンサーになっていただきたいと期待しています。PPIを学びたい、学ばなくてはならないという気持ちをもった患者さんや市民が増えてくるとPPIへの理解も深まることでしょう。ヘルスケア関連団体のリーダーの皆さんには、情報を自ら得て、より研究者や製薬企業と寄り添う形で、未来の治療に対しての積極的な活動に活かしていただきたいと思います。
グループディスカッションの発表から
患者に必要な治験情報が届いているのか
現状の理解
●患者側の治験全体の理解が進んでおらず、主治医から治験の説明があっても正しく理解できていない可能性がある
●治験の仕組みや、治験の情報公開を知らない患者も多い
●患者は自ら求めないと、治験の情報が得られない
現状を改善するために
●患者団体で治験情報の公開場所、治験情報そのものを共有する
●治験案内の登録サイトなど治験情報を必要な人に届ける仕組みをつくる
●患者、患者団体、企業および医療機関が継続的に意見交換の場をもつ
治験に参加するまでの課題
●治験の実施や、医師の理解に地域格差がある
●医療者と患者市民の関係性
●専門用語が理解しづらい
●時間との闘いがある疾患の治験でプラセボ使用は参加へのハードルとなる
●治験のリスク(副作用など)に不安がある
●主治医から治験についてもっと積極的に話してほしい
●IT化でより参加しやすく、物理的な負担が少ない治験ができないか
●治験のリスクや、治験薬の効果などに対する不安を取り除く、臨床心理士などのサポートがほしい
●治療法がなく治験が行われていない疾患では、治験参加の心理的なハードルは低い。治験が開始されるのを望んでいる
当日の参加者(敬称略)
森幸子(一般社団法人 全国膠原病友の会)
照喜名 通(認定NPO法人 アンビシャス)
三原 睦子(認定NPO法人 佐賀県難病支援ネットワーク)
岸 紀子(CMT友の会)
石原 八重子(Fabry NEXT)
岩屋 紀子(難病こどもおとなのピアサポートfamilia)
原口 美貴子(プラダー・ウィリー症候群児・者 親の会「竹の子の会」 東京支部)
ファイザーR&D合同会社
■薬事統括部 今枝 孝行
■クリニカルデベロップメント・クオリティ部 北村 篤嗣
■クリニカル・オペレーション統括部 服部 龍司、辻 智子、福井 謙吾
■クリニカル・リサーチ統括部 江坂 悦子
ファイザー株式会社
■コミュニティ・リレーション部(VHO-net事務局) 喜島 智香子、後藤 慶子